172話「次週自習」

 自習。と言えば聞こえは良いが、その実放置プレイ。

 砦に一週間滞在して三年生と交代した後、俺たち四年生は学院へと戻ってきた。

 三年生と二年生の課外授業が終われば、次の週の一年生に一部の四年生が引率する。

 本来ならこの引率も能力の高い四年生に声が掛かるのだが、今回は二軍の補習に使われるらしい。

 先生もその対応で忙しく、今週は自習という事になっている。


 そして俺たちのような一軍のパーティは、残りの期間も全て自習。


「こんなの終わんないよぉー!」

「口じゃなく手を動かしなさい、ニーナ。ほら、そこ間違えているわよ。」


 ・・・・・・課題たっぷり付きの。


「あ、あの・・・・・・アリス・・・・・・ここ・・・・・・。」

「えっと、これはね――」


「こっちも頼む、アリス。」

「・・・・・・リーフお姉ちゃん。」


 自分の課題はさっさと終わらせた筈なのに、何だこの忙しさは。

 これでも他のパーティに比べればまだマシな方である。

 俺とリーフの二人体制で他の子の面倒を見られるからな。


 これが教室であったなら、他所のパーティからも質問攻めに会っていた事だろう。

 自室で良かった・・・・・・。

 まぁ、真面目にやっている奴がどれほど居るかは疑問だが。


「あら、誰か来たみたいね。」


 ノックの音にリーフが反応した。

 課題も無く、一人ゴロ寝しているサーニャの耳がピクリと動き尻尾がゆっくり揺れる。

 警戒心のカケラも無い様子から、訪ねて来たのはおそらく知り合いだろう。

 で、このタイミングで来ると言う事は――


「私が出るよ。」

「そう? じゃあお願いするわ。」


 部屋の扉開くと、外には思った通り課題の山を抱えたロール達の姿。

 彼女らは補習組なので俺達よりも量は減らされているが、それでも少なくはない。


「ア、アリスちゃ~ん・・・・・・。」

「分かったよ。みんな入って。」


 部屋に招き入れたロール達を見てリーフが頭を抱える。


「す、すまぬのじゃ・・・・・・。」

「構わないわ。貴女たちは来週から一年生の引率があるのだし、早く終わらせてしまいましょう。」


 ロールの持っている課題帳を一冊ずつ抜き取り、パラパラとめくって中身を確認していく。


「もう半分以上終わってるね。もう少しじゃない。」

「でも、後の問題は私たちじゃ分からなくて・・・・・・アリスちゃんも忙しいのに、ごめんね。」


「ううん、頼ってくれるのは素直に嬉しいよ。」

「えぇ、そうね。それに・・・・・・貴女たちならニーナに教えるよりもずぅっと楽だもの。」


「うぅ~、リーフのイジワルー!」

「ハイハイ・・・・・・文句を言いたいのなら、せめて半分は終わらせてからにして頂戴。」


「ま、まぁまぁ二人とも。それより今日はずっと根を詰めっぱなしだし、一旦休憩にしよう? それからロール達も混ざって再開ってことで。」

「ふぅ・・・・・・分かったわ。貴女たちもそれで構わないかしら?」


「構いませんですの。」

「でしたら、ワタクシ達の部屋から茶葉を取ってきますわ。それでお茶に致しませんこと?」


「いいね。実は休憩用にお菓子を用意してるから、皆で食べよう。」

「おかし!? 食べるにゃ!」


 誰よりも早く反応するサーニャ。

 今の今まで寝てただろ・・・・・・。

 そしてサーニャに続いて歓声が上がった。主にニーナの。


「ちゃんと全員分もあるから、大人しく待ってて。それじゃあ取ってくるよ。」

「何か手伝うことはあるかしら?」


「大丈夫。リーフは机の上を片すよう皆に言っておいて。」

「ハァ・・・・・・大仕事ね。分かったわ。」


 部屋から出て一人で寮の共同キッチンへ。

 そこには大きな冷蔵庫があるが、その中に茶菓子を準備している訳ではない。

 俺は廊下で歩きながら行っていたチャットを再開する。


>おk、こっちの用意は出来たから出品よろしく

<『ケーキ詰め合わせ』で出品したよ、毎度あり~。女子会うらやま


>いつでも出来るだろ。魔女の塔で

<せつこ、それ女子会やない。おっさんの飲み会や!


>中身はおっさんだからなw

<(´;ω;`)ブワッ


 チャットはそこそこにして、バザーの出品一覧を見てみる。


「よし、ちゃんと出品されてるな。」


 さっさと落札してバザーの受け取り口からケーキの箱を取り出し、中を覗き込んだ。

 中には”何とか映え”しそうな色彩豊かなケーキが収まっている。

 一つ一つが結構なボリューム。これならサーニャも満足するだろう。


 ・・・・・・サーニャにはやっぱり足りないか。


 魔女の経営する店には、バザー機能を利用した配送ならぬ転送サービスを行っている店がある。

 このケーキ屋もその一つ。

 バザーの手数料が掛かるので少々割高ではあるが、この便利さには代えられない。


「皆、お待たせ。」


 部屋に戻り、キッチンから拝借した食器を綺麗になった机の上に触手を使って並べていく。

 お茶の方は既にスタンバイ済みのようだ。


 ケーキの箱を開くと、全員が瞳をギラギラと・・・・・・いや、キラキラと輝かせながら覗き込んだ。

 漏れ出す感嘆の吐息。


「・・・・・・・・・・・・あれ? みんな、取らないの? 好きなの選んで良いよ。」

「だ、だって・・・・・・こんなの・・・・・・全部美味しそうで選べないよ!」


「え、えぇ~・・・・・・。」


 皆も一様に神妙な面持ちで頷く。

 まぁ、確かにどれも美味しそうだけど・・・・・・適当に頼んだのが不味かったか。


 女の子が好きそうなのを人数分見繕って欲しいと頼んだだけなんだが、まさか全部種類が違うとは。

 注文通り、女の子たちにはどストライクみたいだけど。

 ケーキ屋魔女の中身はおっさんでも、心は乙女なのかもしれない。


 しかしこのままでは埒が明かない。・・・・・・仕方ないな。


「わかった。じゃあみんな席について目を瞑って。私が適当に配るから。苦情は一切受け付けません!」

「えぇ! そ、そんな~!」


 ぐずる皆をさっさと座らせ、ケーキを配り終える。


「はい、終わったよ。」


 皆が目を開けてケーキを確認するも、隣の芝生は青く見えるのか何とも微妙な空気。


「別に目の前のケーキだけを食べろって言ってる訳じゃないよ。フラム、あーん。」


 自分のケーキをフォークを使って一口サイズに切り、隣に座っているフラムの口元へ運ぶ。

 フラムが小さく口を開け、ぱくりと食いついた。


「ぉ、おいひい・・・・・・。」

「そっか、良かった。」


 あ、だからちょっと大きいサイズなのか。

 人数分に切り分けるのは無理だが、これなら色んな味を楽しめる。


「フフッ、そうね。貴女のも少し分けて貰えるかしら、フィー?」

「・・・・・・はい、リーフお姉ちゃん。」


 互いに食べさせ合うリーフとフィー。

 それを見てロール達も真似をし始める。


「あるー! あちしにも!」

「あれ、サーニャの分は? もしかして――」


「もう無くなったにゃ!」


 まぁそうだよね。

 フラムに食べさせたサイズより大きめの欠片をサーニャの口に放り込む。


「んまいにゃ!」

「サ、サーニャ・・・・・・こ、こっちも・・・・・・どうぞ。」


 おずおずとフラムが差し出したフォークに飛びつくサーニャ。

 ホントに美味しそうに食べるなぁ。


「サーニャ、こっちにもあるわよ。」

「食べるにゃ!」


 リーフに呼ばれてそっちへ駆けていく。

 それが終われば今度は別の子に呼ばれる。

 なんか、家族からご飯をもらう犬みたいになってるな・・・・・・。


 こうしてケーキ全種類制覇を果たしたサーニャでしたとさ。

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