STOP THE ATTACK
初めての精霊魔法
第15話 初めての精霊魔法 1/2
「か、返してよ」
「はははっ、こいつ泣きべそかいてるぞ」
「ほんとに高校生かよ」
朝、氷雨と一緒に登校して、教室に入るとそんなやり取りが目に入った。
「おい、お前たち、何をしている」
「げっ、奇人だ」
「うちのスーパーブサイクチビ包茎ナイトに何をしていると聞いている」
「将くん、ひどくないかな」テルが口を挟む。
「それはテルの財布だろう。速やかに返せ」
「うるせー。お前、ちょっと強いからって調子に乗るなよ」モブ二人組が粋がる。
調子に乗る脇役には死を。俺は問答無用で財布を持ったモブの顔面に、治ったばかりの右手拳を叩き込む。
モブは机にぶち当たり、床の上を滑って、窓ガラスをぶち破り、校庭の上空を舞い、大気に吸い込まれ、宇宙の片隅で星になった。ウソだ。本当は鼻血を出して気絶した。
もう一人のモブには氷雨が血も凍るような制裁を与えている。R-15指定になりそうな凄惨なバイオレンスなので詳細は割愛する。
俺は落ちていた財布から千円札を抜き取るとポケットに入れ、残りをテルに返す。
「ありがとう。なんか、素直にお礼言いたくないけど」
「気にするな。それより何故抗わない。あんなチンカスよりお前の方が戦闘力は上だろう。あいつらは戦闘力たったの3、ゴミだ」
「強さは関係ないよ。僕、ああいう状況になると足がすくんじゃうんだ」
「それならば良い方法がある」氷雨が声を上げる。
「ほう、それは何だ」
「足を切断すればいい」
「お前本当にJKか? デザートは脳みそですとか言うんじゃないだろうな」
「ダーリン、動物をこよなく愛する淑女に向かって失礼だな」
「どこが淑女やねん」
元来、人間が使える魔法には限界がある。
火炎、氷結、雷撃、風雲、物質。この五つの魔法系統を基本五大魔法と呼ぶ。
人間はエーテルを消費する事でこれらの魔法を操る。
他にも回復、隠蔽など幾つかの魔法系統が存在するが、回復は主にエーテルを直接注ぎ込む、隠蔽はその流れを極度に見えづらくする、どちらもエーテル操作の技だ。
魔法威力は、体内にあるエーテル量と、それを放出するエーテル門によって左右される。
凛子と氷雨の例で見よう。凛子は体内エーテル量が氷雨より少なく、だが手足のエーテル門の質が高い。反対に氷雨はエーテル量が多く、門が弱い。オウカポジションを決める最初の目安がこれだ。凛子は手足に強い魔法を展開できるルーク向き、反対に常にエーテル弾を撃ち続ける氷雨はクイーン向きと言った感じだ。ちなみに氷雨は模擬戦で圧倒的な火炎の面制圧を見せたが、あれは手足だけでなく、体のエーテル門全体を使うからこそできる技だ。
脇道に逸れた。俺は二人と戦った時に共にメルティーキッスを使ったが、凛子には破られ、氷雨は制圧した。門を氷結し、破壊するメルティーキッスは、相手エーテル門の質の高さに比例して凍結までにかかる時間が伸びる。
ではエーテル門が強ければ有利なのか。それは違う。
例えばたびたび出てくる障壁や面防御。あれは厳密には魔法ではない。体内のエーテルを拡張したもの、そう言っていいだろう。これはエーテル門を経由しないから体内のエーテル量がそのまま防御力になると言っていい。
だから一般にエーテル門が強い者を攻撃的、エーテル量が多い者を守備的、あるいは後衛ポジション向きと考えていい。そこに優劣はない。
だが両者には共に宿命的欠陥がある。もっと言うなれば魔法使いには、逃れられない弱点がある。それは体内のエーテルを、門を通してしか魔法に変えられない事だ。貯水タンクに溢れるほどの水があっても、蛇口から出る水は少量、そんな感じだ。
そこで人間は精霊に目を向けた。
奴らにはエーテル門がない。強いて言うならば体全体がエーテル門と言い換えても良いだろう。
我々魔法使いは、精霊を使役する事で、魔法使いとしての欠点を補おうとした。簡単な話だ。体内のエーテル自体を餌に精霊を召喚し、使役する術を覚えたのだ。
精霊を使えば、体内のエーテルを、エーテル門を経由しないで魔法に代えられる。
今朝一限目の授業は、その基本を学ぶことだった。
この一カ月、座学での精霊魔法はさんざんやってきた。今日はいよいよ実践。
「麻生、お前は精霊魔法が使えるらしいな。みなの前でやってみろ」
「良かろう。何をすればいい?」
「そうだな。ではリヴァイアサンでも呼んでもらおうか、はははっ、冗談だ」
「ふん。見くびられたものだな。リヴァイアサン程度なら買い物で500円玉を出すくらい簡単に出せる。見ておけ」
体内のエーテルを爆発的に拡張する。校庭の砂を巻き上げ、竜巻が起きる。やはりエーテルを操るならこうでないと。エーテル制御の腕輪など邪道だ。
「海を裂き荒ぶれ、
水龍の息吹を感じる。出てこい。俺はここだ。
刹那、エーテルの匂いに誘われ、亜空間から水龍の頭が顔を出す。モブがおののくのを感じる。
悪魔水龍。海蛇の化身。だが呼び方などどうでもいい。
邪悪な顔、圧倒的な巨体と鋼の鱗。
胴を巻き、口から呼気を放つ龍が校庭に降り立つ。
俺のエーテルと悪魔水龍が融け合うのを感じた。
「出したぞ。どうする、女子のセーラー服でも引き裂いてやろうか?」
「も、もういい。早く帰しなさい、うん、それがいい」
「なんだ、呼び損では波平も可哀想ではないか」
「リヴァイアサンに波平って名付ける方が可哀想だろ」
仕方なく波平にお帰り頂く。まあ何もしないでエーテルだけ食って帰れるんだから波平も本望だろう。
「ふう」
一息ついていると四人が俺を取り囲む。
「将、あんたやっぱただのバカじゃなかったんだね」
「ほんと凄いよ。僕リヴァイアサンなんてテレビでしか見た事ないもん」
「私も驚いた。間近で見るとリヴァイアサンって言うよりリヴァイアサマって感じだな」
「そのサンじゃない」氷雨、最近果敢にボケてくるな。
「しかし、お前一体どこでこんなの覚えたんだ? 精霊魔法の中でもリヴァイアサンなんてかなり上位の魔法だろう?」
「前にも言ったが英才教育の賜物だ。実際、俺も小学校の中頃までは普通の一般生徒だった」
「えっ、その話マジだったのか?」
「ああ。兄が死んで以来、俺は強くなろうと心に誓った。そこで師匠に弟子入りして、そこで魔法のイロハを学んだのだ」
「師匠って?」
「兄嫁だ」
「桃ちゃんのお母さん?」
「そうだ。今はしがない商店街のパートだが、昔はとある機関のトップエリートだった」
「ふーん。とある機関って?」
「悪いが言いたくない」
「珍しいな。将がそんな言い方するなんて」
「お前たちだからここまで話した。この話は終わりだ。俺はサキュバスのちなみちゃんと下ネタトークしてるからお前たちは真面目に課題をこなせ」
「精霊魔法で遊ぶな」
太一たちが課題に取りかかる。ふむ、最初の課題はコロポックルか。まああの四人なら問題ないだろう。俺はちなみちゃんを膝の上に乗せて酒を飲みながらモブを見回す。
ほお。なかなか洗練された召喚をしてる奴がいるな。コロポックルが完全に懐いている。小さな体で跳ねるように術者の後をついて歩いている。
あれは誰だ? 女で顔もまあまあだな。俺は立ち上がる。
「おい。お前なかなかやるな、名を名乗れ」
「げっ、奇人」
「げっ、ではない。名乗らなければちなみちゃんに
「お、
「めぐ美か。お前もしかして精霊魔法の経験があるのか?」
「昔ちょっと教えてもらった事があって」
「そうか。ちなみにアナルの経験はあるか?」
「だ、誰か来てーーー」
「失礼な奴だな」
めぐ美の声を聞きつけて、男が一人、こっちに来る。
「何だちみは」
「めぐ美のカレシの
なんだ、カレシ持ちか。どうせ冴えないモブとモブのカップルだ。放っておこう。
「まだ何もしていない。大体めぐ美はグラマーと言うよりぽっちゃりのカテゴリーだろ。顔はまあまあだが特に魅力は感じん。せいぜい身の丈に合った陳腐な恋愛を謳歌していろ」
「なんだとっ!」
「もういいよ、正人、早くいこ」
「そうだ正人。早く行け」
「もう、もう許せないっ!」
正人が障壁を展開して襲いかかってくる。カノジョの前で男気見せようとして失敗しちゃうパターンだ。
「ちなみちゃん、出番だ」
「はい、ご主人様」
ちなみちゃんが背の羽根でふわりと舞い、正人の前に障壁を展開する。それ以上進めなくなった正人の上半身に絡みつくようにちなみちゃんが身体を密着させて、そして唇に口づけをする。
ちなみちゃんが言う。
「ご主人様。魅了完了しました」
「ご苦労。正人、お手」
ぼうっとした顔になった正人が俺にお手をする。
「正人、おかわり」「正人、スクワットジャンプだ」「正人、面白い事を言え」「正人、タバコの火が消えないようにコーラを飲め」「正人、フルチンでマラソンしろ」
ああ、超楽しい。しかも正人、今どきブリーフかよ。しかも仮性だ。
全裸で疾走して風になる正人に、クラスメイトから笑いが起こる。
「もう止めてよ」めぐ美が叫ぶ。
「ならお前も全裸マラソンしろ」
「するから、するからもう止めてっ!」
制服に手をかけ始めためぐ美の目はマジだ。こいつ、本気なんだな。
「悪かった。すぐに解除する」
糸が切れたように、正人が走るのをやめ、そして泣き出した。
「将っ! お前何やってんだっ!」
怒りの形相の太一が俺に迫る。
「すまん。ちょっとテンションが上がってしまったのだ」
「お前はほんとに、大原、立てるか?」
太一は正人に手を貸し、凛子がめぐ美の手を引いて校庭から歩き去って行った。
「私はお尻で割り箸を割るやつを見たかったんだが」歩み寄ってきた氷雨が言う。
「お前、俺より鬼畜だな」
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