218話「疲れてたらよく眠れる」
鉱山の外に出ると、少し開けた場所に怪我人たちがゴロゴロと寝かされていた。
サーニャの背中から降りながら、先に戻っていたアナスカに声をかける。
「とりあえず、怪我が酷い人から治療したいと思います。どこに居ますか?」
「あちらに纏めているが・・・・・・本当に無理はしなくて良いのだぞ?」
「大丈夫ですって。さっさと終わらせちゃいましょう。」
アナスカを示した方へ歩いていく。俺が野営のために作った小屋の中に集められているようだ。
途中、怪我をした獣人たちが腰を下ろして談笑していた。彼らの怪我は比較的軽いらしい。これなら後回しでも大丈夫だろう。
しかし、重傷者たちの所へ着いた俺は思わず小さくうめいてしまった。
「おぉぅ・・・・・・。」
アナスカが示した場所には数人寝かされているが、全員どこかで見た顔。・・・・・・あ、死魔の王の精神汚染で錯乱させられてボコられた人たちだ。
傷は酷い状態だが、錯乱状態は脱しているらしい。痛みで無理矢理正気に戻されたのかもしれないが。
「治せそうか?」
「え、えぇ・・・・・・まぁ、これくらいなら大丈夫です。」
少々骨が折れそうだが、ヨシと気合を入れて治療に取り掛かる。
魔法をかけると、みるみる怪我が回復していく。・・・・・・予想以上に。
「・・・・・・あれ?」
「どうかしたのか?」
「いえ、思ったより治りが早かったので。」
獣人の持つ治癒能力が高いということか。人間相手ならもう少し時間が掛かっているところだ。
そういやサーニャが大きな怪我をしたことなんて無かったな。いつも小さな擦り傷や切り傷程度だから気付かなかった。
だがこれなら早く終わらせられそうだ。
「おぉ・・・・・・もう痛くないぞ。ニンゲンよ、ありがとう。」
「もう大丈夫でしょうけど、今日くらいは安静にしててくださいね。」
と言ったそばからアナスカに「敵の雄叫び一つで自分を見失うとは何事か!」としごかれていた。
治療中の獣人が何かを訴えかけるような目を向けてくる。・・・・・・俺には止められん、頑張ってくれ。
全員の治療を終えた頃には空が紅く染まり始めていた。
今日もここで野営になりそうだ、村へ戻るのは明日になるだろう。
野営の準備をはじめようと腰を上げると、リーフに手で制された。
「今日はもう休んでいなさい、アリス。」
「いや、でも――」
食事の準備を全く進めていない。辺りが真っ暗になってからでは遅いのだ。
「貴女が作った小屋は残っているのだし、後は問題無いわ。それじゃあアリスをしっかり捕まえて見張っていてね、フラム。」
「ぅ、うん。」
フラムにしっかりと腕を掴まれる。これは逃げ出せそうもない。
「わ、分かったよ。今日は休んでマス。」
「よろしい。夕食の準備ができたら呼びにくるわ。」
「お願いね。じゃ、私たちは休んでよっか、フラム。」
腕にしがみついたままのフラムを連れて、昨日泊まった小屋の中に腰を下ろした。フラムも腕を掴んで身体を密着させたまま隣に座る。
しばらくフラムとの会話を楽しんでいたのだが、やはり疲れが出たのか瞼が重くなり不意にグラリと身体が傾いてフラムの肩にもたれ掛かってしまった。
「ね、寝てていいよ?」
「ん・・・・・・そうするね。」
欠伸を噛み殺しながら寝袋まで行くため立ち上がろうとすると、グッと腕を引かれて止められ、フラムと目が合う。
・・・・・・膝枕してくれるらしい。
限界にきていた俺はそのままフラムの方へぽてりと倒れ込んだ。
フラムに結んでいた髪を解かれふわりと撫でられる。ん~、気持ちいい。
気付けばすっかり寝落ちしてしまっていた。
*****
「起きなさい、アリス!」
「ふぁっ!?」
リーフの声に飛び起きる。
「う・・・・・・もう晩ご飯?」
「朝食よ。」
「えっ!?」
「昨日はぐっすり眠っていたから、起こさなかったのよ。」
どうやら寝ている間に寝袋に移動させられていたようで、それに気づかないほど深い眠りに入っていたらしい。
「どうりでスッキリしてるわけだ・・・・・・。」
「スッキリついでにさっさと顔を洗って朝食を摂ってきなさい。今日は早めに発つんでしょう?」
来る時は遺跡を探すために少し時間がかかったが、戻りは半日もあれば十分だろう。
急げば陽が落ちるまでに村に着けるはずだ。
起き上がって顔を洗ってから、他の皆が慌ただしく出発の準備に追われてるなか少し遅めの朝食を摂る。
アナスカを含む獣人たちは長への報告があるからと既に自分たちの里へ向けて出発しており、ヘルフが護衛として村まで付き添ってくれるそうだ。
食事を終えると片付けもほぼ済んでおり、あとは歩きはじめるだけという状態になっていた。ちょっと休ませて欲しいんですケド・・・・・・。
時間が迫っているだけにそうも言えず、みんなと一緒に歩き出した。量を控えめにしておいてよかった。
「ヘルフさんは戻らなくて良かったんですか?」
「あぁ、長への報告ならアナスカで事足りる。それに、お前たちを鍛えるという約束もあるからな。」
ぅ、そうだった・・・・・・もつのか俺の身体・・・・・・。
しばらくは死魔との戦いでのダメージが~とか言って休もうかな・・・・・・いや、でもそうすると他の子たちに追いつけなくなりそ・・・・・・。
彼らの楽しそうな鍛錬談義を横目で聞き流しながら帰り道を歩いていると、考えていた通り日暮れ前に村へ戻ることができた。
その足でヘルミルダさんの屋敷へ行き、一連の報告を終える。
「皆が無事で本当に良かったわ。それに、ありがとう。今夜はゆっくりすると良いわ。それからナーテ。貴女は明日ギルドの方へ報告をお願いします。」
「承りました、ヘルミルダ様。」
「そこまでして頂かなくても私たちで報告してきますよ。」
「いえ、これは村の者が行った方が良いでしょう。ナーテなら顔も利きますから心配ありませんよ。彼女が戻るまで貴女たちは村で休んでいて頂戴。」
街へ行ってしまえば村へ戻ってくることはないだろうから、正直ありがたい申し出だ。リーフのためにも、もう少しくらいは滞在していたい。今回の騒ぎの所為で全然ゆっくりできてなかったし。
「分かりました。よろしくお願いします、ナーテさん。」
「さぁ、そうと決まれば夕食の準備をしなければいけないわね。新しいお客様もいるし、用意した食材だけでは足りないかしら?」
獣人が二人だからな・・・・・・人間の尺度で用意しているなら全く足りないだろう。
「ではオレが狩りをしてこよう。すぐに戻る。」
「え、ちょっ――」
言うや否や、止める間もなくヘルフが窓から飛び出して行ってしまった。
「行ってしまわれましたね・・・・・・。」
「まぁ、言葉通りそれほど時間は掛からないと思うので、先に準備をしましょう、ナーテさん。」
「よ、良いのでしょうか・・・・・・?」
「多分、戻ってきてから準備をはじめたらすごく大変なことになると思います・・・・・・。」
「そうね、私たちも手伝うわよ、アリス。」
その日の晩餐はすごく豪勢なものになった。・・・・・・うぷ。
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