58話「仲魔」

 先程までとは一転し、闇に囲まれた場所に出た。

 所々に灯された明りが、周囲のゴツゴツした岩肌を照らす。

 要所に天井や壁が崩れないよう、木でしっかりと支えが組まれている。

 まるでどこかの炭坑にでも放り込まれた気分だ。


 さながら炭坑迷宮、と言ったところか。


 背後でカチャリと金属音が鳴り、全員で一斉に振り返った。

 そこには―――


「聖騎士・・・・・・と、メイドさん?」


 人形の城にいた聖騎士とメイドである。

 どちらもよく見ると最上位個体、即ち聖騎士長とメイド長だ。

 訳が分からず固まっていると、メイド長から賞状筒・・・・・・卒業証書とかを入れるあの筒と小冊子を手渡された。


 賞状にはイベントクリアの祝言と、【うごくよろい】と【パペットメイド】が贈呈されるということが難しく書かれてあった。


 要するに、目の前の二体はイベントクリアの報酬である。

 小冊子はその二体についての取扱説明書だ。

 ・・・・・・家電の説明書っぽい。


 状況が飲み込めていない者たちを代表してヒノカが口を開く。


「アリス、何と書いてあるんだ?」

「えーっと・・・・・・この二人が仲間になってくれるんだって。」


「・・・・・・どういう意味だ?」

「そのまんまの意味なんだけど。事件を解決したご褒美?みたいな。」


「それならドレスを貰っただろう?」

「そっちは女王様からのね。この二体は神様からのご褒美になるかな。」


「・・・・・・もう何も言うまい。アリスが言うのなら、その通りなのだろう。」


 ヒノカを筆頭に呆れと諦めが混じった表情で溜息を吐く仲間達。


「まぁ、でも良かったね、ラビ。これでまたお店が賑やかになるよ。」


 賞状を広げてラビに見せる。

 以前に手に入れた賞状の隣に飾れば、見栄えも良くなるだろう。


「で、でもアレはアリスが一人で解決したみたいなものだし・・・・・・。私ばっかり悪いよ。」

「私達が持ってても仕方ないし、ちゃんと人目に着く所に飾ってくれてた方が嬉しいよ。だから気にしないで。それに、次も宿を使わせてもらうし、ね?」


「う、うん!お母さんも喜ぶよ!」


 リーフが先を促す。


「それで、そっちの・・・・・・薄い本には何て書いてあるのかしら?」

「この二人についての説明だね。えっと―――」


 見た目通り、聖騎士は戦闘などの能力に特化、メイドは家事などの能力に特化しているようだ。

 簡単な意思疎通も可能。これは実証済みだな。

 命令を下せるのはマスター権限かサブマスター権限を持っている者のみ。


 マスター権限はイベントクリア時のパーティメンバー、つまり俺達全員が持っている。

 権限の譲渡は可能だが、増やす事は出来ない。権限を持ったまま死亡すれば失効となる。


 サブマスター権限をマスター権限と同人数まで付与可能で、こちらは譲渡不可。

 マスター権限で取消と再付与は可能である。サブマスターが死亡した場合は自動的に失効し、マスター権限での再付与が可能になる。

 まぁ、家族に預けたりする時には必要な機能だろう。


 人形達が倒されても、マスター権限のある者が生きていれば時間経過で復活。二~三ヶ月は必要らしいが。

 マスターが一人も居なくなった時点で人形達は消失する。


 マスター及びサブマスター以外からの攻撃には自動反撃。

 また、その両名への攻撃にも自動反撃を行う。


「―――とまぁ、こんなところかな。」


 駆け足で皆に説明書の内容を聞かせた。

 ニーナが頭を捻りながら唸る。


「うーん、よく分かんない。」


 程度の差はあれ、他の皆も同じ様な顔をしている。


「また必要な時に説明するよ。とりあえず今は、この二人が仲間になったって事だけ覚えておいて。」

「分かったよ、よろしくね!」


 ニーナが二体に向かって手を差し出す。

 しかし、二体はその手を取らずに恭しく跪いて応えた。


「・・・・・・ホントに、なかよくなれるかな?」

「それは、これから次第だね。」


 人工知能の様なものが搭載されているらしいので、その辺りは成長に期待しよう。

 しかし、倒されると蓄積した経験は全てリセットされてしまうそうだ。それも踏まえて運用する必要がありそうだな。


「とりあえず、握手はこうだよ。よろしくね。」


 俺は二体の・・・・・・いや、二人の手を取って握手した。

 早速覚えたようで、ニーナ達との握手も果たす。


「さて、それじゃあ二人の名前を決めようか。」

「名前?」


「そ、【うごくよろい】と【パペットメイド】じゃ呼びにくいでしょ?」

「うーん、名前かー・・・・・・。」


 俺の提案に、皆が唸りだす。


「いきなり言われると思いつかないな。」

「そうね、折角なのだし、可愛い名前を付けてあげたいのだけれど・・・・・・。」


 自分で提案してなんだが、確かにいきなり思いつかないものだな。

 それから全員でたっぷりと悩み―――


「・・・・・・ねぇ、とりあえず仮で鎧の方はキシドー、メイドの方はメイで良い?」


「あ、あぁ、少々安直な気もするが、仮ならそれで良いだろう。」

「そ、そうね、戻ってからゆっくり考えましょう、皆。」


 疲れ果てた空気の中、全員が頷いた。


*****


「よし、キシドー。ちょっと動いてみて?」


 キシドーは自らの身体を確かめるように動かして見せた。

 見る限りでは問題無さそうだ。

 その様子を見てヒノカが一言漏らす。


「しかし、随分と地味になったな。」


 ヒノカの言う通り、キシドーの煌びやかだった鎧は土に覆われ、今や見る影もなくなってしまっている。

 余っている土を使い、鎧のパーツを一つ一つ薄い土の膜で覆ったのだ。


「鎧も身体の一部だからね、これで一応鎧を着たってことになるんじゃないかな。」


 多少は防御も上がるだろう。

 倒されても復活するとは言え、気分の良いものではないしな。

 特に育て直しとなると面倒くさい。


 もうちょっと恰好良くしてやりたいところではあるが、今は使える土も少ないのだ。

 それは戻ってから考えよう。


「それじゃ、そろそろ行こうか。」


 俺の言葉にキシドーとメイがゆっくりと頷く。

 新たな仲魔をパーティに加え、俺達は炭坑迷宮の探索を開始したのだった。

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