vs 龍殺しの剣《アスカロン》
「それではお待たせいたしました! 準決勝第二試合、選手入場です!」
ガスが吹き付けられ、そして双方から同時に入場する。計四人の姿が同時に見えると、観客席は沸いた。
「今大会最強のダークホース! 対神学園・ラグナロク! ミーリ・ウートガルド! 対するは全学園最強、エデンのディアナ・クロス! もはや決勝戦さながらのこの組み合わせ! 熱戦が予想されます!」
観客席。
「ミーリ……」
相手は全学園最強。なんだか客席で見ている方が、ずっと緊張してしまう。おそらく当の本人は、まったくしていないだろうに。
「主、何故緊張しているのですか?」
「なんじゃなんじゃ、そんな怖い顔をして。戦うのはあいつだろうに」
「そうだな……」
そうだ。私は何を緊張しているのだ……恥ずかしい。
だが隣を見ると、オルアも緊張している様子。他の生徒達も、とくにミーリと交流の深い生徒達は、顔つきが真剣になっていた。まるでミーリの代わりに、みんなで緊張しているかのようだった。
「ようやくだな! ミーリ・ウートガルド! 私はこのときを、楽しみに待っていたぞ」
「俺はヤでしたよ、最強先輩。だって先輩だけ、目が違うんだもん。戦いに対して思うところとか、考えるものとかないでしょ」
「思い? 考えるもの? なんだ。戦いにはいちいち志だの誓いだの約束だの、そういうのが必要だという口か? そういう奴は決まって言う。おまえは冷酷だと。まるで戦いそのものが、冷酷であるかのようだ。誓いだのなんだので、それを無理矢理彩っているようだ」
「彩ってるんですよ。戦いは冷酷で、残酷だから。勝利と敗北なんて味気ないものだから。色々彩って、勝っても負けても何か感じるものにしたいんですよ」
「くだらん。戦いほど高揚するものはないだろう? 戦いほど
「まさか。俺は寝るのと食うのが好きなんですよ。戦いなんて面倒なだけで、やりたくない。本当はこんな大会すっぽかして、TV見ながらゴロゴロしてたいんだ。だから、さっさと終わらせよう。さっさと終わらせて、さっさと寝たい」
「さっさと終わらせる? そうか、それは困ったな。私はじっくり、楽しみたいんだが!」
ディアナから霊力が噴き出す。その量は
そんな中で、ミーリは大あくび。首を傾け、音を鳴らす。隣で怯えるレーギャルンの頭に手を置いて、そしてその手の中にしまいこんだ。
手の甲に刻印を現し、そして剣を握る。背後に数十の剣を並べ、大きく吐息した。
「面倒、本当に面倒。好戦的な人って、なんでこう面倒なのかな」
まるであの人みたいに。
ミーリとディアナは、霊力を足裏に張り巡らせて立つ。そうしなければ、今頃滝壺の中で洗濯されている。だがディアナのパートナー、オルグだけは、どういう原理なのか水面からも浮いていた。
「そう言いつつやる気だな」
「バカだね、ディア。彼はやる気なんてないよ。ただ本当に言葉通り、さっさと終わらせようとしているだけだ」
「うるさい。さっさと剣になれ」
「やれやれ。僕は人を斬る剣じゃないんだけどな」
オルグの体が水の中に沈む。そしてその姿を変えたのだが、それは白く長い身体を持った蛇のような龍だった。
大口を開け、ディアナに噛みつこうと突進する。だがディアナはその攻撃を躱し、龍の胴体を掴み取る。すると龍はさらに姿を変えて、赤い帯を柄に巻いた大剣になった。
それがディアナの
「
「果たして東の最強はどちらか! 世紀の一戦、試合、開始――!」
試合開始の最後のしが言われたか言われてないかというタイミングで、ディアナはミーリと衝突した。ミーリが目の前に出した剣と、ディアナの大剣とが火花を散らす。
背後に控えさせていた剣を射出し、ディアナに距離を取らせる。水の中を駆け巡った剣の群れは水面を跳ね、ディアナ目掛けて突進した。
それらを斬り飛ばし、弾き、砕く。だが剣は自らの熱で膨れ上がり、爆発した。巨大な水飛沫を上げる。
だがこれでやられないことは、ミーリを含める全員が思った。この程度でやられるようでは、三度もケイオスを制することはできやしない。
水飛沫を切り裂いて、ディアナは肉薄する。そして大きく高く跳ぶと、跳び蹴りの応用でミーリの方に飛び降り、斬り裂いた。斬ったのは斬撃を受けた刀の隊列だが、真一文字に斬り砕かれる。
「“
振り向きざまに放たれる、剣閃。その光は受けた剣の壁を突き崩し、その先のミーリの肩を浅く斬り裂いた。
「“
剣から繰り出される、橙と黄色の混じった破壊光線。水も一瞬で水蒸気に変えるその一撃に、ミーリも呑み込まれたかのように見えた。
だが霊力探知してみると、ミーリは水の中に潜っていて剣を掴んで水中を高速で泳いでいた。
「“
突きと同時に繰り出される、光の塊。それは水中だとさらに加速し、ミーリのすぐ側を通り過ぎた。
連続で繰り出され、さらにあまり息を吸わずに潜ったために、ミーリに限界がくる。先に五本ほどの剣をディアナ目掛けて射出すると、勢いよく水面を飛び出した。
「“
対空迎撃用の光線が、ミーリに襲い掛かる。さらに追尾型で、攻撃を躱したミーリを追ってきた。すぐさま剣を複製、射出して落とす。だがそれがディアナの狙いで、注意が光に向いている間に跳び、斬りかかってきた。
鋭く重い一撃に、ミーリは吹き飛ばされる。気泡と水飛沫を上げて叩きつけられたミーリは再び剣を握り、水中を駆けた。
“
結界の頭頂部から落ちる滝の中から、大量の剣が降り注ぐ。ディアナにそれらを撃ち落とさせて、今度はミーリが斬りかかった。
「ハハハ! 楽しいぞ! もっともっと私を楽しませてくれ!」
ディアナの背後に、三本剣を複製する。そして後ろから串刺しにしてやろうと射出したが、ミーリの持つ剣を弾かれ、跳んで回避された。追撃するが、次の瞬間にすべて撃ち落とされる。
ディアナは着地と同時に肉薄し、斬りかかる。だが剣は囮で、一撃はヒールブーツでの蹴りだった。
水面を転げ、爪を立てて止まる。そして剣を射出し、自らも特攻した。
「“
水面を駆ける光の塊が牙を剥く。撃ち出された剣をことごとく粉砕し、ミーリに大口を開けた。
「“
光の塊を切り裂き、火を噴かせて消滅させる。さらに狂乱の連撃を構え、剣を引いた。
対するディアナも肉薄する。龍の一撃を秘めた剣を大きく振りかぶり、そして剣撃を交錯させた。
「“串刺し狂乱”!!!」
「“
足元の水が切れ、巨大な水柱が二本上がる。それらが滝壺に落ちると激しく水は荒れ、危うく結界から出そうになった。結界の霊力遮断が、わずかに追いついていない。
そんな中で、二人は息を切らしていた。体には、たった今付けられた傷。血は滴り、服を赤くする。
だがディアナはそれどころではない。交錯する一撃のほかに剣を射出され、背中に四本も刺さっていた。傷は、ディアナの方が深い。だが彼女は嬉しそうで、口角はずっと持ち上がっていた。
「ハハハ……ハハハハハ! いいぞ、ミーリ・ウートガルド! やはり貴様は私を楽しませてくれる! さすがはあの女の弟子だな!」
「どんだけ戦い好きなの……まったく、本当に母親譲りの性格っていうか、性質っていうか……」
だが強い。さすがはあの人の娘だ。
使う神霊武装を間違えたかもしれない。彼女相手にはロンゴミアントか、槍にもなれるネキで挑むべきだった。だが今そんなことを思っても仕方ない。
それに、勝つのは結局自分だと、自分自身とレーギャルンを信じていた。彼女から流れ込まれる霊力が、より信頼させる。
マスター。
わかってる。行くよ、レーちゃん。
はい。
心中での対話でのコミュニケーション。少々気を使うが、相手に悟らせずに作戦会議するにはもってこいだ。生憎と未だ自分のパートナーとしかできないが、いつかは他の人ともできるといいなと思う。
ちなみにこんなことができるのは、師匠にも内緒である。なんとなくだが。
手にしていた剣を離し、新たな剣を握る。そして自身の後方に数十の剣を待機させると、一斉に射出した。
剣と剣とがこすれ、爆発する。高く巨大な水柱が上がったが、そこにディアナはいなかった。
水面を蹴り飛ばし、空中を蹴り飛ばし、肉薄する。繰り出された剣撃を躱して、ミーリの懐に思い切り蹴りを叩き込んだ。
水面を転げ、ミーリは倒れる。さらにそこにディアナが斬り込んで来て、ミーリはとっさに水面を転げ回った。
連続の剣撃を、転がって躱し続ける。だがそのまま滝の中へと突入して、水飛沫で目を眩ませた。そこに斬りかかるが、寸でのところで防がれた。
そのまま滝の中での攻防が続く。それはモニターでもなかなか見えない中で、観客席はぶつかり合う霊力のみを感じ取っていた。それだけでも、相当の死闘が繰り広げられていることが想像できる。
剣と剣がぶつかり、水飛沫が舞う。お互い、目などもうほとんど開いていない状態で、的確に相手のスキをついて斬りかかっていた。だがそれも、まったく決定打に至らない。お互い的確に、防いでいた。
お互いの霊力を全力で振り絞った一撃を受け、お互い端まで吹き飛ぶ。だがすぐさま結界を蹴って跳び、切り払った。二人の斬撃を受け、滝が一瞬真っ二つに割れる。
「“逆鱗龍舞”!!!」
「“串刺し狂乱”!!!」
再び大技がぶつかる。一撃と連撃の交錯はまたも引き分けで、お互い体に大きく傷をつけた。
だが今度は、ミーリにさらに追撃が刺さる。大きな一撃に隠れた第二撃を
大きくえづき、吐血する。レーギャルンの霊力が送り込まれて吸血鬼の血を発動させたが、傷が治ると同時に体力の消耗が激しかった。
対するディアナには、不死身の吸血鬼の回復能力はない。だがどういうわけか、彼女は元気だった。背中にずっと刺さったままだった剣を抜き取り、その背中を震わせて笑った。高笑った。
楽しい。今この瞬間が、この時が、いつまでも続いて終わらないでくれと言わんばかりの高笑い。それは闘技場全体に響き、客席の生徒達の体を震えさせた。恐怖、それに似た感覚を覚える。
その姿、その様を、ミーリは知っていた。あまりにも戦いが好きすぎて、周囲の敵すら引いてしまうほどの高笑いをする人。その姿を知っていた。まったくもって、本当に親子なんだなと思った。
「まったく……最初は嘘だと思ってたのに。ありえないと思ったし、まず証拠がないからね。でも、戦っててわかるよ……最強先輩。あなたは正真正銘、俺の師匠の娘です」
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