57話「ボッタクリ」
朝の光で目覚めると、俺付きのメイドが音も無く近づいてくる。
・・・・・・どうやら着替えらしい。
全員を起床させてから、部屋へと戻り、昨日とは違う落ち着いた感じのドレスを着せられた。
そのままメイドに連れられ、辿り着いた場所は食堂。
細長くて大きいテーブルには、既に朝食の準備が整えられていた。
続々と他の皆も、それぞれのメイドに連れられてやってくる。
朝食は野菜や果実を中心に、昨夜とは違ってあっさりとしたものだった。
まぁ、朝だからちょうど良いくらいである。
しかし、味が落ちるといったことはなく、朝から元気な者達は何度もおかわりしていた。
誰とは言わないが。
その中で、気になった事が一つある。
上座に用意された一組の食器だ。
俺達は下座に向かい合うようにして座っていたのだが、そこには四組ずつ食器が用意されていた。
つまり全部で九人分。一人分多いのである。
予備、という訳でもないだろう。
結局、その席に誰かが着くことはなく、朝食の時間は終わったのだった。
*****
さて、部屋に戻って着替えさせられたのはボロ服である。
即ち、此処へ来た時の恰好だ。
部屋の外へ連れ出されると、皆も同様に着替えさせられていた。
案内されるがまま付いていく。
今度は聖騎士が部屋の前に止めてあった荷車も持ってきている。
このまま送り出される、ということか・・・・・・?
まぁ、生憎というか、予想通りというか、事はすんなりとは進まなかった。
連れて来られた場所は、次の迷宮への門がある部屋の目前。
だが、その部屋はこれでもかと強力な結界で護られている。
部屋の入り口の前には小さな羽でパタパタと浮かんだインプ。
そいつが、とんでもないことを言い放った。
「締めて、200万G《ゴルド》になりマス。ギヒヒヒ。」
なるほど、そう言う事か。
沸き立つ皆を後ろ手で制し、インプに問いかけた。
「もし払えなかったらどうなるんですか?」
インプは意地悪く口を歪める。
「代金分、キッチリ働いて貰うヨ!ギヒヒヒ!」
どういう労働条件かは分からないが、随分面倒そうだ。
「へぇ、それで、本当に200万Gで良いんですか?」
「ヘッ・・・・・・?そ、そうデスヨ。」
「随分と安いですね、それなら後三日ほど滞在させて頂きます。メイドさん、騎士さん、お聞きの通りです。部屋まで案内して貰えますか。」
「えッ・・・・・・アッ・・・・・・ちょ、チョット!?」
うろたえるインプを捨て置いて、そのままさっさと部屋へと戻り、フラムの部屋へ再度集まった。
案の定、リーフが凄い剣幕で詰め寄ってくる。
「ちょっと、どういう事なの!?勝手にあんな事・・・・・・!」
「多分なんだけど・・・・・・どこかに抜け道か何かあると思うんだよね。」
この状況を覆す何かが。
まぁ、ぶっちゃけって言ってしまえば・・・・・・今までがイベントのオープニングで、これからが”本番”てところだろう。
「多分って・・・・・・!確証もないのに!?」
「まぁまぁ・・・・・・、落ち着いてよ。ここでの借金なんて、いくらあっても大した事ないし。」
「な、何を言ってるのよ!?200万よ!?」
「いや・・・・・・だってそうでしょ?起動語で脱出しちゃえば終わりなんだし。」
そう、それで全てはチャラだ。
裸にはなってしまうが。
「確かに・・・・・・そう、ね。・・・・・・だったら尚の事、何故こんな事を?逃げられれば一銭にもならないのに。」
ゲームのイベントだから、なんて言っても分かって貰えないだろうな。
こういう説明が一番難しい。
「まぁ、この迷宮を造った神様が書いた物語に付き合わされてると思ってよ。」
「・・・・・・余計意味が分からないわ。」
*****
メイド服を躍らせ、モップを片手に煌びやかな室内を見渡す。
大きな鏡の下には金で作られた洗面台。
室内の奥には金で作られた便器。
無駄にデカイ個室トイレである。
「・・・・・・掃除する必要ないくらい綺麗なんだが。」
この三日間で1000万Gにまで膨らんだ借金のためだ。
・・・・・・なんて殊勝な事は微塵も思っていない。
とはいえ、一つだけ誤算があったのは確かだ。
【客人】の状態では満足に城の中を探索出来なかったのである。
どこへ行こうにも、聖騎士たちにやんわりと阻まれてしまうのだ。
無理矢理押し通る事も可能だっただろうが、彼らを敵に回すのは得策ではない。
要はフラグが立って無かった。という事だ。
だが、こうして【メイド】になってしまえば、あっさりと通してくれる。
そんな訳で、バケツとモップを担いで城内を探索中だ。
まぁ、掃除は魔法一発で終わるんだけど。
気分だね、気分。
とりあえず部屋を一つ一つ掃除し、ある場所へと近づいて行く。
城に入ったら調べたい場所ナンバー2ぐらいの場所である。
まずはあそこを調べないと始まらないだろう。
その瞬間に終わるかもしれないが。
ちなみに、ナンバー1は宝物庫。
お宝を持って行って良いか聞いたら、首を横に振られたが。
ともあれ、目的地前に到着。
「お疲れーっす。掃除にきましたー。」
警護をしていた聖騎士たちは顔を見合わせ、扉を開いてくれた。
清掃業者に変装して、どこかのビルに侵入するのもこんな気分なのだろうか。
それにしても、警備ガバガバだな。
さて、それじゃあちょっと調べさせてもらいますよ。
アリューシャはあしもとをしらべた。
なんと、かいだんをみつけた!
やっぱり、玉座の後ろはちゃんと調べないとね。
*****
隠し階段を下りると、一つの扉の前へと出た。
所々金の装飾が施され、ドアノブまで金で出来ている。
城の主だけが知る、秘密の部屋といったところだろう。
鍵が掛けられていたが、触手を差し込んで回したらあっさりと開いた。
カードキー認証みたいなのじゃなくて助かったな。探すの面倒だし。
鬼が出るか蛇が出るか、魔手でドアノブを回し、扉をゆっくりと押し開いた。
こじんまりとしているが、城内にある部屋と違わず豪奢な部屋である。
細かい意匠の化粧台に大きな姿見、クローゼットの取っ手にも金が使われている。
金の壷に活けられた金の造花。
大きな天蓋の付いたベッド、そしてそこに座っている―――人形。
城内にいるメイドと同じタイプのようだが・・・・・・豪華なドレスを身に纏い、その頭には王である証。
手足には枷が嵌められており、動けないようだ。
人形がこちらを見て首を傾げた。
喋れない人形に代わり、俺が問いかける。
「もしかしなくても、このお城の女王様?」
コクリ、と頷く。
「じゃ、これでイベントクリアかな。
扉の鍵と同様にして手足の枷を外してやる。
解放された女王はスッと立ちあがり、軽くドレスの裾を摘まんで優雅に頭を下げた。
「それじゃあエンディングと参りましょう。付いて来て貰えますか?」
女王の手を取り、その足でインプの元へと向かう。
その途中で聖騎士たちを集めながら。
結界の前では相変わらずインプがふんぞり返っていた。
インプが意地悪く俺を詰る。
「よお、ガキ。ちゃんと働いてるカ?ん?」
「うん、隅々まで掃除してきたよ。お陰でこんな人ともお友達になれたし。」
新しく【お友達】になった彼女を呼び寄せる。
「ゲェッ!?じょ・・・・・・女王!?ば、バカな!鍵はココニ・・・・・・!!」
女王の後ろに控えていた聖騎士たちが次々と飛び出し、インプを取り押さえた。
「ギィエエエッ!!は、離セェ!!」
がむしゃらに暴れるが、所詮は小悪魔。聖騎士たちには敵わない。
お縄に付いたインプは、そのまま聖騎士たちの手で連行されて行った。
「これにて一件落着、かな。」
*****
「それでは女王様、色々とお世話になりました。」
見送りに来てくれた女王や聖騎士、メイド達に向かってメイド服のスカートの裾を摘んで礼をする。
女王はゆっくりと首を横に振った。
女王を助けた後、三日三晩パーティが続き、やっと解放されたところだ。
今着ているメイド服は女王からの贈り物である。
勿論、それだけなんてケチ臭い事はない。
舞踏会で着ていたドレス一式も全員分荷車に積んである。
それだけでも、売れば一財産になるだろう。
売るのは勿体無いので、ずっと残しておく事になりそうだが。
ミスリルの糸で編まれているため、ある程度なら身体に合わせてサイズが調整されるのだ。
とんでもない巨漢にでもならない限りは一生モノのドレス。フォーマルな衣装が必要な時には活躍してくれることだろう。
新しいのを買うのが面倒臭い、とかいう事では断じてない。
ともあれ、俺達は無事に第11階層を抜けることが出来たのだった。
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