第20話 届かぬ想い
…研究者達が無様に逃げ惑う中、ロボットは一人不気味に微笑んでいた。気付けばここに戻されており、ロボットは箱の様に狭く白い部屋に閉じ込められて床に座らせられていた。
目が覚めて最初に見えたのは自分の手足、そして体。…どうやら無事繋ぎ戻されたらしい。手も足もちゃんと動くし、胴体と繋がった首は普通に動く。自分の体にも触れる。
そうロボットが安堵している間、研究者達はずっと施設内を駆けずり回っていた。まるでマラソンでもしているようだと、ロボットは大昔の記録を参照しながら思っていた。
でも、楽しそうじゃない。僕を解体して楽しんでいる時とは違って表情は青ざめており、彼方此方から「研究資料は?」「もう間に合わない」とか、そんな悲鳴が聞こえ続けている。
研究者達が騒ぐ会話の端々を繋ぎ合わせて、ロボットは成程と現状を察した。この都市が何者かに襲われているのだ。それで研究者達は慌てふためいて駆け回っている。…でも、
それなら彼も戻って来ているのだろうか。確か彼…トウヤは外の任務に当たっていた筈。現在の彼は上位ダストだ。上位なのだから緊急時は戻って来るに決まっている。
「みんな壊れちゃう。全部壊れちゃう。みんな黒焦げ。都市も黒焦げ」
ロボットはまるで歌う様に口遊む。…そんなロボットの青空を想わせた双眸はいつしか黒く歪み、正気を失って暗い感情を湛えていた。最早友達を欲していた頃の明るさは無い。ロボットはいつしか他者の破壊を望むようになり、世界の破壊を望むようになっていた。
しかし、それこそが研究目的であった。人間が生み出したAIシステムの真髄を極める為、その為に行われていた研究だったのだ。人間は感情を生み出せるか。何処まで人と変わらぬ存在を生み出せるか。たとえ法に触れても構わない。自らが生み出した成果の検証がしたい。
身勝手とも言える目的の為、ただそれだけの為にロボットは生み出された。そうして狂わされた。しかし人間は大いなる過ちを犯した。ロボットは自力で通信回線に接続して世界を見つめ、都市を見つめ、有りと有らゆるものを見ていたのだ。様々なものに憧れて、自分もそれを体験してみたい、見てみたいと思う様になった。…人間と変わらぬ存在となっていた。
そんなロボットを研究目的で狂わせ、そしてロボットは通信回線を使って助けを求めた。だがロボットの嘆き悲しむ声は回線を伝ってアゾロイド達へと流れて、ロボットの意志を汲み取ったアゾロイド達が動き始めた。…そんな中でロボットは未だに信じていた。
きっとトウヤが助けに来てくれるのだと。ロボットはその為に都市システムに侵入して壊し、そうすればトウヤがここへ来易いだろうと考えて待ち続けていた。
きっとトウヤは来てくれる。だって彼は優しいもの。僕を見捨てたりはしない。…だが、
トウヤは未だロボットの存在を知らず、戦場と化した都市の中を翻弄するばかりだった。トウヤはアゾロイドの目的を探ろうと最上層へと向かい、そんな都市の惨状を遮断された通信回線を通じて知ったハウンド・ドッグの者達は超高速飛行艇へと乗り込み、都市を囲う黒鉄の嵐を突破しようと試みていた。…アゾロイドが衝突するたびに機体が大きく揺れる。その度に機内から小さなどよめきが起こり、隊員達は無造作に床へと取り付けられている鉄の手摺りにしがみ付くしかなかった。何故椅子ではなく手摺りなのか。それは――。
「…っくしょう! 無駄に数だけ揃えやがって。多すぎんだよっ!」
怒声とも取れるぼやき声が操縦席から聴こえてくる。操縦をしているのはゲイボルグだ。ゲイボルグは乱暴な操縦で右へ左へと操縦桿を傾けてはアゾロイドを回避して、その様が広いコックピットの窓から見えて一同焦りを浮かべている。だが何も攻撃されているから動揺している訳ではない。乗っている機体そのものに問題があるのだ。
いいや、その問題は横へと置いておこう。今はそれどころではない。現在は有事だ。有事に動かせる機体が他に無かった。だから仕方ない。…そう、仕方ないのだ。それに――。
彼らは誰ともなく機体に同乗している少女を見る。その少女は肩ほどまで伸びた見事な金髪をしており、白い軍服の形をしたバトル・スーツを着て空色の瞳で都市を見つめていた。
しかし彼女は、マックスは都市が近づくにつれて表情を戦慄かせていき、その小さな拳で窓を叩き付けながら悲痛な声を漏らしていた。
「何だよ、これ。…だからあいつ、俺を残して戻ったって言うのかよ。あんなに嫌っていた自分の出生まで持ち出したって言うのかよっ! 何だよそれ! 俺を何だと思ってんだ! 俺はお前の相棒だろっ! お前に守られる為に居るんじゃねぇんだよ。…俺は、俺はっ」
今にも泣き崩れそうなマックスの様に、傍に居たシスが困惑を浮かべながら告げていく。
「…そう決め付けるなよ。そうじゃない可能性だってまだ残ってるんだ。だから――」
「なら訊くがな、お前の眼にトウヤって存在はどう映った」
だがそこへ、冷静なゲイボルグの質問が飛んでくる。…余りにも唐突な質問に、だが的を射た質問にシスは言葉を詰まらせる。そんなシスの反応を見てゲイボルグは続けた。
「それが答えだ。俺はあいつとは二・三度顔を合わせただけだがな、それでもあいつの性格は嫌ってほど分かったぞ。…あいつは面倒事を一人で背負い込むタイプだ。誰も頼らない。一人で処理しようとするタイプだ。一人でシティに戻っても不思議じゃないだろ。あいつは誰かと通信してたんだろ? だったら可能性としちゃ十分じゃないか。その先に絶望的な未来が待ち受けているのなら誰だって相棒は置いて行く。そりゃそうだろ。態々相棒を危険に晒す阿呆は居ないからな。都市がこんな有様なんだ。嬢ちゃんに下手な期待は持たせるな。あいつは生きている。きっと無事だ。…そんな易い言葉は残酷なだけだ。分かったか」
「……」
手厳しく返されて、シスは苦々しく顔を歪めて黙り込んでいた。…そして知らぬ間に差し始めていた夜明けの光に気付いて更に顔を顰めて、まるで闇夜の様に空を覆うアゾロイドの群れに吐き気すら覚えてくる。そんなシスの肩をスオウが叩いて来て、緩りと喋り出した。
「それでも僕は彼が生きていると信じます。…まだダスト達は戦い続けている。都市上層に重力波が再展開されたのが証拠です。つまり都市はまだ生きているんだ。誰かが守っている。そんなのダスト以外に有り得ないじゃありませんか。彼らはまだ戦っているんだ。だから」
「……」
今度はゲイボルグが口を閉ざす番だった。確かに先ほど十五階層から上を包み込む様に重力波が再展開された。つまり都市のシステムを復旧出来たのだ。都市はまだ生きている。だからこそ、自分達ハウンド・ドッグが飛行艇まで引っ張り出して駆け付けたのだから。
しかしとゲイボルグは苦い顔をしていき、それをスオウへと言っていくのだった。
「確かに都市は生きている。確かに上の連中は生きてるだろうよ。…でもな」
そうゲイボルグは言いつつ操縦桿を一気に傾けていき、アゾロイドの猛攻を回避し続けながら彼らへと言うのだった。
「都市の半分から下を見ろ。…真っ赤な炎を上げて煙に覆われて、内部は何も見えやしない。あれだけのダストが居ながら下半分は火の海なんだ。その現実から絶対に目を逸らすな」
「…、はい。分かっているつもりです」
静かにゲイボルグから諭されて、スオウは覚悟を決める様に頷いていた。そうゲイボルグは若者を諭してやりながら、「俺も甘いもんだ」と自身の対応に呆れていた。
現実を突き付けられて泣くのはこいつらだ。別に自分が困る訳じゃない。それにこんな事は長い人生を生きていると度々経験する。その度に誰か大切な者と死に別れる。こればかりは慣れるしかないのだ。…しかしと、ゲイボルグは心中で溜息を付いて思う。
こればかりは慣れないな、と。何度経験しても辛いものだ。ただ体裁を取り繕えるようになるだけだ。どれだけ年齢を重ねても出来るのは体裁を取り繕う事だけ。
…それに、他の隊員達の中にも都市と付き合いがある奴は居る筈だ。現に何人かは不安を露わにしており、赤黒く染まった都市を食い入る様に見つめている。そんな隊員達を乗せてゲイボルグは再び操縦桿を大きく傾けて、未だ通信不能のままの都市を睨み付けて行く。
全ての通信機器が使用不能になっていると気付いたのは、丁度一日前の夜明け時だった。プレハブの連中が「他のプレハブと連絡が取れない」と騒ぎ始めて、慌てて確認してみると自分達ハウンド・ドッグの無線だけは使用可能だったのである。そうして各所と連絡を取り、都市の惨状を知ってこうして駆け付けたのだ。…まぁ無線が使用出来た理由は簡単だ。
単純に古かったから。まさに骨董品ともいえるアナログな無線機は異常を来さず、自分達の無線機だけが正常に動いたのである。初めからまともに動いていないだろう。そんな風に思えもするが、まぁこの際だ。他と連絡を取り合えただけでも良しとする。
そうして第一一〇プレハブに待機させていた連中と共に、この飛行艇で駆け付けたのである。そこまで考えてゲイボルグは密かに笑う。こんな大舞台で試運転とは運が良い、と。
一方隊員達からすれば、この飛行艇は何処にあったのだという気分だった。ゲイボルグが突然「ちょっと出て来る」と言って戻って来たかと思えば、この飛行艇に乗って戻って来たのである。何気に無駄な機能が至る所に取り付けられた飛行艇の様に、隊員達は皆で訝しく思ったものだ。そして思い出した。…確かゲイボルグは若かりし頃、航空整備士をしていたと言っていなかっただろうか、と。そう考えると背筋が凍り付く想いで、誰もが恐怖で足が竦んで動けなかった。整備士を引退した後に独学で勉強して、まさかこれを――。
ぞっとする想いを抱えながら、隊員達は必死に歯を食い縛る。いいや、整備士をしていたのだから安全に飛べるものを設計した筈だ。きっとそうだ。そうに違いない。
そうハウンド・ドッグの者達が青ざめている中、マックスは再び窓を殴りながら漏らす。
「…疾うに気付いてるかも知れないけどさ。あいつ、良い所のぼんぼんなの。生まれた家は誰もが知る巨大グループでさ、本当ならダストになる必要も無い金持ちのお坊ちゃん。そう教えられたのは、あいつが俺達の元から去って行ったあの時だった。咲耶グループ。あいつはそう言ったよ。だから帰るんだって。もう俺とは一緒に居られないんだってっ」
「…マックス」
再び涙を浮かべ始めたマックスに、シスは慰める様に彼女を呼ぶ。だが彼女は何度も頭を振りながら嗚咽を漏らし始めて、両手で必死に手摺りを握り締めながら言うのだった。
「俺と一緒に泥臭い場所で働いてた奴がそう言ったんだぜ? 笑っちまうよな? …俺を置いて一人で戻って、それで自分だけこんな事に巻き込まれてるんじゃ世話無いよな。一人で戻った罰さ。見つけたら殴ってやるんだ。俺を置いて行った事を後悔させてやるんだっ」
「……」
シスはそんな彼女の言葉に沈黙していき、そして苦い顔をしながら言っていく。
「その時は俺も一発殴らせて貰うさ。…当然ジュナもスオウもな。皆で殴ろう。…な?」
そう小さく諭されて、マックスは「うん」としゃくり上げながら頷いていた。だがそこへジュナが弾かれた様に顔を上げていき、皆を促す様に声を張り上げて言っていった。
「都市の中が見えてきたわ! でも中はアゾロイドばかりで何も見えない。隊長っ」
それにゲイボルグは頷いていき、操縦桿を強く握り締めながら叫んでいった。
「突っ込むぞ。アゾロイド共を追い払おうなんて考えるな。可能な限りダストを助けろっ。一人でも多く助けるんだ! 他には目を呉れるな。俺達の目的は救助だ。いいなっ!」
「「了解っ」」
全員が声を合わせて頷いていって、額や首に下げていたゴーグルを素早く装着していく。そして改めて手摺りへとしがみ付いて行き、そんな隊員達を乗せて飛行艇は黒鉄の嵐の中を飛び続ける。その時に左翼の先端が千切れ飛んで機体が大きく揺れる。機体はバランスを崩して降下を始めていき、それを知った隊員が「隊長っ」と短く悲鳴を上げていく。しかしゲイボルグはそれに対して「街に突っ込む。着陸と同時に飛び出せっ!」と怒鳴り返す。
機内が大きく揺れる。まるで無重力空間に居るような錯覚を覚える。上も下も判らない。見えるのは赤黒く染まった大地だけ。…そうして、
「着陸したぞ! 下らねぇミスで死ぬ事は絶対に許さんからな。行け、そして助けろっ!」
「「…っ」」
気付けば飛行艇は無事着陸しており、全員が弾かれた様に顔を上げて動き始める。後ろの扉を開いて格納庫へと向かい、搭載していた反重力大型バイクへとそれぞれ跨っていく。
誰かが壁のレバーを回して天井を開く。「GOッ!」という合図を受けてバイクが次々と外へと飛び出して行く。マックスはその間にペガサスの縛を解いていき、ゲイボルグ以外のバイクが飛び出したのを確認した後にペガサスへと跨って大空へと舞っていく。
そんなマックスの後を追う様にゲイボルグが乗ったバイクが飛び出して来る。その直後に飛行艇は爆発。大きな火柱を上げて炎上し始める。それを見て思わずマックスは叫んだ。
「っ! 飛行艇がっ」
しかし、後ろを走っていたゲイボルグがそれに対して「構うなっ」と叫んでくる。それにマックスは申し訳ない気持ちになり、だが眼前に広がる光景に表情を引き締めていった。
そこは地獄だった。あの美しかった街は瓦礫の山と化し、既に明けた朝陽も差し込めないほど黒い煙が充満していた。マックスはそんな中をスオウ達と共にペガサスで翔る。
他の者達は各層を繋ぐエレベーターへと向かい、破壊された筒の中から上層・下層と事前に示し合わせていた通りに移動を開始する。…彼らは街中を走りながら思っていた。
これほどにも酷い惨状を目の当たりにした事が遭っただろうか。地面に転がっている物は何? 金属の欠片に赤い肉片がこびり付いている。この肉は人工筋肉だろうか。周辺には赤い血ではなく黒いオイルが飛び散り、瓦礫の至る所に頭部・下半身・上半身など、原形を保っていないダストの残骸だけが転がっている。他には何も無い。何も、何も――。
スオウ達三台のバイクは両翼の形となって進んで、目の前に立ちはだかるアゾロイドを破壊しながら進み続ける。上空から襲い来るアゾロイドは全てマックスが叩き落とした。
どれだけ瓦礫の中を進んでも、見つかるのは瓦礫とダストの残骸ばかり。他には何も無い。そして気付けば炎上した飛行艇の元へと戻って来ており、周囲にアゾロイドの影が無い事を確認した後に各々バイクを停めていく。そうして降りて来たマックスのペガサスを見て、スオウはその顔に動揺を滲ませながらマックスへと叫ぶのだった。
「駄目だっ! 誰も見つからない。トウヤどころか生存者を一人も見つけられないんじゃどうしようもないよ! …ねぇマックス、まだトウヤと連絡は付かない? あのトウヤの事だから大丈夫だと思いたいけど、トウヤは無茶をする傾向がある。この状況じゃっ」
悲痛なスオウの叫びにマックスは顔を歪めていき、涙ぐみながら首を横へと振って行く。それを見て三人は落胆の色を見せ、そんな中で無線から聞こえてきた内容に眼を見張る。
生存者見つからず。一階層全滅。二階層全滅。三階層全滅。徐々にそれは上へと上がって行き、気付けば現在スオウ達が居る五階層を抜かした全ての下層が全滅という有様だった。
幸いにも戦火は八階層には届いていないようで、現在の前線は六階層・七階層に移されているとの事だった。避難民の数はそれに応じて膨れ上がり、ダスト達は対応に苦慮しているとの事だった。このままでは上層への避難も難しくなる。そんな緊迫した報告が耳に入る。
…絶望。そんな言葉が脳裏に過る。確かに住民は生きているだろう。誰からも人間らしき亡骸を発見したという報告は上がらず、上がるのは大量に散乱するダストの残骸に関してだけ。同時にアゾロイドの残骸も発見されているようだが、その量は明らかにダストの方が多い。その中にトウヤが居ないという保証は無い。何せ原形を留めていないのだから。
次第にマックスは双肩を震わせ始めており、顔を俯かせて強く手綱を握り締める。そんな彼女の様子にスオウ達は苦い顔を浮かべていき、声を掛ける事すら出来ず視線を逸らす。
そうして遂にマックスは天を仰ぎ、双肩を震わせながら声の限りで叫び始めるのだった。
「うあぁぁぁあぁぁっ!」
「……」
それにスオウは更に顔を大きく歪めていき、小さく彼女へと「ごめんね」と謝罪するしかなかった。まさかこれほどとは思ってもみなかったのだ。まだ生きている。まだ都市の上層は無事なのだからダスト達も無事な筈。そう楽観的に考えてしまった。…でも現実は、
スオウは改めて戦火に落ちる都市を見回していた。そこに動く者は無く、時たま動く物を発見したかと思えばアゾロイド。そんな光景ばかりが永遠と続いている。最早そこには何も無かった。在るのは絶望ばかり。これではトウヤを捜す所ではない。何も無いのだから。
動いているのはアゾロイド。そして救助の為に入って来たハウンド・ドッグの者くらい。他には何も残されていなかった。在るのは燃え墜ちる都市だけ。それだけだった。
誰もが絶望に打ち拉がれる中、辛うじて生きていたコントロール・タワーのスピーカーが雑音を漏らし始め、何者かがマイクを持つ音と共に張り裂けんばかりの声が聴こえ始める。
『ダストの諸君、聞こえるかっ! …俺達はハウンド・ドッグ。まだ諦めんなっ! 俺達が力を貸す。お前達には俺達が付いてる。だから諦めないでくれ、まだ俺達が居るっ!』
「…隊長」
それはゲイボルグだった。ゲイボルグが何処か階層のコントロール・タワーへと向かい、そこから全ての階層へと呼び掛けているのだ。そんなゲイボルグの声を聴いて彼らは表情を引き締める。まだ全てが終わった訳では無い。まだ何も終わっていないのだ。…だから、
「行くぞっ!」
そうスオウは皆へと呼び掛けていって、その声に従って彼らは再びバイクのエンジンを噴かせていく。再び走り始めた三台のバイクに付き従う様にペガサスも飛び立っていって、彼らは僅かな可能性を信じて地獄と化した都市の中を走り続けた。そしてスオウは思う。
…隊長の声がトウヤにも届いていればいい。きっと都市の何処かに居る筈だ。生きている。
そうスオウは信じる。いや、信じたいのだ。まだ可能性は残っているのだから。まだ彼の亡骸をこの目で見た訳では無い。だから信じる。今は信じるしかないのだから。
地獄の業火に燃え墜ちる都市を彼らは行く。彼らはバイクを操縦しながら巧みに武器を振るって、スオウは大鎌を、シスは長刀を振るってアゾロイドを退け続けた。そんな二人をジュナは事前にバイクへと搭載していたショットガンで援護射撃を繰り返す。
マックスもまた電光棒を振るいながら思っていた。都市は終わりなのかも知れない、と。
それなのに何故か微笑が漏れる。どうしてか笑いが止まらない。ここまで来て精神が狂い壊れてしまったのだろうか。…トウヤが生きている可能性は著しく低い。だからマックスは笑う。笑い続ける。もうそれしかなかった。目の前に広がるのは地獄。絶望だけだった。
その笑みが湛えるのは深淵、そして狂気であった。それでもマックスは笑い続ける。眼前に広がる光景から自らの心を守るかのように。でも信じたい。…きっと無事で居る、と。
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