224話「支配者はだれだ」

 目から零れ落ち、床に転がったカラーコンタクトと俺の瞳を見比べながら、顎が外れたように口をあんぐりと開いたまま固まる王様。


「ま、まさか、その瞳の色は・・・・・・!」

「まぁそういうコト。”塔(ウチ)”の新人。」


 カラコンは「魔女とバレない方が仕事がやり易いだろう」とのことで支給されたものだったのだが、なるほど、王様も”知っている”側の人だったのなら納得だ。

 で、その仕事というのが「王から言質を取ってこい」というものである。適当なところで協力者が突入するとも聞いていたのだが、それが彼女なのだろう。


 そもそも何故そんな仕事をすることになったのかというと、レンシアが死魔との戦闘中のチャット履歴を見たことが始まりだ。

 そして事の経緯を聞かれ、顛末を説明し、以降の報告も行っていた。そこへ今回の”ご招待”である。


 どちらにしろ招待は断れなかっただろうから、こちらにとっては渡りに船であったので快諾。

 ”塔”が後ろ盾になってくれるのだから有難い。

 おかげで王様との対峙も気負うことなくできたわけだ。


 とはいえ、王様と魔女との繋がりがここまで密接だったのは思ってもみなかったが。


「お、おい貴様! なぜ”魔人”なんぞを連れてきた!!」


 俺を指差しながらギルド長へ怒りの矛先を向ける王様。

 しどろもどろになりながらギルド長が答える。


「い、いえ、私は決してそのようなつもりなど・・・・・・! そもそも、その、”魔人”とは一体――」

「小国の、ましてや支部長なんかが魔女のことを知ってるわけないでしょ。」


 少女がギルド長の言葉を遮った。

 彼は突然乱入してきた王様よりも偉そうな少女にどういった態度をとっていいか分からず、そのまま押し黙る。

 少女は興味無さそうにギルド長から目を離すと、ニッコリと王様に微笑みかけた。しかし目は笑っていない。


「あと・・・・・・私は”魔人”って呼び方好きじゃなんだよね。ねぇ、分かるー? あぁ、そうだ。そういやさっき”魔人兵器”を造って世界を支配するなんて妄想を話してたよね。知ってるー、作り方? 知らないよねー? 私が教えてあげる。良く覚えてるんだよ。私は。私の親友がされたことを。細かい傷までしっかりねー。キミの娘ならきっと良い見本が造れると思うよー? ”魔人兵器擬き”になっちゃうけど、それも同じだから良いよねー?」


「ヒィィッ・・・・・・そ、そんなこと言っておらん!」

「言ってたよ? 観るー?」


 彼女が手に持っていた魔道具を起動させると、俺がさっきまでライブ配信していた王の姿が壁に映し出された。聞いてはいたが、本当にこんなことが出来るとは・・・・・・。ただ他の通信機能の帯域まで使用してしまうため、許可制なのだそうだ。

 俺が感心している間にキュルキュルと早送りし、問題の箇所が再生される。


 あー、しっかり言ってるなコレ。

 映像とは逆に、さらに縮こまってしまう王様。


「随分忘れっぽいよね、キミ。それじゃあまずはあの娘を兵たちの慰労に使うところから始めようか。顔は可愛いからきっと人気者になると思うよー。その後は両親を目の前で・・・・・・って、キミが居なくなると後で面倒か。じゃあ母親と、あと小さい弟もいたよね。あれで良いかなー。あ、でも”擬き”だからそこまでする必要ない? いや、でもホンモノっぽくするなら――」


 怖い! この人怖い!


「あ、あのー・・・・・・パイセン? まずは話を進めません?」

「あー、まぁそうだねぇ。で、ウチの新人ちゃんを拘束するだとか言ってたけど・・・・・・”塔”と敵対するってことで良いのかな?」


 その言葉を聞いて、脂汗を垂れ流しながら顔を真っ青に染める王様。


「い、いいいいいやめめめめ滅相もない!!」

「ふぅん・・・・・・ま、こんな国滅ぼしても後始末が面倒なだけだから良いんだけど。」


 明らかにホッとした顔の王様に、意地悪い笑みを浮かべて追撃する少女。


「あ、でもお仕置きはちゃんとするから。」

「な、何をするつもりだ・・・・・・!?」


「うーん・・・・・・二週間の魔力供給停止かな。」

「は・・・・・・? そ、それだけか?」


「あー、うん。それ”だけ”だから安心しなよ。」

「そ・・・・・・そうか、それだけか!」


「うんうんそれ”だけ”。じゃ、私は新人ちゃんと話があるからもう行って良いよ。」


 ホッと胸を撫でおろした王様が立ち上がり、倒れている兵士にケリを入れるが、昏倒している彼らが立ち上がる様子はない。

 ・・・・・・生きてるよな?

 シビレを切らした王様が隅っこで縮こまっているギルド長に目を向けた。


「おい、行くぞ!」

「ヒッ・・・・・・は、はい!」


 王様はギルド長を伴ってそそくさと出て行ってしまった。

 少しでも長く留まりたくはなかったのだろう。


「さて、もう入ってきてもいいよー。」


 王様を追い出した少女が扉を開けて外に声を掛けると、女性にモテそうな女騎士が入ってきた。


「とりあえず邪魔だから、それ外に出しといて。」


 少女に命令された騎士は、転がっていた兵士を掴み上げるとポイっと扉の外へ放り出した。

 つよそう。


「えっと、そちらは?」

「彼女は私の直属だから気にしなくていいよ。」


 だから王様の近衛兵よりも数段上の装備を着ているのか。

 少女は王様が座っていたソファにドカッと腰を掛けて口を開いた。


「さて、ご苦労だったね、キミ達。お陰で面白い感じに企みを暴けたよ。」

「面白いって・・・・・・もしかして今回の件って最初から分かってたの?」


「流石にそこまで万能じゃないよ。ただ、普通なら死魔なんかが出ればギルドから何らかの報告があったはずだからね。多分ギルド長あたりが本部に報告せず止めてたんじゃないかな。彼も野心が強そうだったし。」


 おそらくは調査に行かせた冒険者が見つけた街跡のことを古い文献か何かで調べて魔鉱石がある事を知り、自分の手柄にするため王様に直接報告したのだろう。

 でも本部に報告したところでその本部がどう対応するかは甚だ疑問だが。


「本部の方にも城の者が入り込んでるって聞いたけど?」

「それなら放っておいて問題ないよ。」


「なら良いんだけど・・・・・・。それで、お仕置きってアレで良かったの? 随分ホッとした様子で出ていったけど。」

「良いの良いの。どうせ二週間後にはゲッソリしてるだろうし。」


「そうなの? そもそも魔力供給停止ってどういうこと?」

「あー、そこからかー。まぁいいか。説明するとね――」


 この城にある魔道具は、城の中心部にある魔力供給装置から魔力を受け取って稼働しているらしい。

 その魔力供給装置に魔力を充填しているのが目の前の彼女で、”塔”から派遣されている駐在員なのだそうだ。


「で、魔力を充填しなかったら、大体二~三日くらいで魔道具が止まり始めるかな。」


 俺が見てきた城門や灯り、空調や昇降機はもちろん、トイレにお風呂にキッチン、果ては水まで出なくなるという。

 そして一度供給が止まった魔道具は壊れるように設計されているらしい。


「一応魔道具は”塔”からの貸し出しって名目だから、弁償金とか凄いことになるだろうなー。そんなお金は無いだろうし、とりあえず鉱山の魔鉱石は全部没収かな。」


 語る少女の口調はとても楽しそうだ。


「なにその詐欺。」

「人聞きが悪いねぇ。契約書にも説明書にも書いてあるし、口頭でも説明してるよ? まぁ口頭で説明したのは数代前だけど。伝承とかで伝わってると良いねぇ。」


 絶対伝わってない。そしてあの態度を見る限り契約書も説明書も読んでなさそうだ。


「文官が何人倒れるかも見ものだね。」

「なんで文官が?」


 少女からドSな笑みが零れる。まさに魔女と呼ぶに相応しい。


「書類仕事も魔道具使ってやってるからねぇ。」


 簡単に言えば、パソコンでやってた仕事を明日から紙とペンでどうぞ、みたいな感じである。

 そして魔力の供給が断たれた魔道具は壊れてしまうため、これまで溜めてきた記録(データ)も消失してしまうのだ。

 マジで死人が出るぞ、それは。


「ま、お仕置きだから。」

「それは分かったけど・・・・・・。そもそもどうしてこの城に魔道具がこんなにあるの?」


「ここだけじゃないよ?」


 魔女製魔道具は冒険者ギルドのある国の城や支配者層の住む場所に駐在員と一緒に”貸し出し”されているらしい。


「冒険者ギルドにお金を出してもらってるから、ってのが建前で・・・・・・生活基盤の支配による統制? だったっけ? なんかそんな感じ。」


 ・・・・・・え、なんかそれ普通の魔王とかより質悪くね?

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