233話「嫁嫁婿」
「さあどうぞご覧ください、フラムベーゼ様、アリューシャ様。こちらになります。」
そう言ってウィロウが台車を引きながら部屋の中へ入ってきた。
台車の上には腰から上だけの小さなマネキンが三つ。それぞれが煌びやかな衣装を纏っている。
「わぁ・・・・・・き、綺麗。」
席から立ちあがったフラムが間近で衣装を眺め、うっとりした表情で見惚れている。
「えっと・・・・・・これは?」
「貴女たちの花嫁衣装よ!」
「は、花嫁衣装!?」
「結婚式を挙げるのですから、当然必要でしょう? 貴女たちが発ってから大急ぎで仕立てさせたのよ。」
「は、はぁ・・・・・・。」
なるほど、ウェディングドレスってわけか。
たしかに二着は透き通るような純白のドレスだ。サイズからしてフラムのものと俺のものだろう。
しかし最後の一着は・・・・・・男性用、というか男の子用の式服である。
それに気付いたフラムの表情が少し翳った。
「フラム・・・・・・?」
フラムの名を小さく口に出してから気付いた。
あぁ、そうだ。俺たちはあくまでも同性婚。平民なら話はそれで終わりだが、貴族はそうもいかない。特にイストリア家のような上級貴族には。
いわゆる後継者問題というやつである。今回の結婚ではそれが解決しないのだ。
まぁ、分家筋から養子をとるという最終手段もあるが、この歳でいきなりそういうわけにもいくまい。
ただ、フラムの母親であるクルヴィナは、末席であるとは言え犬猿の仲であるアストリア家の人間である。
言わばフラムはアストリアの血が混じった忌み子。
これ幸いにと、分家から養子を押し付けられる可能性も無くはないだろう。それはそれでなんか嫌だな。
しかし、こうして男性用の式服が用意されているということは、その話では無さそうだ。
そもそもフラムの歳で婚約者がいないというのもおかしな話だしな。彼女のあずかり知らぬところで両親が話を進めていたとしても不思議ではない。ここで顔合わせと一緒に式もやってしまおうという魂胆のようだ。
俺が男だったらその話も大問題になっていたかもしれないが、外身は女の子だから特に問題視されなかったのだろう。
・・・・・・いや、相手が女の子だから、分家筋から別の相手を押し付けられた可能性もあるか。
どちらにせよ、気が重くなる話だ。
式服のサイズを見ると、俺と同じくらいの背恰好。おそらくはフラムより年下だろう。
大人たちの思惑がどうであれ、これは不幸中の幸いと言えるかもしれない。同世代以上だとフラムの方が気後れするだろうし。
これくらいの相手であれば慣れるのも早いだろう。相手の性格にもよるだろうけど、数年経てば案外良い仲になったりするかもしれない。
もしそうなれば・・・・・・お邪魔虫はクールに去るぜ。
「それで、アリスちゃんはどちらを着るのが良いかしら?」
「ぇ・・・・・・どちら、とは?」
「アリスちゃんって凛々しい感じもするから、両方作らせてみたのだけれど。」
「両方って、こっち男性用の式服ってもしかして・・・・・・?」
「えぇ、アリスちゃん用のものよ。やはりどちらも似合いそうね。これは悩みどころだわねぇ・・・・・・。」
どっちも俺のかい!
そらサイズも似たような感じになるわ。
でもまぁ、こんなことならフラムも――
「ん~・・・・・・どちらが良いかしらね、フラム?」
「う、うぅ~・・・・・・む、難しい。」
フラムの表情が更に深刻なものになった。
え、もしかしてフラムもさっきからそれで悩んでたの!?
俺のさっきまでの苦悩は一体・・・・・・。
「アリスちゃんはどちらが良いかしら? やはり花嫁衣装?」
「・・・・・・どっちでもいいデス。」
「どちらでも良いなんてことは無いわ! よく考えて、アリスちゃん!」
「え、えぇ~・・・・・・。」
ホントにどっちでもいいんだけどな・・・・・・。
相手になるわけだし、ここはフラムに決めてもらった方が良いか。
「フラムは私にどっちを着て欲しい?」
「えっ・・・・・・? うぅ~・・・・・・。」
やっぱダメか。
・・・・・・まぁ、男物の方が動きやすそうだし、そっちにするか。
「じゃあ、こっちに――」
「ぁ・・・・・・。」
俺が男性用の式服を指差そうとした瞬間、フラムが哀しそうな表情を浮かべた。
・・・・・・逆の方が良いか。
「・・・・・・やっぱり、こっちを――」
「ぅ・・・・・・。」
俺が花嫁衣装を指差そうとした瞬間、フラムの視線が名残惜しそうに男性用の式服へ向く。
どっちやねん!
「ほっほっほ。では、こうしては如何でしょうか。二回、結婚式をするのです。」
とんでもない提案をさらっと口にするウィロウ。
とはいえ流石にそれは――
「良い考えね! さすがウィロウだわ!」
「お褒めに与り光栄で御座います。」
いやいや! 良い提案をしたみたいになってるけど、それ実質パワープレイだから!
「大丈夫なんですか? その・・・・・・二回も結婚式して。」
「えぇ。きっとファム君も分かってくれるわ。」
「えっと・・・・・・フラムはそれで良いの?」
「ぅ、うん!」
・・・・・・俺に止めることは出来そうにないな。
フラムがそれで良いなら、まぁいいか。
「それじゃあどっちを先にする?」
「・・・・・・ぇ?」
「いや、二回やるにしても、どっちを先に着るか決めないとでしょ?」
「・・・・・・っ!!」
一瞬雷に打たれたような表情をしたあと、また考え込んでしまった。
・・・・・・じっくり考えとくれ。
「カッカッカ。馬子にも衣裳ってのはこのことかい。アンタでも随分立派に見えそうだね、アリス。」
「確実に服に着られる感じになるよ。こんなことならババ様に貴族の作法とかも教えてもらえば良かった。というか言ってくれれば教わってたのに。」
「アンタに教えたらどこで悪さに使うか分からないからね。教えなくて正解だったよ。」
「えぇっ、なんで!? 悪いことになんて使わないよ!」
「貴族の娘を拐かしてきたアンタがかい?」
「うぐっ・・・・・・。」
「ハァ・・・・・・難儀な子に育っちまったねぇ。」
それについてはまぁ・・・・・・同感だ。
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