248話「皇王の姉さま」
数日かけて俺たちは皇都へと到着した。そしてその足で仕立て屋へと向かう。
到着するなり店の奥へと連れ込まれた。
「へぇ、これがアズマの国のドレスなのね・・・・・・素敵。」
俺たちの目の前に並べられたのはいわゆる着物と呼ばれる衣装だ。
それぞれの髪色に合わせた着物が用意されている。さらに俺とフラムは結婚しているため、帯は相手の髪色のものになるのだそう。
最終調整が済めば夜会の当日までに皇城へ届けてくれるらしい。
二時間ほど着せ替え人形にされたあと、再び馬車に乗せられて皇都の道を進んでいく。
「次は宿ですか?」
「いえ、夜会の日までは皇城でお泊りいただきます。」
「え・・・・・・お城ですか?」
「はい。如何に皇都の高級宿と言えど、警備の質は皇城に劣りますからな。他に選択肢はありません。」
「それはそうでしょうけど・・・・・・いきなり行って大丈夫なんですか?」
「ご安心ください。早馬で部屋を用意するよう伝えておりますので。」
高級宿でもまだ慣れないのにお城で寝泊まりとか・・・・・・ストレス半端なさそう。
窓から景色を眺めていると、天守閣がゆっくり近づいてくる。
「お城の形も全然違うわね。」
「・・・・・・カッコイイ。」
ウチのお姉ちゃんは気に入ったみたいだ。
「今回は正門から迎え入れてくれるみたいで安心だね。」
「そうね・・・・・・前みたいに肝が冷えるのはこりごりだわ。」
「皆さまは賓客ですから、裏門から迎えるような無礼は致しませんよ。」
正門前で馬車から降ろされハタ外相が門番に声をかけると、あっさりと城内へ通された。
「私は陛下に報告等がありますので、ここからは彼女らが案内いたします。」
ズラリと並んだ侍女たちが俺たちに向かって礼を取る。中々壮観な画だ。
案内されながら城内に目を向けると、兵士や女中たちは粛々と仕事をこなしているが、こちらが歓迎されていないという雰囲気ではなさそうだ。
内心ホッとしながら渡り廊下から庭園を見ると、庭師が総出で草木を整えている。
美しい景色に目を囚われていると、侍女の一人が声をかけてくる。
「あれは夜会の準備をしています。夜になると庭園内に設置された灯篭に照らされてアズマの国一と言われる景色が見られますよ。」
気を利かせてくれた侍女さんたちが道順を変えて、庭園内を通るように客室へ案内してくれた。
客室に着いてからも落ち着く暇は無く「夕食までに湯浴みを致しましょう。」と、有無を言わさず浴場へと連れ出された。
服を脱がされ全身を洗われたあとに湯船に浸かってようやく一息つくことができた。
「はぁ~~・・・・・・ここしばらくはずっと気を張り詰めっぱなしだった気がする・・・・・・。」
「そうだな、まさか皇城に招待されることになろうとは・・・・・・未だに信じられん。」
贅沢言う訳じゃないが、ある意味死魔騒動の時の方が気が楽だったかも・・・・・・。
こうしてゆだっている間でさえ侍女の人が控えているから完全に気を抜くことも出来ない。
そもそも貴族の生活すらまだまだ慣れていない、というか旅の途中で結婚したから貴族生活すらやってないのだ。そら落ち着ける筈ない。
そして程良く茹で上がったあとに待っていたのは侍女たちによる全身マッサージである。至れり尽くせりだなぁ・・・・・・。
香油を身体に擦り込みながら、俺を担当している侍女の一人が話しかけてくる。
「アリューシャ様はその・・・・・・お歳の割にずいぶん引き締まった身体をされていらっしゃるのですね。」
「そうですか? まぁこれでも一応冒険者をやってますので。」
「ええっ、冒険者!? その、申し訳ありません・・・・・・ご苦労なさったのですね。」
「いえ、気にしないでください。生活苦とかでなく、私が望んでなっただけですので。」
「そ、そうなのですか・・・・・・。」
まぁ普通に生活できるなら冒険者は選ばないか・・・・・・。
この世界じゃ憧れの職業ってわけでもないからな。底辺職でもないけど。
じっくり時間をかけたマッサージが終わるころには陽が沈みかけていた。
普段着用の着物を着せられると、また別の場所へ案内された。そこは広い座敷になっており、なんか偉そうな人が数人。
「ようこそおいで下さりました魔女様。ご挨拶が遅れ申し訳御座いません。このアズマの国を治めるショウゲン・スメラギと申します。食事を用意させましたので、そちらのお嬢様方もご賞味ください。」
一番偉い人きたー。ということは、その隣にいる女性が皇妃様で三人いる少年少女は皇子と皇女か・・・・・・勢揃いじゃねーか!
それぞれの名がヒサメ皇妃、コウブ第一皇子、サヨ第一皇女、テンジ第二皇子。こちらの紹介も終えると食事の時間となった。
並べられた座椅子に腰を落ち着けた俺たちの前に御膳が運ばれてくる。
豪勢な料理に舌鼓を打ちながら会話に華を咲かせていると、Tシャツ短パン姿の少女が不躾にふすまを開け放ちドカドカと足を踏み入れてきた。
突然やってきた少女に驚きながらもショウゲン皇王が声を掛ける。
「シエリ姉さま!? 一体どうなされたので?」
いい年したおじさんが年端も行かぬ女の子に「姉さま」? 何のプレイですか?
「おー、ショウ坊。”塔”の新人が来たって言うから見に来たんだよ。」
シエリと呼ばれた少女がこちらへ振り向き、その紅い瞳と視線がぶつかる。
彼女がここに常駐している魔女か。軽く会釈してから彼女に挨拶する。
「どうも、アリューシャですセンパイ。それで、姉さまっていうのは・・・・・・?」
「まぁ、コイツらが生まれた時からここに居るからな。」
レンシアが言っていたアズマの国と”塔”の関係は良好という言葉は偽りではないらしい。
皇子たちもシエリに懐いているようだ。
「シエリ姉さまに食事をお持ちしなさい。」
指示を受けた侍女が急いで下がっていく。
席も急遽用意され、そこへシエリが腰を落ち着けた。
「少しお待ちください、シエリ姉さま。先に言っておいて下されば用意しておいたのですが・・・・・・。」
「そしたら面倒な着替えとかさせられるし。」
「ですがその、御足を晒すような恰好は・・・・・・。」
「まぁまぁ、あたしは気にしないから。」
御膳も運ばれ体裁が整うと、シエリがこちらに話しかけてくる。
「で、わざわざこんな果ての島国まで出張って来てどうしたの?」
「実は――」
これまでの経緯を掻い摘んでシエリに伝える。
「卒業旅行かー、青春だねぇ。それにしても夜会に招待とか、ハタも強引だなぁ。面倒なら今からでも不参加にするかい?」
「・・・・・・いや、サーニャが美味しいもの食べられるって楽しみにしてるし、参加はするよ。」
「そっちの猫耳ちゃんか。分かったよ。聞いたな、ショウ坊? 夜会には美味いもんをたっぷり用意してやれよ。」
サーニャの食いっぷりを目の当たりにしているショウゲン皇王が頷く。
「心得ました。料理人にそう伝えるよう言っておきます、シエリ姉さま。」
こうして夜会へ向けての時間が過ぎていくのだった。
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