第31話 画策


 現在の都市には昔と同じ仕組みの行政が存在して、各都市が独立して政治を賄っている。だからどれだけ高いシェアを誇る巨大グループといえども、相手が市政であっても簡単に口を挟む事は出来ないのだ。…そんな事は分かっているつもりだった。それなのに――。


 クライスはアゾロイドが撤退したと聞かされた後、すぐにトウヤの所在を確認した。だが混乱の最中にダスト一人の所在を掴める筈も無く、クライスは止むを得ず社長である父の元を訪ねた。そして直談判した。ダストだけが重責を担う仕組みを変えるべきです、と。


 でも父から帰って来たのは一笑のみ。そして冷淡な眼をしてクライスに言ったのだ。


 …そのような事は行政がすべき事。我ら一グループが考える事では無い、と。


 取り付く島も無く父の元を追い出されて、自らの執務室へと戻った後でユリアードから驚くべき話を聞かされたのだ。トウヤが今年の清掃作戦のメンバーに記載されていると。


 冗談だと思った。直後に彼女から現在のトウヤの状態を聞かされて、更に耳を疑った瞬間でもあった。現在の彼は人としての感情を失い、まるでロボットと化していると言うのだ。


 そんな話を聞かされて、「はい、そうですか」と引き下がるほどクライスも腐っていない。慌てて父へと問い合わせると、今度は返事すら戻って来なかった。だからクライスは彼女と共にトウヤの身辺を改めて調べたのだ。…すると驚くべき事実が浮上してきた。


 トウヤとその相棒であるマックスのランクがSへと引き上げられた理由。それは自分達ヴォグフォートが研究していたロボットの仕業だったのだ。そのロボットがダスト本部のシステムへと侵入して二人の名前をランクSに書き換え、それを知った父は敢えて自らが推薦した事にして帳尻を合わせた。そうする事でロボットの存在を隠蔽しようとしたのだ。


 結果都市はアゾロイドの襲撃を受け、その最中にロボットの所在は不明。そしてトウヤは襲撃の最中に故障。修理不可能な状態となった。だから父はトウヤを密殺する事にした。


 その方法こそ十大都市合同清掃作戦。…何て汚い遣り方なのだと、そうクライスは憤りを隠せなかった。だから何度も父へと直談判した。今のトウヤは清掃作戦に相応しくないと。


 でも父は全く耳を貸さなかった。それでもクライスは何度も直談判した。父から何度無視されても直談判し続けた。やがて父はクライスと顔を合わせなくなり、止むを得ずクライスはトウヤの父であるマサツグの元を訪ねる事にした。全ては自分達ヴォグフォートの責任。


 だが結局、クライスは真実を告げる事が出来なかった。身内の恥部を知られたくなかったのである。しかしマサツグは全てを知っているだろう。何となくクライスはそう思った。


 クライスは何度でもトウヤに謝罪する。その謝罪はクライスが死ぬまで終わる事は無い。全ては自分達が犯した罪。それにトウヤは巻き込まれてしまったのだから。


 どれだけの者が運命を狂わされたのだろう。そう思うと胸が押し潰されそうだった。何故とクライスは心中で問答を繰り返す。それこそが自分達の有り様。いいや、それは違う。


 何度繰り返しても出ない答え。結局自分達に彼らの痛みが理解できる筈も無いのだ。でもクライスは謝罪し続ける。それしかクライスには出来なかった。せめて友人にだけは。


 彼は友人だ。そしてこれからも友人だ。…たとえその関係が壊れてしまっていても、僕にとっては友人なんだ。彼にどう思われていても構わない。だから僕は友人の為に――。


「絶対に諦めない。こんなのは間違ってる。友達が犠牲になるのを僕は見ているしかない。でもいつかきっと助けてみせる。それは君を救う事にはならないかも知れない。…でも」


 僕は君の為に困難な道を歩もう。それが僕に出来る唯一の償いだからだ。僕の事を身勝手だと笑うがいい。何が友人だと怒り狂うがいい。それでも構わない。だから僕は――。

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