人類最後の三柱
スカーレット・アッシュベル。
人類最後にして最強の三柱として数えられる三人が並んで立つ。それこそ、彼らが三柱として数えられるきっかけとなった大戦以降初めてのことだろう。
故に三柱として並ぶのは、これが初めてでもあった。
「ミーリの霊力を感じる……おまえも、我が愛弟子を愛してくれていたのだな。感謝しよう」
今にも風に飛ばされそうになっていた眼帯を拾い上げる。
きっとミーリが買い与えたのだろう眼帯に刻まれた逆さ十字についた四つの煙水晶に、わずかながらリストとミーリの霊力が残っていた。
スカーレットはリストと面識はなかったが、彼女が命を賭してユキナという巨大な敵に一矢報いたことはわかる。ならばその覚悟、無駄にはできまい。
「感傷に浸ってる場合か年増。さっさと臨戦態勢に入らんか」
「相変わらず女心のわからん小僧だ。わざわざ臨戦態勢に入らねばならん貴様はまだまだ二流よ。それで最強とは、笑わせる」
「よしてください二人共。さすがに僕も、彼女が相手だとそこまで余裕がないので」
人類最後の三柱と呼ばれるだけはある。
すでにスカーレットと対峙し、対決しているユキナだが正直彼女一人でもそこらの魔神や神よりずっと苦戦を強いられた。
それと同格が三人も並ぶと、それなりの覇気も感じるし常人なら耐えられぬだろう威圧感も感じられる。これだけのプレッシャーを放てる時点で、ある意味彼らも人間をやめていると言って過言ではないだろう。
それに、彼らだけではないようだ。
「あんたがユキナちゃん? なるほどあのミーリが苦戦するわけだわ」
「気を付けてください。
「がが、ががが……!!!」
「/様、如何様に致しましょうか」
「滅神者様、力不足ではありますが加勢を」
スカーレットの愛弟子、エリエステル・マイン。
/の名も知らぬ側近が二名。だが霊力は相当なものだ。手練れに違いない。
滅神者の治める学園から、ナンバーⅡの
「はははははっ! 貴様がユキナ・イス・リースフィルトか! なるほどこれはまた、心躍らされる怪物だなぁ!」
元全学園最強。いや、ミーリが学園を自主退学したので、再び全学園最強の座についた女、ディアナ・クロス。
九対一。うち三人は強さだけで言えば人間をもはややめている怪物。
だが、卑怯だとは思わない。何故なら自分はこの状況下においても、ずっと格上の存在だとユキナは自負している。むしろこれくらいの精鋭を揃えて挑んでくれないと、舐められている気がして腹が立つ。
無論、最高の相手はミーリなのだがそれを除けばこの状況が最も、彼らが自分に対抗する最高の形と言えるだろう。彼らが自分を、甘く見ていない証拠だ。
何より今、ユキナの体は忌々しい死の呪いによって汚染されつつある。ミーリの武装が死を賭して作ってくれた彼女を打倒するこの好機、逃すわけにはいかなかった。
「人類最後の三柱が揃って相手してくれるなんて、光栄ね。でもあなた達も光栄に思いなさい? 相手はユキナ・イス・リースフィルト。そして、天の女王なのだから」
直後、ユキナが殴り飛ばされる。
電光石火の速度で回り込み、顔面に肘鉄を叩きこんだ滅神者の全身を可視化できるほどの厖大な霊力が覆っている。常人のそれとは比較にならない肉体強化を付加して、ユキナも初見では追えない速度で攻撃した滅神者は、今の一撃で仕留めきれなかったことに唸った。
今までなら今の一撃で終わっていた。魔神の首など、簡単にへし折れていたし、頭が吹き飛びもするはずだった。
だがユキナの首は未だ胴体と繋がっており、倒れてもすぐに起き上がって来た。これ以上なく不服。不満が募る。
「傲慢な小娘だと思っていたが、なるほどそれだけの力はあるらしいな。だがそうでなければ、これまでの悪逆が成せるわけもないだろうが」
「気を付けてください、滅神者。誰かが相当に頑張ってくれたのでしょう。今の彼女からは、報告にあったほどの神格を感じない。それでも、彼女はもはや天の女王と同義です。そして彼女を戦いで倒したという逸話、神話は存在しない」
「冥界下り。だがその後も、奴は蘇生されているつまり彼女を真に殺せたものは、誰もいないわけだが」
「我は神を殺す者ではない。我は神を滅する者――故に滅神者なるぞ! たかだか空の一つを掌握した程度の小娘が、粋がるなよ!」
滅神者は
常軌を逸して厖大な霊力を持つ故、それに応えられるだけの武装が召喚できないのだ。彼が召喚を行おうとすると、召喚陣そのものが彼の霊力に耐え切れず消滅してしまう。
故に彼は神を殺すための体術と霊術を身に付けた。故に彼の強さは、小細工も能力も関係ない。シンプル・イズ・ベスト。単純に強い霊力と肉体で、最強の称号を得た男。それが彼だ。
「その細い首、叩き折ってやる!」
血管が浮かび上がるほど筋肉を膨れ上がらせ、渾身のラリアットを食らわせようと振りかぶる腕に、あろうことかユキナは脚を絡ませる。身を捻り、脚で滅神者の首を捕まえると全身を捻って捻り切ろうとするが、同じ方向に滅神者が回ったことで躱され、ラリアットを食らわせようとしていた腕に投げ飛ばされた。
着地直後、ユキナに霊力の塊が放たれる。なんの特殊能力もない。単純明快な破壊の塊。滅神者の掌から、予備動作も構えもなく連射され続けている。だがこの程度の単純攻撃、躱すことなど造作もない。
「“
「天地を返せ、
回避のために後方へ跳躍した瞬間、ユキナの天地が返される。跳躍力は地面へと向けられて、自ら大地にダイブしたかのように張り付き、そこに桜舞い散る斬撃の連続技が走る。
すぐさま両手で地面を押す形で跳び、両脚を広げて回転。追撃しようと振り返った雪白をガードした妖刀ごと蹴り飛ばすが、雪白に気を取られている間に別の追撃が襲い掛かる。
/の部下の顔に札を張り付けた男が、長い袖の中に隠れた腕で掌打を繰り出してくる。どこぞの拳法家なのだろうが、随分と独特の動きで何より速い。が、ユキナが追いつけないはずはない。
軽く足を払って体勢を崩したところに、強烈な蹴りを叩きこむ。腹部に風穴を開けたつもりだったが、ガードされたようだ。
さらに気付く。自身の体の至るところに、霊力の籠められた札が貼られていることに。掌打は攻撃ではなく、この札を貼り付けるためのものだった。
「“
体が動かない。動きを封じる札か。だが霊力で縛り付けている以上、それを上回る霊力で掻き消してしまえばいいだけのこと。
そうしてユキナの霊力で札が燃え果てるが、わずかに生まれた隙を彼らが逃すはずもない。スカーレット・アッシュベルの緋色の槍が、雷撃をまとってユキナの胸元を貫いた。
「スカーレット、一度負けておきながらまだ私に向かって来る気?」
「すまないな。さすがに人類最後の三柱とまで呼ばれておいて、あの程度で脱落は格好つかないと思ってな……!」
「あなたに私は殺せない。それに――」
槍から抜け出たユキナは跳び上がり、膝蹴りをスカーレットの顔面に叩きこもうとする。背を反って躱されるも、振り返りざまに回し蹴り。槍にガードされても尚、風を切る俊足の武脚がスカーレットの横髪を刈り取った。
「ミーリの師匠だから当然だけど、あなたは彼と同じ槍使い。槍で私に勝てると思う?」
「だから大人数で戦うんでしょ!」
スカーレットが顔を傾けた奥から、投擲された長槍が迫り来る。
頬を掠め斬られながらも躱したユキナはスカーレットの肩を足蹴に跳び超え、長槍を投げたエリエステルに肉薄。大気を蹴り、勢いを付けた踵落としで迫る。
だがエリエステルの反射が紙一重で躱し、短槍でガードしようと伸ばされたユキナの左手を貫いた。噴き出た血飛沫を舐め取るユキナの蹴りを側腹部に受けて、エリエステルもまた口から血を溢れさせる。だが蹴り飛ばされまいと踏ん張り、脚を捕まえて離さなかった。
「姉弟子の意地かしら。無駄死にになるわよ」
「そりゃあ、弟同然の弟子のために命くらい張るわ。ただ、無駄死にする気はないけどね!」
エリエステルは短槍で再び攻める。体を捻って自ら捕まっている脚を折りながら回ると、彼女の頬を蹴り飛ばして拘束から逃れた。
口の中を切り、臓物を潰されたエリエステルは大量の血液を嘔吐する。
「姉弟子って言っても、あんたはミーリにはもちろん、樟葉にも劣ってる。無駄死にして時間稼ぐ以外に、何か役に立つ手段があって?」
「えぇ、まぁ。だってあんた、この槍の能力、知らないでしょう?」
「どういう――」
左手の回復速度がおかしい。自身で折った脚はすでに完治しているのに、未だ彼女の槍に貫かれた左手には風穴が空いたままだ。何より傷は少しずつ塞がってはいるものの、指の動作がうまくいかず、痺れている。
「
「こ、の……!」
「んでもって!」
スカーレットが投げた赤の長槍。それもまた、エリエステルの召喚した魔槍である。
気付いたユキナが背後から迫りくる槍を避け、エリエステルが掴み取り、振りかぶる。
スカーレットの弟子だけあって、華麗な槍捌きで肉薄しつつ牽制。刃と石突が交互に襲い掛かりつつ追い詰めて、加速した一撃がユキナの左手を掻き斬った。
麻痺してもはや使えないのなら、使い捨ての盾にすればいいというユキナの判断は正しかった。だがもっと言えば、受けることすら避けるべきだった。切り裂かれた左手から、霊力が揮発して血と共に抜けていく。
傷が塞がると霊力が抜けることもなくなったが、長槍の能力はユキナも警戒を抱かざるを得なかった。
片や回復を阻害し、片や傷口から霊力を抜きとる。仮に短槍で回復しない傷をつけ、長槍でその傷を抉られれば、回復することのない傷口から永遠と霊力を奪われて死んでいただろう。
「理解できた? 確かにミーリや樟葉と比べたら見劣りするかもだけど、お姉さんそこまで小物じゃないのよね。特にボリューム、とか?」
戦闘とはまるで関係ないところでカチンときた。
ミーリは何も言わなかったけれど、自分の中で燻り続けていた小さな体というコンプレックスを的確に突かれて苛立ちを抑えきれない。
「なんならその肩凝りそうな胸、抉り取ってあげましょうか?!」
ユキナより先に、ディアナが動いた。スサノオとの戦いで万全ではないというのに、三柱を除けば最も凄まじい覇気と威圧感を放つ彼女の斬撃は、ユキナの腕を抉り斬るため襲い掛かった。
ユキナの武脚とぶつかって弾かれるが、ディアナは興奮した様子で再度斬りかかる。満身創痍にも関わらずどんどんと重くなっていく斬撃を繰り出してくる彼女を、ユキナは化け物と思わざるを得なかった。
「はっはっはっはっは! いいぞ、もっとだ! もっと私を楽しませろぉ!」
「何よ、この戦闘狂!」
「至らぬ娘ですまんな」
緋色の雷撃が槍の突きと共に放たれる。雷撃がずっと先まで届いて、雷鳴を轟かせた直後、ユキナの武脚とディアナの剣とがぶつかり、さらにすぐ後にスカーレットの槍ともぶつかって二人の攻撃と攻撃の合間を駆け抜けた。
緋色の槍と龍殺しの剣とが、ユキナの武脚とぶつかって火花を散らす。
果たして世界最強の女性とその血筋を継ぐ娘が凄いのか、天の女王を従えて彼女らと拮抗する少女が凄いのか、もはや理解が及ばない。
「どけぇ!」
滅神者の気弾が上空から放たれる。単純な破壊という暴力そのものが頭上から落ちて来て、ユキナは一瞬で影諸共光の中に掻き消され、衝撃と炸裂した爆発の中に呑み込まれた。
本来ならば、この一撃で消し炭になっている。いや、炭にすらなっていない。原子に近いレベルにまで分解されているはずだ。
が、ユキナを殺すべく放たれた光は一か所に集中し始める。音も光も空間も、すべてが一点へと集束して合掌された少女の手の中に収まったとき、ユキナ・イス・リースフィルトはまるで生まれ変わったかのように落ち着いていた。
一瞬とはいえ、体は分解されたはずだ。不死身とは言っても不死鳥ではあるまいし、自身を一瞬でも焼き殺した光の中で生まれ変わったはずもない。
だが今までの焦りも動揺も、もはや開き直って受け入れてしまったかのような落ち着きを持って、彼女は宙に立っていた。
「おいで、“
「マズい。皆さん、あれを相殺します! ご準備を!」
上空に突如現れた雷雲とその中で見開かれた巨大な目を見て、/が珍しく叫ぶ。
ユキナは気付いてしまったのだ。あ、この程度なら今の自分にもできると。それを超える霊術が、自分にはあると。
リストの残した死へと近づく呪い。
エリエステルの二本の槍の能力。
人をやめた三柱による攻撃など、様々な角度から追い詰められた結果、開き直ってしまったユキナは逆に落ち着きを取り戻し、冷静になった頭は静かに彼らを圧倒する術を簡単に思いついてしまったのである。
「獅子の咆哮の如く蹄鉄を鳴らし、エビフの山をかち砕きなさい――“
先ほど滅神者が放った光線など比ではない。
重なった積雷雲の中で唸っていた金色の雷が一か所に集束して、光の束となって落ちて来る。そのまま地面を割って、星の核さえも穿ちかねない凄まじい力の塊だ。相殺などできるはずもない。だが、一人ならばの話だ。
「滅神者を名乗る俺を舐めるなよ小娘がぁぁっ!!!」
「相殺? 笑わせるな。逆に貫いてやろう! “
滅神者とスカーレットが先に最大出力で放つ。さすがに霊力の展開が早い。
「遅れるな!」
/の激励を受けて、残りの全員も最大まで霊力を高めた。一斉に、放つ。
「黒髪の英雄よ。己を育てし海神と妖精王の加護を受けて、その力を解放せよ! “
「これなるは天地創造の鉾……天地を隔て、逆立て、断絶し、人と魔を隔てる鉾。故にこの投擲もまた、人より魔を断つ一撃なり! “
「千の斬撃をこの一刀にすべて――僕に、切り開く力を。“屍の紅・
「煩悩……炸裂!」
/ともう一人の部下とで、他全員の能力を底上げする霊術にてサポートする。だがまだ足りない。これだけの実力者が揃って最強遠距離攻撃を繰り出しても、未だユキナの雷が押している。
だが/はそれすらもわかっていた。同時、彼女が相殺しろだなんて指示を聞くはずがないこともわかっていた。
彼女ならこう考える。相殺する必要性などどこにある。元を断てばいいではないか、と。
「おい貴様、随分と高くから見下ろしていて爽快か?」
ユキナは見上げる。ディアナの握る剣が、十字に輝く光を放って堂々と、一撃を放つことを宣言していた。
「叩き堕とすぞ、神」
ユキナはとっさに彼女の攻撃を止めようと手を伸ばす。が、忘れていた。
左手にはもう、以前までの力がないことを。
「“
星を貫かんとしている雷の槍の隣で、輝ける十字の光輝。
ユキナは光の中に沈み、雷は星を貫くことなく消え失せる。
結局相殺することは適わず、ディアナがユキナを斬るまで持ちこたえるだけの形になってしまった彼らは、三柱を残して他全員が霊力を完全に使い切って倒れていた。
降り立ったディアナは、情けないと思いながらも奮闘した後輩の額を指先で拭い払ってやる。
臆病で、自分に自信も持てなかった彼がこの戦場に出てきたことには、ディアナもわずかに驚いていた。
が、最近惚れた女と祝言を上げることが決まったという。惚れた女と共に生きるため戦うなど、死亡フラグもいいところだが、それでも尚挑みに来るほど、その人のことが大事なのだろう。
未だ、愛されるということに関しては疎いが、それでも雪白のような臆病者の背中を押してしまうほど、愛とは強いものなのかもしれない。
「先ほど、どさくさに紛れて娘と呼んでくれたな」
「……不服か。こんな女に娘と呼ばれるのは」
「そうだな。あなたを母と呼ぶには、まだ時間が要るだろう。その時間を作るためにも、あれは倒さねばな」
「そう――」
直後、スカーレットはディアナを突き飛ばす。突然のことで反応が遅れたディアナが尻餅をついて文句を言おうと見上げたとき、見たのは腹を貫かれて血を吐くスカーレットの姿だった。
「まったく……みんな鼓膜破けてるの? 私を殺せるのはミーリだけ。私を倒せるのはミーリだけ。そう、言い続けてきたのに。それでも立ちはだかるから、こうなるのよ」
滅神者が拳を振りかぶり、ユキナの背後を取る。/の霊術で強化も施した。一時的にでも彼女を止められるはず――が、拳を振りかぶった滅神者の首が消し飛んだ。一時的どころか、滅神者は永久に止められてしまったのだった。
「アンゴルモア……」
「あなたは心臓と頭、どっちを潰されたい?」
滅神者の首を消し飛ばしたのだろう、血に濡れた脚を見せて言う。
同時、スカーレットが見たユキナは髪が黒ではなく金色、瞳は紅色へ変色を遂げ、また厖大な霊力を得て神へと近づいていた。背も伸びたように思える。
「ミーリの師匠だから、特別に選ばせてあげる」
「やめろ! ディアナ!」
怒りに身を任せたディアナの剣が、ユキナの体に叩きこまれる。だがもはや刃は通らず、刃は彼女の肌にぶつかるだけで傷もつけられない。それでも刃を通そうと強く握り締めるディアナの手の方が、先に裂けて血を流す。
「止せ、ディアナ! 今のおまえが敵う相手ではない!」
「黙っていろ! こいつだけは、こいつだけは……!」
「うるさいわね」
すでにスサノオによって斬られていた眼球が弾けて、血が噴き出す。すでにほとんど見えてなどいなかったが、これで完全に光から絶たれてしまった。
さすがにディアナといえど興奮できるような痛みではなく、初めてディアナが痛む箇所を押さえて叫ぶ。溢れ出る血涙を押さえながら、それでもユキナに牙を剥いて唸る姿は、もはや意地以外の何物でもなかった。
「うるさいと言ったでしょう? 本当に鼓膜がないのかしら」
「きぃさぁまぁ!!!」
「汚らしいわ……消えて」
ユキナが手を振っただけで、地面を抉って走る衝撃が飛ぶ。
ディアナの体を両断し、スカーレットの戦意を完全に削ぐ、はずだったのだが。
「ごめんドゥルガー! 大丈夫?!」
赤い炎と共にディアナを背負った女は言う。土煙を払って立ち上がった武神ドゥルガーは、攻撃の軌道を変えるために犠牲にしたのだろう痙攣する右腕三本を押さえながらも、大丈夫だと強がりで返した。
「ドゥルガー、先輩達をお願い。僕はあの子と」
「わかっていると思いますが、あの方はミスターミーリにしか倒せません。あくまで時間稼ぎということだけは、念頭に置いてくださいね」
「わかってるって!」
また増援? ホント、みんなバカばっかり――
真白の光が、漆黒の瘴気と共にユキナの目の前を走る。つい反射で避けてしまったが、そんな必要もなかったなと思いつつ、ユキナは光が来た方向を見た。
「出来るのは時間稼ぎまで、という話なだけだろう。殺すつもりでかからなければ、こいつ相手に時間稼ぎもないぞ。そこのところわかっているだろうな、オルア・ファブニル」
「わかってるって!」
「貴様もだぞ、
庭園から降りてきたのか、呼ばれた直後に空虚が着地する。漆黒の髪の下に忍ぶ双眸は、淡い金色を放ってユキナを見つめた。
「わかっている。おまえも後れを取るなよ、リエン」
「無論だ」
「今度はあなた達? もういい加減ミーリに会いたいんだけど。さすがにここまで焦らされると、苛立って仕方ない」
「まぁそう言わず、君にだって無関係な話じゃないんだからさ。君だって、参加したいでしょ? ミーリくん争奪戦」
オルアの挑発が籠められた発言に、紅の双眸が見開かれる。
だが決して冗談ではない。空虚、オルア、そしてリエン。彼女達もまた、同じ文句で挑発されては引き下がる気など毛頭なかった。
同じ一人の男を愛した者として、引き下がるわけには、他の誰にも負けるわけにはいかなかったのである。
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