79話「合法誘拐」
「ご、ごめんなひゃい・・・・・・ゆるひて・・・・・・。」
「うーん・・・・・・、ちょっと足りないかな。あぁ、そうだ。ラムスさん、結婚はしてるの?」
「し、してましぇん・・・・・・ぎゃああああああああ!!!」
えい、とラムスの腕を絶対に曲がらない方向へ曲げた。
腕がプラプラになったのを確認し、治癒魔法をかける。
・・・・・・変な風にくっついてしまった。
もう一度曲げる。
「し、しししてませ・・・・・・ぎゃあああああ!!!してない!!してません!!!」
・・・・・・よし、今度はちゃんとくっついたな。
とりあえずもう一度曲げる。
「ぎゃあああああ!!だ、だからしてないって言ってるだろ!!!」
「本当なのか?」
ラムスと顔見知りである中ボスに尋ねる。
「確かにしてはいませんが・・・・・・女と子供は居た筈です。」
「なるほどね。」
指の方が範囲が狭い分、作業が細かくなって治療し辛いな。
使う魔力は少なくて済むようだが。
「じゃあ此処に呼んで貰おうかな。」
「な、何を・・・・・・するつもりだ!」
「それはおじさんが一番良く知ってるんじゃないかな。」
とりあえず手近に転がっている雑魚を引き摺り寄せ、叩き起こす。
「お前のとこで二番目に偉いのは誰だ?」
「ひっ・・・・・・ダ、ダニアンさんです!」
雑魚の視線の先に転がる浅黒い男。
世紀末ファッションではないが他の者に比べて質の良い服を着ており、いかにも幹部と言った感じだ。
そのダニアンも引き摺り寄せて叩き起こした。
「ラムスの女とガキを連れて来い、今すぐにだ。」
「オ、オレがそんなことするワケねぇだろ!」
先程の雑魚の首をスパンと斬り落とし、ダニアンの前にぶら下げて見せる。
「口答えする前に動いたらどうだ?人数が減って困るのはお前らだろ?」
「なっ・・・・・・なにを・・・・・・!」
「逃げ出そうとした奴も容赦なく斬るから、そのつもりで。」
新しい首を二つ並べる。
ダニアンは並べられた三つの首とラムスを交互に見比べ、やがて意を決した表情をして屋敷へと掛けて行った。
「よ、止せ・・・・・・ダニー!」
ラムスの制止の声にダニアンが振り返る事は無かった。
*****
そろそろ一つ首を増やそうかと考えた頃にキーキーと五月蠅い声と共に屋敷内からダニアンが戻って来た。
彼の傍らには二十代前半くらいの幸の薄そうな女性と、十代半ばの気の強そうな少女の二人。
「パパ!?どうしたの、パパ!?離しなさいよダニアン!!・・・・・・ゲイル!貴方ね!パパに何をしたの!?答えなさいよ!!」
「堪えて下さい、お嬢。」
放っておけば更に喚き立てそうなので口に触手を詰め込んで黙らせた。
女性の方は黙って顔を伏せているが、随分と美人なのが見て取れる。
世の中の不幸を全て背負い込んだような暗い表情でなければ見惚れてしまっていただろう。
「や、止めろ!娘に何をした!!」
「大丈夫ですよ、少し黙って貰っただけですから。ガキは大事な商品なので傷つけません。」
その言葉を聞いてラムスが顔を真っ赤に染めて激昂する。
「何だとぉ!貴様!!」
「人に言われて怒るぐらいなら自分で言わない方が良いですよ。」
「一体・・・・・・何が目的なんだ!お前達は!」
「最初に言いましたよね、ウチに手を出すなって。」
その為に態々足を運んで来たと言うのに。
少々強引な”説得”となってしまったが。
「わ、分かった!お前達に手は出さない!約束する!」
「それじゃあ、娘さんはウチで暫く預からせて頂きますので。」
「な、何故だ!要求を呑むと言ってるだろう!」
「そもそも手を出してきたのはそっちですし、口約束なんて信用できませんし・・・・・・まぁ、ぶっちゃけ人質ですね。ちゃんと大人しくしてくれてたら会わせるぐらいはしますし、五年もすれば返しますよ。」
ラムスが懇願するように俺の後ろに控える中ボスに声をかけた。
「な、なぁゲイル!何とか言ってくれ!知らない仲じゃないだろう!?」
悲痛な叫びに少々考える素振りを見せた中ボスが口を開く。
「団長、そのまま彼女を連れて帰りますと人攫いと変わらなくなってしまいますので、一つ提案があります。」
「言ってみろ。」
「団長の奴隷として彼女を引き取る形がよろしいかと。幸いにも此処はラムス殿の屋敷。その手の書類は十二分に揃っているでしょうし、何より”合法”的に済ませられます。」
合法もへったくれも無いと思うが、確かにそのまま連れて行くのもアレだな。
「ふむ・・・・・・なら、そうしようか。」
それで良くないのは当の本人とラムスである。
口を塞がれた彼女に代わってラムスが喚く。
「ゲイル・・・・・・貴様!恩を忘れやがったのか!!」
「十分お返しさせて頂いたと思いますが。それに、今は団長の部下ですので。」
喚き散らすラムスを余所に話を進めていく。
「ダニアン・・・・・・だっけ?書類揃えてきてくれるかな、大急ぎで。分かってるよね?」
「わ、分かった。」
屋敷へと戻ったダニアンに代わってもがく少女を触手で抑え、抵抗の素振りを見せない女性の方も一応捕らえておく。
「なぁ、中ボス。あの二人どう見ても母子には見えないんだが。」
「サラサ嬢・・・・・・いえ、子供の方の母親は以前に亡くなっています。あちらの女性はお初にお目にかかりますが・・・・・・おそらくラムス殿に気に入られて何処かから連れて来られたのでしょう。」
中ボスの言う”合法”的な手段で、ということだろう。
パッと見は分からないが、女性の袖口から奴隷の証である呪印が覗いて見える。
バーコード型ではないので奴隷管理局の所属ではないようだ。
「もしあの女性を助けたとしても、彼女の返る場所も・・・・・・行く場所もないと思いますが。」
暗に「これ以上面倒事を増やすのか?」と問うているのだ。
まぁ、その面倒を一点に被るのが中ボスな訳だしな。
息を切らせて戻って来たダニアンから書類の束を受け取る。
・・・・・・随分多いな。
「戻って来て早々悪いけど、その女も貰って行くから書類用意してくれる?」
「っ・・・・・・!」
何も言わずに踵を返し、屋敷へと戻るダニアン。
「お、おい!まだ奪おうってのか!?」
「子供は人質だし、そっちの女は詫び料ってことで。お金を巻き上げようっていうんじゃないんだし、良いでしょ?何ならその銅貨一枚にもならなさそうな首にしようか?」
「く・・・・・・そ・・・・・・っ!好きにしろ!」
その悪態を最後に、ラムスは口を固く閉ざした。
「悪いね、中ボス。」
「いえ、団長のお望みとあらば。」
「あぁ、それと・・・・・・もう素振りは止めていいから。」
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