192話「ネタバレNG」
「こんにちはー。」
ラビの店の中へ向かって声をかけると、奥から恰幅の良いおばさんが現れた。
「あらあら、アンタらじゃないかい! 元気にしてたかい!?」
「はい。おばさんも相変わらずそうで。」
「ハハハ! 威勢だけが取り柄だからねぇ! この子らもよく働いてくれてるよ!」
おばさんが品出しをしていたキシドーの肩をバンバンと叩いた。
俺たちに気付いたキシドーとメイは、こちらに向かってペコリと頭を下げる。
「久しぶり、二人とも。おばさん、ラビは居ますか?」
「あぁ、ちょっと待ってな。ラビ! ラビ!! 降りて来なさい!」
大砲の轟音のようなおばさんの声が響いてしばらくすると、ラビがのそのそと上階から降りてきた。
「も~・・・・・・なに、お母さん? って、アリスちゃん!? それに皆も!?」
「久しぶり、ラビ。」
「ど、どうしたの? いつもより時期が早くない?」
「私たちは学院を卒業できたから、今はちょっと・・・・・・皆の故郷を巡る旅をしてるんだ。」
「そうなんだ。あれ、でも此処は・・・・・・。」
「故郷じゃないけど、迷宮の攻略は残しておけないって話になってね。」
「うむ、そういう事だ。またよろしく頼むぞ、ラビ。」
「・・・・・・うん、分かったよ!」
「はいはい! 積もる話があるのは分かるけど、邪魔だから上でしておくれ! さ、入った入った!」
おばさんにグイグイと背中を押されて追いやられる。
その際に、部屋は好きに使って良いとお達しがあった。
今はオフシーズンなので他の客は居ないようだ。
とりあえず部屋に荷物を置いてからラビの部屋へ集まる。
以前よりも物が増えており若干部屋が狭くなったように感じられる。
おそらくはそれらの殆どが迷宮から持ち帰ったものだろう。
ラビを交えてお茶を飲み、お菓子を食べ、学院や迷宮での思い出話に花を咲かせた。
いわゆる女子会というやつである。
そしてとうとう――
「えぇ・・・・・・っ!? け、結婚!?」
一番HOTなその話題になるよね、やっぱり・・・・・・。
「うん、まぁ・・・・・・あはは・・・・・・。」
その経緯を聞き終え、目と口をポカンと開けたまま俺とフラムを見比べるラビ。
「お・・・・・・おめでとう?」
「あ~・・・・・・ありがとう?」
*****
それから数日間、ラビの宿で旅の疲れを癒し、英気を養った。
その間は俺たちの来訪を聞きつけた近所のオッサンらが入れ代わり立ち代わりでプチ宴会。
いつもなら髪を逆立てて怒りそうな近所のお姉さま方も、オフシーズンであることに加え、どこから聞いたのか俺たちの結婚話で顔を綻ばせる始末。
迷宮に潜る日には、すっかり消耗しきってしまっていた。
「まぁ、なんにせよ以前みたいに並んでいないのは助かるわね。」
「ハハ・・・・・・ソウダネ。」
「だ、大丈夫・・・・・・アリス?」
「うん・・・・・・やっと、逃げられる・・・・・・。」
あそこに留まっているよりは、迷宮の中の方が百倍マシだろう。
「あるー! ごはん無くなったにゃ!」
「いいよ・・・・・・行ってきて。」
「ボクたちも行こう、フィー!」
「・・・・・・うん。」
荷車から飛び降り、お皿を抱えて走り出す三人。
彼女らが向かうのは未だお祭り騒ぎの宴会場である。
出発する時に散々皿に盛ってたのに・・・・・・入ってからはもうちょっと大人しくしてほしいものである。
「キシドー、荷車をもうちょっと遅く引いてくれる?」
俺の言葉に頷いて返すキシドー。
時間はたっぷりあるしね。
「そういえばさ、ラビ。迷宮の50階についての情報って何かあるの?」
「えーっと・・・・・・迷宮の王様が居るってウワサだよ。」
「へぇ・・・・・・王サマねぇ。」
「あ、あくまでウワサだからね? 踏破した人なんて居ないし、それくらいの情報しかないよ。」
「うん、分かってる。ありがとう、ラビ。」
やっぱラスボス的な感じかなぁ。
チャットで聞くなりwikiで調べるなりすればもっと詳細な情報が手に入ったと思うけど、そこまでのネタバレは歓迎されないだろうしな。
「王か・・・・・・。やはり強いのだろうか。」
「どうだろうね。もしかしたら今までで一番弱い可能性だってあるよ。」
「む、そうなのか?」
「人間で考えれば、少なくとも護衛の人の方が強いでしょ?」
「ふむ・・・・・・確かにそうかもしれんな。」
「行ってみない事には分からないけどね。そもそも居るかも分からないんだし。」
「ゴ、ゴメンね。もっと調べておけば・・・・・・。」
「いや、わざわざ雲をつかむような情報を集めるより、ちゃんと準備した方がいいよ。それに今までの流れでいけば50階に”何か”が待ち受けてる可能性は高いからね。」
そして階を追うごとに順当に強くなっていた。
普通に考えれば迷宮で最強の敵と戦うことになるだろう。
「ま、準備って言っても荷車にだって限界はあるけど・・・・・・。」
「あはは・・・・・・みんな沢山くれたね。」
まだ迷宮に入ってもいないのに荷車は食料と薬、そして土で埋まっている。
餞別だと近所の人たちや他の探索者から次々載せられてこの有様だ。
有難いと言えば有難いんだけど・・・・・・それだけ期待が大きいってことだろう。
踏破者が出たとなれば観光業に弾みがつくからな。
「けれど、携帯食ばかりになるよりは良いわ。うるさい子たちが居るものね。」
「それは確かに・・・・・・。」
サーニャたちが何往復か終えたころ、丘の上の遺跡に辿り着いた。
いつも学院生たちが大挙して押し寄せる夏休みの季節とは違い、人は疎らだ。
ラビが生まれるずっと前はもっと盛り上がっていたという話だが、攻略が進まずマンネリ化し徐々に下火になってきていたらしい。
入場に時間が掛かるのはアレだけど、前回の夏よりも人が多かったというのだから一度は拝んでみたいものだ。
「よし、着いたぞ。」
ヒノカの声に顔を上げると、迷宮への門が口を大きく開けて俺たちを待ち構えていた。
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