vs ノーム
雲を掻き分け大気を切り裂き、ミーリはまた電話をかけていた。勢いで置いて行ってしまった、ロンゴミアントとウィンにだ。
するとまず、電話に出たウィンの怒号から始まった。せっかく部屋の前で待っていたのに、何故置いて行くという文句を、ミーリは右から左へ聞き流す。
そしたら今度は最近甘えることを憶えたロンゴミアントのレーギャルンに対する嫉妬で、ミーリは聞く耳を痛くした。
二人の言い分が終わると、ミーリは謝罪してあとで召喚することを約束した。それを聞いて二人は許してくれたが、戦うまえに酷く疲れてしまった。
一方で、後ろの二人は魔剣に乗ることに四苦八苦していた。
実際乗れてはいるのだが、バランスを取り続けることに苦労していた。何せ二人共、片方に剣と弓をそれぞれ持っているのだから、バランスが取り辛くて仕方がない。
それに気付いたミーリは少し速度を落とすと、二人の手を取った。二人のバランスを、自ら取る役に徹する。すると二人は見事に安定し、今ミーリの手を握っているということに赤面した。
「よし、飛ばすよぉ」
剣を加速させ、島を横断する。だがその途中――テーマパークの入り口付近上空で、地上から岩の触手と火炎弾が襲ってきた。即座剣を操って旋回、より高く飛ぶ。
そこから地上を望遠眼で見た
二人を見つけた生徒達が攻めるが、
「……ミーリ! 私はここで降りる!」
「一人でやる気?」
「戦力は削ぎたくないだろう。大丈夫、私に任せろ」
ミーリの手を離し、一人落ちる形で剣から降りる。自身の背後に巨大な砲台を現出すると、二人目掛けて砲撃を轟かせた。
そのことごとくを、まえに出てきた炎を吐く鎧が受ける。
爆炎と黒煙に包まれたのを見届けて、空虚はテーマパークの入り口前にある噴水の中に着水する。すぐに底を蹴り上げて浮かび上がり、わずかに飲んでしまった水を吐き出した。
『やったか?』
『
空虚は水面に立ち上がると、波立つ足場で弓を引き、矢を構える。そして連続で矢を放ち、伸びてきた三本の岩の触手を射抜き砕いた。
だが触手はすぐに伸び、数まで増えて襲ってくる。それらを次々に射抜いたが、触手は際限なく伸びてきた。空虚が跳んだ直後、噴水を粉砕する。
「“
現出した砲台から、数十発の砲撃が雷鳴のごとく轟音を響かせて発射される。触手すべてを粉々に砕き、さらに奥にいる紳士を黒煙で包んだ。
『今度こそやっただろう!』
『だから、そういうことを言わないでくださいと言っているのです』
黒煙の中から、炎を噴く鎧が肉薄してくる。荒ぶる熱を持った拳を毛先を焦がされながら躱した空虚は跳んで距離を取ると、砲撃を二発食らわせた。
だが鎧は堪えない。肘から炎を噴き、それをブースターにして突っ込んでくる。鎧の肩を取って跳び、躱した空虚だったが、その熱に一瞬で掌を焼いてしまった。真っ赤になって、そして水膨れする。
これでは、矢が引けない。引けて数度。連発はできないだろう。
そんな空虚の状態をわかってかわからずか、鎧は砲撃をさせまいと接近してくる。焼ける拳を振るい続け、空虚を追い詰めていく。
さらに岩の触手まで伸びてきて、空虚は四方八方囲まれてしまった。目の前から、炎の拳が襲い掛かる。
だがそれらは、一斉に両断された。触手を魔剣の通り雨が、拳をリエンの聖剣が断ち切る。魔剣の爆発によって触手は粉砕され、鎧は斬られた拳を下げて後方に跳んだ。
「ミーリ・ウートガルドは先に行かせた。ここは私達で片を付けるぞ、ウツロ」
上空のミーリはもう、背を向けている。そうしてくれたことが、空虚としては少し嬉しかった。なんだか託されたような、任せられたような、そんな感じだ。
ともなれば、火傷でヒーヒー言っている場合ではない。痛む右手に
「さすが、頼もしいなリエン。女性最強なだけはある」
「女性、最強……」
こんなところで、こんなときに、リエンは思っていた。
そうだ。私はラグナロクで、女性最強と謳われたではないか。あと一歩ではないか。なのに何故私は、諦めようとしていたのだ。
私を慕ってくれている友がいる。妹がいる。みんながいる。なのに何故、それらを裏切るように私は、諦めようとしたのだろうか。
一番になれないから降りてくれ? 違う!
上に向かっているのなら、その上を超えないでどうする!
自らの力で、上を捉えないでどうする!
私はリエン・クーヴォ。だが上を超えるのに、クーヴォ家も何もないじゃないか。超えるのは自分であって、家じゃない。
家のために超えるんじゃない。
自分が今いるステージから、一歩上に立つために――成長するために超えるんじゃないか。
そうだ。ミーリ・ウートガルドなんて好敵手には、もう出会いないかもしれないじゃないか。こんな好機を、何故無駄にしてしまう理由がある?
そうだ、ない。
「あぁ。いつか私は、学園を最強にするからな」
「頼もしい」
左右から襲ってくる触手の攻撃を、リエンが切り裂き空虚が射抜く。二人の間にスキはなく、鎧も攻撃する機会を失っていた。
だがそれが、紳士の口角を持ち上げる。
これほどまでに強い素材なら、きっとマスターもお喜びになられる!
紳士は自らを岩の触手で包むと形を変え、岩の巨人を作り出した。その眉間から上半身を出して、気色の悪い笑みを浮かべる。
「サラマンダー! 彼女達を捕獲しますよ! 私はそちらの鎧の彼女、あなたは黒髪の方をお相手しなさい!」
炎を噴く鎧――サラマンダーは咆哮し、火炎を放射する。奴が拳を下ろした地面は解けて、ドロドロの真っ赤な溶岩に変わった。
それを見て、リエンが耳打ちするトーンで呟く。
「ウツロ、奴らの思い通りにしてやらないか」
「奇遇だな。私もその方が都合がいいと思っていた。では、私はここを離脱する……武運を」
「お互いに」
空虚が高く跳び、矢を放つ。水の矢はサラマンダーに命中すると水蒸気となって爆発し、鎧にヒビを入れた。
その攻撃が、サラマンダーの怒りを買う。だが空虚の狙いはそこで、さらに指を数度曲げて誘うことで挑発し、サラマンダーを紳士から遠ざけることに成功した。
鉄檻を溶かして空虚を追っていくサラマンダーに、紳士は吐息する。
一方リエンは聖剣となっているパートナーに耳打ちし、紳士と対峙した。
「名を、聞こうか。これだけのことをしでかしたのだ。名もない低種ではないだろう」
「名前? これから死ぬあなたに、私の名を名乗れと? 面倒、実に面倒だ! ですが、あなたは知らなければならない……この計画の発案者、パラケルススの名を!」
「パラケルスス? 錬金術師か……」
魔神が奴だとしたら、ということはこいつは……。
パラケルススはこの世を作っているのが四つの
その伝説を知っていて、さらに空虚を追っていった奴がサラマンダーと呼ばれていたことを思い出せれば、目の前にいる紳士が地の精霊ノームであることは仮定できる。
「精霊か。だが、レベル的には精霊など、下級天使の次くらいだろう。私の敵ではないな」
「私がそこらの精霊と一緒だと思われてるとは、心外ですねぇ!」
地面から生えてきた岩の触手が、周囲の明かりを粉砕する。時間ももう日が沈んだばかりの夜となって、目の前が見えないくらいに真っ暗になった。
だが地の精霊ノームには、地面にいる人間を察知できる。敵は見えない暗闇の中、予測できない攻撃を喰らい続けるというシナリオだった。
「私ほどの精霊となれば! 核さえあれば司る属性を吸収することで再生、復活できる! 大地の精霊である私が、この大地の星で死ぬなどありえない! つまり! あなたこそ私の敵ではないのですよぉ!」
「……要は、その核を砕けばいいのだろう? 貴様の回復が追いつかない速度で、一瞬のうちに。まったく、言い直してやろう。大した敵だ」
聖剣の刃が光る。光を宿し、眩しく輝く。その光はまるで光源が生まれたかのようで、ノームは両腕で顔を覆った。
さらに光は、地面から粒となって浮かんでくる。周囲の草木から、大気から、自ら光が生まれ、その場を埋め尽くす。それが霊力の光であると、ノームは気付けなかった。
一歩、リエンは踏み出す。そして高く剣を掲げ、光を剣に集め出した。
「周囲が暗ければ暗いほど……闇に満ちていればいるほど、私の剣は輝きを放つ。これこそは、常勝の王が持つ、滅魔の聖剣。名を、
リエンの長髪を揺らし、鎧を煌かせ、光と霊力が満ちていく。そのあまりにも眩しすぎる光に、ノームは呼吸できなくなった。
「! ま、待て――」
「“
一閃。
ノームの体が真っ二つに割れ、続く光に呑み込まれる。その光の中では核などひとたまりもなく、一瞬で砕け、塵と化した。
同時、術者を失った土塊達も自壊する。取り込まれていた生徒達は無事生還し、パートナーの肩を借りてその場から離脱した。
一撃で勝利を収めたリエンは、剣を収める。
ラグナロクの女性最強が持つその剣は、事実、歴代全
「大した大口だったな」
鉄檻を跳び越え、リエンはテーマパークに入る。中で戦闘している空虚に、加勢しに行った。
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