2年前11月

第24話 まっさらになって

 フミがフリーになって数ヶ月が経ち、冬が間近に迫っていた。吹く風の冷たさもはっきりしてきて、上着も厚手の物へと変わり始めている。

 フミの部屋にあるエアコンは室内を暖かに保ってくれていて、加湿器が潤いを与えていた。

「水、足しておくよ」

 タンクの水がなくなってきているのを見て僕が声をかけると、ありがとうとフミが顔を上げる。

 最近のフミは、仕事中に話しかけても時々反応を見せてくれる。

 以前は全くの無視だった状況が、今はこうして僕の声がフミに届いていると思うと、自分の存在を認めてくれているのかな、なんて、いいように解釈してみたりする。

 あの人が居なくなった分のスペースに余裕ができたのかもしれないけれど、そう考えると悔しくなるからそうは思わないことにもしていた。

 あの夏、あの人との関係を断ち切ってからも、フミは思い出したように突然暗くなったり、前触れもなく涙を流す事があった。不倫だったとはいえ、好きだった人との別れなわけだから、当然といえば当然の反応だと思う。

 僕が居る時にその症状が出ると、思う存分泣かせて、やけ酒にも付き合った。

 一人の時のフミが心配だったけれど、僕が思っている以上にフミは強かったらしく、僕の知る限り薬に頼っている様子は欠片もない。

 そうやって、少しずつあの人との記憶で流す涙の数が減り、代わりに増えた前向きな表情は、これが本来のフミなんだ、と改めて知るような出来事もあった。

 フミは自由奔放に見えて、実は意外と計画性を持った性格だとか。あまり怒らないタイプかと思っていたけれど、ドラマなんかで納得のいかないシーンに出会ったりすると、凄い勢いで怒って僕に同意を求めるなんて事もある。

 それまでフミが怒る瞬間に出会ったことがなかった僕は、驚いたのはもちろんだけれど、どう対処すればいいのか判らず、最初の時は情けなくもおたおたとしてしまった。今では、宥めすかすなんて方法を身につけた。

 そんな風に感情の波が以前よりも大きくなったフミは、よく笑うようにもなって、僕はその笑顔がみたいがために、くだらない話をすることもあった。

 あの人の色に染まっていたフミは、少しずつその色たちを脱いで、もう一度まっさらになろうとしているのだろう。

 僕は、そんなフミに僕の色を重ねていきたい。

 僕色に染め上げる。なんて言ったらメチャクチャ恥ずかしいけれど、そう思っているのは確かで。フミ自身の持つ柔らかな雰囲気を台無しにしないように、素敵な色に染め上げたい。

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