血黒髪の漆黒

最も純粋な邪悪

 西の大陸、とある孤島。

 生い茂った森の中、まだ人類が発見に至っていない遺跡群がある。

 その中でもひときわ大きな遺跡の中で、魔女の魔神メディアは肩で息を切らしながら座り込んでいた。

「この……なんで、私がこんな……アストーの妨害さえなければ、今頃私が一なる魔法を手に入れて……!」

 魔法世界に逃げ込んで、その世界で一なる魔法と呼ばれた霊術の力を手に入れようとしたメディアだったが、自ら呼び出した死神の野望によって阻まれ、結果瀕死の重傷を負った挙句計画は失敗。

 さらに安息の地となるはずだった魔法世界からも追い出され、こうして逃げ隠れる日々を過ごしていた。

 この島の遺跡群にいるのは、単なる偶然と言うだけである。

 とにかく傷を治したいと、メディアは遺跡の奥へと入っていく。

 明かり一つない遺跡の中を進んでいくのは奥に水けを感じるからで、とにかく水分の補給をしたかった。

 だがその奥で、メディアは驚愕の光景を目にする。

 確かに水はあった。小さいが、水溜めとなっている場所がある。

 驚愕だったのは、その水溜めに根を下ろし、光のない中大きく成長していた一本の大樹。

 その幹の中から赤黒い光が怪しく見えており、さらにそれは心臓のように鼓動を繰り返していたのだった。

「これは、一体……」

「最も純粋な邪悪よ、魔女様」

 不意に声をかけられ、メディアは火炎弾を指先に出す。

 そこにいたのはとても幼くとても小さな、黒髪の少女だった。

 だがそのまとっている霊力といい、後ろに従えているとんでもない霊力量を持つ神々を従えている点といい、只者でないことは明白であった。

「あなた達は……」

「質問が多いのね。でもまぁ仕方ないわ。わからないことを前にすると、質問するしかないものね。それは、最も純粋な邪悪。生物の持つ三大欲求を司り、それらを従える者。名を――」

「アンラ・マンユ……」

「あら、ご存じだったの。なら話は早いわ。私は彼女を迎えに来た。復活させるには、とても大きく質のいい霊力がいるの。私達の霊力を分け与えるつもりだったけれど……目の前にがあるのならいいわよね?」

 メディアの火炎弾が少女に炸裂する。

 さらに追撃の雷霆と水銀の槍が放たれ、燃え盛る少女を貫いた。

「生贄だなんて冗談じゃないわ! 私は……私は生きるのよ!」

 魔力と化した霊力はまだ充分にある……魔法なんて異世界の技、耐えられないでしょう!

 メディアがさらなる攻撃を構え、展開させようとしたそのとき、メディアの両腕があらぬ方向に折れ曲がり、砕けた骨が肉を突き出て血飛沫をあげる。

 悲鳴するメディアの頭を踏み付けて、少女は自らに刺さる雷霆と水銀の槍を引き抜いた。

「生贄が抵抗しないで。まぁ生贄が嫌なら、その心臓を私が食べて霊力の糧にしても構わないのだけれど……どちらがご所望かしら」

「あ、なた……あれだけ純質な星の霊力を受けて無傷って……一体、何者……?」

「星? ……それが何?」

 少女はメディアを踏み付けて、そして囁くように名乗る。

 さながらそのときの彼女の姿は、女王や皇帝であった。しかしそれも、そのはずである。

「私は宇宙そら。天空こそが私の領域。私の支配はあなた達では届かない天空からのものよ。故にかしずきなさい。私はユキナ・イス・リースフィルト。魔女如きが、私に立てつくなんて万年早い」

「! そ、ぉ……あなたがユキナ・イス・リースフィルト……強いわけ、d……」

 メディアの背中を手で貫き、意識を奪う。

 そのまま命すらも尽き欠けているメディアを大樹の中へと抛り込み、その肉体ごと霊力を取り込ませた。

 大樹の中へとメディアの体が減り込んでいき、取り込まれ咀嚼される。

 その中の霊力を吸い上げた大樹の中の赤黒い光は鼓動を早め、そしてより一層強く輝き始めた。

「ママ……?」

 大樹の中から、鈴の音のような声が響く。

 ユキナは大樹へと擦り寄り、赤黒く輝く幹を撫で回した。

「起きなさい、アン。あなたの出番よ」

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