第64話 全て夢のせいにして
さっき見た夢のせいだろうか。あんな夢を見たせいで、行動が抑圧されているのだろうか。もしかしたら、これも夢なんじゃないだろうか。現実の物じゃないのかもしれない。寝ぼけている自分は、今も夢の中を浮遊しているだけなのかもしれない。さっき見た夢の中で、僕は又別の夢を見続けているのだろう。
どちらにしろ、その内容は最低だ。実はフミと付き合っているのも夢かもしれないなと、冗談交じりに嘆息したところで、携帯を不自然に伏せたフミの行動を思い出しイラつきがよみがえる。
僕の気持ちを支配してくるイラつきを無理やり押さえ込み、夢ならきっと覚めるよなとなるべく軽く考えようとしてみたけれど、帰り際に言われた、ごめんね、が、どうやったって榊さんとのことを謝っているようにしか受け取れない。二人の間に、僕以上の関係があるように思ってしまう疑う心を打ち消せない。
「携帯くらい、見ればいいじゃんっ。何で隠すように伏せるんだよっ」
早朝の道っぱたで零してみても、何の解決にもなりはしないのはわかっている。
諦めるように息を吐き、僕は最寄り駅を目指した。
まだ出社までには時間がある。家に戻って、シャワーを浴びて頭を冷やそう。きっと僕の思い過ごしでしかない。
フミが、榊さんとどうにかなるはずなんてないじゃないか。過去の事は、過去のことでしかないじゃないか。
自分へ言い聞かせるようにしながら、駅までの道のりを早いスピードでひたすら歩き続けていた。
頭を冷やさなきゃと思いながらも、後悔が頭をもたげる。足を一歩踏み出すごとに、後悔に押しつぶされそうになっていく。
いくら悪夢を見たからといって、どうして冷静でいられなかったのか。冷たくフミに背を向け家を飛び出すなんて、子供でもあるまいし。普段どおりに振舞っていればいいだけのことじゃないか。もっと大人になって、大きく構えていればいいじゃないか。今付き合っているのはこの僕だって、何で自信を持てないんだよ。
自分で自分に嫌気が差して、この場で誰かに撃ち殺してもらえたらどれだけいいだろうと想像する。
自分が打たれ死ぬところを想像して、逃げるなよっと舌打ちが出た。
最低な自分にまた項垂れる。
携帯を無視したのには、きっとフミなりの考えがあったはずだ。何か、自分の中だけで解決しようとしていることがあるのかもしれない。
そうだよ。フミはなんでも一人で抱え込むような人じゃないか。それを僕はよく解っていたはずなのに、どうしてあんな態度を……。
何かあるなら話して欲しいと、優しく言えなかった自分の器の小ささが本当に嫌になる。
僕って、なんて小さい男なんだ。
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