第XIII話

 虫の声と風の音しか聞こえないほど静か。今はそんな時刻。もちろん、そんな時間に起きているはずもなく眠っている。それは今のキリヤの家も同じである。


 だがそんな中で、複数の足音が今のキリヤの家に近づいてきている。その足音が寝ながらでも警戒している彼の耳に届いて目を覚ます。


「……」


 あくびを噛み殺しているため無言で立ち上がる。すぐさまキリヤは寝間着を脱ぐが、中に黒い無地のフード付きパーカーを着ていて、ズボンも黒いジーパンを履いている。つまり、ダークロウの活動するときの格好だ。


 キリヤは自分の寝ている部屋の窓から外に飛び降りる。もちろん出る前には黒い靴を履いている。なぜかキリヤは二階から飛び降りたのに地面に着地した瞬間に音も鳴らないし、足を痛めている様子は無い。


 フードを深く被り足音を立てずに森の中に走って入っていく。月明かりや星の明かりは厚い雲に隠されているため微かな光源しか残っていないのに彼は足音を立てずに走って真っ直ぐに進んでいく。


 それにしても予想通り何か来たな。でも、こんな夜中に来るのは予想外だったな。


 少し感心しながらも真っ直ぐに進んでいくと、森が深くなっていき夜空の微かな光源ですら高い木で隠されて完全の暗闇になったが、それでもキリヤは足音を立てずに真っ直ぐに進む。


 少し歩くと暗闇でも辺りを見回すことができる暗視ゴーグルを装着している集団を発見する。


          ♦︎


 ノルニアはキリヤが家を出て行ったことに気づき目を覚ました。彼が出て行ったことに確信があったが、念のためにキリヤの部屋に向かったが、案の定キリヤと一緒に寝ていた、ニッカ達しかいない。


 突然、複数の足音がノルニアの耳に微かに届き、キリヤがどこに行ったか理解した。追いかけようと思ったが、外の空を見ると月明かりと星明かりが厚い雲で隠されているのを確認すると、進もうとしていた足が止まった。


 なぜなら、夜の暗闇は何が潜んでいるのかわからないから危険なのだ。そのため進もうとしていた足が本能的に止まったのだ。そんな足を無理矢理に動かしても、何もいいことが起きないのでノルニアは今のキリヤの家で家主の帰りを待つことにする。


          ♦︎


 暗視ゴーグルを装着している集団がアルネーク士官学園の生徒ではなく暗殺者であることがすぐにわかった。


 服装が黒いフードが付いていないパーカーで、ズボンは黒い体には密着するほどのピチピチの服装で靴は黒色。ここまでだったら、暗殺者上がりの殺し屋の服装かもしれないが、暗視ゴーグルを装着している集団が暗殺者だと裏付ける特徴がある。それは目がギリギリ隠れないほどの黒いマスクや口と鼻だけを隠くすほどの長さの黒いマフラーを着けている。これが暗殺者の服装なのだ。


 どうして暗殺者がここに? しかも集団で。


 不思議に思ったので何か会話をしているかもしれないと思い、耳を澄ませると、会話が聞こえてきた。


「そういえば俺らは何のためにここに来ているんだっけ?」


「忘れたのか? ここアルネーク士官学院は今後、この国の軍の軸になるような者達を集めて教育しているのだ」


「それって、僕らに何の関係があるの?」


「あなたはバカですか? この国アルネークは我らの祖国と今にもぶつかりそうな状況なのです。だから、まだ熟成していない時に消すのです」


「そういえばそうだったな。そういえばここには貴族の息子と娘が大量にいるんだったな。なら、俺は娘の方を消す担当をする」


「あんたの場合は消すじゃなくて拉致するの間違いだろ? お前がそういう人間なのは昔からの知り合いである私は知っているんだからな」


「さすが幼馴染だ。俺のことをよく知っている。お前も一緒にヤるか?」


「タイプの女性がいたら」


「ぶっ! タイプの女性って、お前はほとんどがタイプの女性だろ!」


「デブは嫌だ」


「デブはいいと思うけどな。触り心地が良さそう」


「A3 1スリーワン。A3 2スリーツーうるさいぞ。今は任務中だ」


「すみません。A0 1ゼロワン


「俺達以外にも喋ってましたが」


「お前達は最後まで話していただろう」


「ププ! 怒られてやんの!」


「本当にゴミ虫以下ですね」


「森の中とはいえもう、敵の陣地だ。うるさいぞ。お前らも罰を受けたいのか?」


「「いいえ申し訳ありません」」


「ですが、ここは警戒が甘すぎますよね? 普通に侵入できましたし」


「確かに不自然なくらい門番が普通に寝ていたな」


「ですよね」


 この学園の門に門番なんていたか? だが、寝ていたらいてもいなくても一緒か。それにしても男女合わせて五人か。男が四人で女が一人。A何ちゃらって言ってたしもしかしたら、強い集団かもしれないな。


 自分の考えで警戒をしながら今後はどうするか言ってくれるか期待をする。


「それでは作戦通りに遂行するぞ!」


「了解!」


 そんなうまいこと行くわけないよなぁ!


 当然だと思いながらもわざと草むらを揺らす。


「っ!? なんだ動物か……」


「果たしてどうだろうな」


 暗殺者の集団の隊長的な人がそう言った瞬間にキリヤは木の幹を蹴りながら移動する。


「敵襲!!」


 隊長的な人が言うがもう、遅い。


 キリヤはすでにA3 1スリーワンと呼ばれた男性の背後を取っている。あえて剣で斬りつけると見せかけて、側頭部を狙い右ストレートを放つが、呆気なく掴まれた。


「いい欧撃だったが、力強さがない」


「言われなくても知ってるさ!」


 低くて暗い声で言いながら今度は側頭部を狙うのは変わらないが左ストレートを放つが、これも呆気なく掴まれた。


「だから、力強さが無いって」


「だから、言われなくても知ってるって!」


 低くて暗い声で言いながら両手を持たれているので、頭突きを放つ……フリをした。それにはさすがに予想外だったのかA3 1スリーワンが目を見開いて地面に転がる。


 キリヤは頭突きを放つフリをして相手が避けるために体勢を崩すのを見計らって、足をかけたのだ。二度に渡っての欧撃で相手の両手を塞いだからこそできたやり方だ。つまり、初めの二回の欧撃は倒せたらいいなくらいの軽い気持ちの囮だったのだ。


 すると、四方から刃物を振るった時にしか出ない風切り音が聞こえてきたので、体を捻り全て避ける。勢いを付けていたために急に止まれなくて相打ちしてくれることを祈ったが、そんなうまいこと運ぶはずが無かった。むしろ、悪い方向にへといってしまった。


 悪い方向とは五人全員が腰に個々の武器を差したままナイフを取り出したのだ。暗殺者の第二の武器のナイフをだ。


「まさかここまでとは思ってもいなかった」


「そりゃあ、どうも」


 隊長的な人に挑発するようにお礼を言いながら剣を抜く。


「そんな長い剣をあなたの体でマトモに扱うことできますかね?」


 唯一の女性が言ったが、無視する。相手は見られたからにはキリヤをこの世から排除しないといけないが、キリヤは別に殺す必要がないので簡単だ。しかも、狙うところは一点だけだ。


 さっきとは違い今度は五方向からまるで打ち合わせをしたかのように同時に攻撃してきた。その攻撃方法を見てキリヤはあることを確信した。それはこの集団は個々でも一応は力があるが弱いので、大勢で攻撃してきているということだ。そのことを確信しているキリヤは目を閉じる。


「ふっ。諦めたか。だが、お前は排除する」


 A3 2スリーツーと呼ばれている男性が怒りを押し殺しているような声で言うが、無視して集中する。


「今だ!」


 声を出して回り、斬撃で弧を描く。つまり、範囲攻撃だ。すると、全員の身に何も起きなかった。刃物に剣が当たり火花を散らして、刃物が飛ばされただけだ。でも、一本飛ばされただけでどうということはない。


「何がしたかった?」


「直に分かる」


 低くて冷たい声で告げると暗殺者側の全員の暗視ゴーグルが横一線に真っ二つに割れたが皆、幸いなことに暗視ゴーグルの破片が目に刺さることは無かったが、この暗闇では普通なら暗視ゴーグル無しでは何も見えない。でも、ダークロウとして真っ暗闇に慣れているキリヤには余裕で見えている。


 完全にバレて死傷者無しで無力化されたのだ。暗殺者にしたらそれほど屈辱的なことは滅多にない。


「貴方の名を聞きましょう」


「ダークロウだ」


殺し屋名キラーネームではなく、本名です」


「敵に本名を教える殺し屋がどこの世界にいるんだ?」


「それもそうですが、やっぱり気になりますよね。ねぇ、みなさん」


 唯一の女性が同意を求めると全員が無言で頷く。


「なら、そっちが先に暗殺者名アサシンネームと本名を教えてくれたら教えてやるよ」


 絶対に教えられるわけが無い。敵に暗殺者名アサシンネームを教えたらもう、暗殺者人生の終わりだ。それと本名を教えたら社会的人生が終わりだ。だから、絶対に教えられるわけが無い。


 名を教えたらどうなるか知ってるキリヤはわざと名を教えろと言ったのだ。


暗殺者名アサシンネームはフレッシュイーグルです。本名はイマルム・ホルスターです。政府の裏の仕事をしています」


 こいつマジかよ……。本気で教えやがった。名前以外にも役職を。こいつは自分の人生をなんとも思ってないのか? それにしても約束したし教えないとな。


「本名はキリヤ・ミナトリエ。一応はこのアルネーク士官学院の新任教師だ」


 役職も教えたので、こちらだけ教えないのはなんかセコイなと思ったため、役職も教えた。


「それではまたいつか会いましょうか。キリヤ・ミナトリエ先生」


「こちらとしては二度と会いたくない」


 会ったら確実で戦闘になる。口にも出した通り二度と会いたくないな。


 そんなことを考えているといつの間にか暗殺者たちは元からそこにいなかったかのようにいなくなっていた。秋の夜中なので冷たい強い風が吹いてきた。その強風に流されたのか、空から月明かりと星明かりが姿を現した。それで、初めて今日は満月の前日だということに気がついた。


「目が覚めたことだし、少し散歩でもしてから帰るか」


 伸びをしながら散歩したら道に迷うだろうなと思いながらも声を元に戻して呟いた。


          ♦︎


「A1 8ワンエイト。どうしてあの時あの者キリヤ・ミナトリエに暗殺者名アサシンネームと実の本名を教えた? 別に偽名でもよかっただろう」


「すみません。ですが、あの人からはわたしたちと同じ匂いがしたのです」


「同じ匂い?」


「はい、同じ匂いです。自分はもう血に染まっている。だから、最後に自分の身を犠牲にして国を良くしたいという考えです」


「あの者が血に染まっている? そんなことはないと思うぞ。血に染まっていたら我らを殺さなかったのはおかしいだろ」


「確かに……そうですね」


 A1 8ワンエイトことイマルム・ホルスターが納得はいっていないが、表面上だけは納得したかのような反応をする。


「そろそろ森から出られるぞ!」


『了解です!』


 全員が声を合わせてそう答える。


          ♦︎


 本当にキリヤ先輩はどこにいるんだろう? 複数の殺気を感じたから心配だな。もちろん、キリヤ先輩が負けるわけないと知っているけど、やっぱり心配だなぁ。


 さっきからノルニアは心の中で何度も心配だなと言っている。


「早く帰ってきてくださいね」


 ノルニアは自分にも聞こえないほどの大きさの声で呟く。


          ♦︎


 散歩といっても行くあてがないので、森を散策している。森を散策していたら様々なことがわかって楽しくなってきている。なぜなら、遺跡があったり何かの集落があったりと様々な発見があるから楽しいのだ。


 でも、そろそろ帰った方が良さそうな気がしたので帰ることにする。少し歩いていると何かを踏んだ。


『ギャア!?』


 何かはそう悲鳴をあげた。謝るために悲鳴が聞こえた方を見るとキリヤの頬が一瞬で引きつる。なぜならそこには、かなり頑丈そうで、かなり素早そうで、かなりヌルヌルしてそうで、かなり締め付ける力が強そうな存在がいたからだ。まあ、簡単に言うと人間よりも余裕で大きい大蛇がそこにいたのだ。


 しかも、かなり鋭くこっちを睨んでいるし。その蛇は突然口から炎を吐いてきた。


 チッ! 本当に大蛇はダルいって! しかも、一人の時に! まあ、自業自得だから仕方ないか。


 自己完結をしながらも炎を避けるが、避けてからここが森ということに気がついた。つまり、山火事が起きる。


「まさか、計算済みか!?」


 大蛇なのにか? もしかしたら、大蛇では無いのかもしれないな。


「お前は何物なにものだ?」


 聞くが大蛇が答えてくれるはずもない。そして、とうとう森の炎が木に移り、燃え盛る。しかも、この広い森はほとんど誰も来ないために木から出される酸素も豊富だ。そのため炎は一気に強まる。


 クソッ! 俺が魔力さえ扱えたら!


 自分に対して文句を言うが、結局は彼にはこの炎を消すことができない。炎が強まるのをキリヤは見ることしかできない。


          ♦︎


 ん? 何あれ?


 ノルニアは森の方を見て疑問に思うが、すぐに正体がわかった。なぜなら、空と森がオレンジ色に染まっているからだ。その状況からノルニアはすぐに炎だということがわかったので、その炎に向かって走り出す。


 少しだけ森の中に入ると、炎が凄まじい速度で襲ってきている。それを見たノルニアはある行動に移す。


『水の精よ。聖なる純水を順従なる私に恵みたまえ。ウォーターマス』


 呪文を唱えると手を前から迫り来る炎に向けて、魔術名を言った瞬間にノルニアの手から大量のそれも洪水を起こせそうなほどの量の水が生まれて炎に向けて襲いかかった。


          ♦︎


 自分の無力さを改めて実感しながら、ジッと前を向いていると突然、頭にモザイクが鳴り響く。それでキリヤは、誰かが呪文を唱えて魔術を使ったということを理解した。


 次の瞬間に自分の家がある方向から地響きを鳴らしながら、水が現れたことに気づいた。あまりの水量にキリヤは驚きで目を見開くが、逃げることはできない。


 まあ、消火はできることだし別にいっか。俺の身体が水に流されてどこかに流れ着くしな。


 死ぬ可能性があるのに彼は全く焦りもしないし、逃げもしなし、森の火の消火をできるならと思って自分の身を守ることはしない。そんなことをしたら、水の流れが変わり消火できなくなるかもしれない。それだったら自分の身はどうなってもいいかとキリヤは考えている。


 数秒後に洪水を起こせそうなほどの大量の水にキリヤの身体は飲み込まれた。

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