213話「伏兵」
鉱山入口の崩れた瓦礫に手を当てて魔力を流し込み、形をトンネル状に変形させていく。
もちろんそこから崩れないよう、ある程度の補強も施しておく。
出来上がっていくトンネルを後ろで唖然と見つめる獣人たちを他所に、奥へ奥へと掘り進める。
・・・・・・む、そろそろか。
一旦手を止め、後ろを振り返る。
「皆さん、もうすぐ開通するので準備をお願いします。」
「分かった。しかし、本当にお前達も来るのか?」
「こう見えても冒険者の端くれですから。それに、皆さんの実力を疑う訳ではありませんが、人間代表として顛末は見届けておきたいので。ギルドに報告しなきゃいけませんしね。逆の立場ならヘルフさん達もそうするでしょう?」
「是非もなし・・・・・・。良いだろう、お前たちは我らが守ろう。」
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね。」
そこまで過保護にしてもらう必要は無いんだけど・・・・・・無駄な口論はしたくないしね。それに折角やる気になってるんだし、わざわざ水を差すこともない。ここはお姫様役として甘えさせてもらおう。
「というわけで、皆もヘルフさん達の邪魔にならないようにね。」
「ふむ・・・・・・仕方ないか。」
「随分と素直なのね、ヒノカ。」
「彼らが剣を取れば私の出番は無いだろうからな。かと言って、気を抜いて事に当たるつもりは無いが。」
「確かに、油断をして良い理由にはならないわね。」
気を引き締め直し、最後の瓦礫に触れた。
このすぐ向こう側には魔物の気配は感じられないが、感知範囲を広げれば障害物越しでも分かるくらいに知覚できる。数は分からないが、正確に感知できたとしても数える気にはなれないだろう。
「では、開けますね。」
残った瓦礫を変形させて開通させると、真っ暗な口が大きく開いた。アナスカの号令がかかると、そこへ獣人たちが牙を剥き雄たけびを上げながら雪崩れるように踏み込んでいく。うわぁ・・・・・・味方で良かった。
「お前たちは俺たちに付いてくると良い。」
アナスカとヘルフ、二人の後に続いて俺たちも魔力の光を灯して坑道内へ足を踏み入れていく。先行した獣人たちが死魔に遭遇したようで、坑道のあちこちからは怒号と剣戟の音が響いてくる。
道は狭く入り組んでいるが、時折広い部屋のような場所もある。鉱脈に当たって採掘した場所だろう。他の獣人たちに倒されたらしい死魔の死体が転がっている。
先頭の二人は仲間の遠吠えに答えながら迷うことなく足を進めていくと、奥から魔物の気配。足を止めた二人の武器を持つ手にグッと力が籠り、俺たちも装備に手を掛けた。
カタタッ・・・・・・カタタッ・・・・・・。
軽い足音を響かせながら姿を見せたのは人型の骸骨の死魔だった。元の世界の言葉を借りて言うならスケルトンって奴だ。
頭蓋に溜まった魔力が神経のように伸びて身体を繋ぎ、人の形を維持させている。若干青白く染まっているように見えるのは、長い間魔力に曝されていたせいだろうか。
元は騎士か戦士だったのだろう、折れ錆びてボロボロになった剣と、枠だけになった盾を手に構えている。
「来るぞ、アナスカ!」
「任せろ!」
一声とともにアナスカが骨の戦士の頭蓋を槍の一突きで砕いた。続けて襲ってくる後続の攻撃を危なげなく躱し、一撃のもとに粉砕する。頭蓋を砕かれて制御を失った骨の戦士の身体はカラカラと崩れて骨の山を築いていく。
ホントに出番無さそうだなこれ・・・・・・。俺たちが戦っても苦戦はしそうにない魔物だし、獣人相手なら尚更である。
しかし厄介なのは、その数であった。
「まだ来るみたいですよ!」
「分かっている! 今度は別のヤツみたいだ!」
アナスカが築いた骨山を踏み砕いて新たに現れたのはヴォルフの死魔だった。身体に纏った腐肉はまだ朽ちてはおらず、最近死魔と化したようだ。どうやら外に出て眷属を増やしていたという考えは当たっていたらしい。しかも群れ全体を死魔化させたらしく、奥からは複数の気配と唸り声。
この死魔も獣人たちにとっては脅威ではないだろうが、武器も満足に振るえない狭い坑道内であの数を相手にするのは危険だ。
「少し戻ったところに開けた場所がありましたよね。そこまで一度退きましょう。」
「っそうだな!」
「いや、アリス。そう簡単にはいかないみたいだぞ。」
そう言ってヒノカが刀をスラリと抜いた。
「後ろからも来てるにゃ!」
「嘘ぉ!?」
前方に集中していた探知を後方へ向けると、確かに魔物の反応が。それも複数。
ヘルフの耳が忙しなく動く。
「クッ、後ろにいるのはおそらく小鬼の死魔か! しかし何故!?」
「小鬼というと、ゴブリンの事よね。それならさっきアリスの言った開けた場所に死体が大量にあった筈よ。」
「てっきり先行した獣人の人達が倒したと思ってたけど、まさか・・・・・・。」
「伏兵・・・・・・だったみたいね。」
まんまと罠に嵌められたようだ。「おのれ小癪な!」と叫びたいのをグッと堪える。
他の道へ進んだ獣人たちも無事であれば良いのだが。
「後ろは任せて下さい。ヘルフさん達は前の方をお願いします。」
「しかし・・・・・・!」
「ヘルフさん達からすれば私たちは頼りないでしょうけど、今はそうも言ってられない状況でしょう?」
「・・・・・・分かった。後ろは頼む。」
後方から姿を現したのはヘルフの言った通りくぐもった唸り声をあげるゴブリンの群れ。声を上げるたび喉奥から腐った体液がゴポゴポと溢れ出し、そのまま地面へボトリと零れ落ちた。思わず鼻を押さえたくなる臭いが漂ってくる。
こちらも数が多い。おそらくゴブリンの集落を襲って片っ端から死魔化させたのだろう。スケルトンと同じく、頭に溜まった魔力で身体を操っているようだ。
「たぶん頭を潰すか、首を落とせば倒せると思う。それ以外はあんまり効かないかも。」
「分かった。しかし、狭くて難儀だな。」
「そうだね、ここは魔法主体でいこう。ヒノカたちは撃ち漏らして近づいてきたのだけ相手して。」
「それは・・・・・・出番はあるのか?」
「善処するよ。リーフ、ニーナ行くよ!」
俺の合図とともに二人が魔法を発動すると、リーフの氷矢が飛びゴブリンの額を貫き、ニーナの風刃が舞い首を刎ねた。
二人の魔法を掻い潜ってきたゴブリンの頭部を俺の触手で破壊する。飛び散った体液が壁にへばりつき、ドロリと流れ落ちていく。
「・・・・・・出番、無い。」
「あれに近づきたい、お姉ちゃん?」
鼻を押さえたまま、フィーはふるふると首を横に振った。
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