interlude

お局リョーコ

第88話 interlude お局リョーコ 1/1


 時は、桜花祭の親善試合、百花繚乱から少しさかのぼる。

「ラザニア、オン、ステージ!」

「サルサソース泥棒の花嫁」

 氷雨と二人、挨拶をしながらふり研の部室に入る。

 目を向けるとそこに、部長の早乙女カケル、副部長の綾小路みるく、そして純姉さんと、一年のモブが二人。エリー以外はみんな集まっているようだ。

「エリーはどうした? 今日は来ないのか?」俺聞く。

「特に連絡はないわね。でも基本うちは来たい時に来るスタイルだから、そういう日もあるでしょう」みるくが答える。

 俺と氷雨は荷物を置き、円形に並べられた椅子に腰かける。

「ショー、氷雨。さっきのあいさつ、だいぶ練ってきたね」

 純姉さんが笑いながら俺たちを見つめる。その隙にモブ二人が俺たちの紅茶を準備する。

「姉さんの笑顔が見たくて考えてきた。ご所望ならあと百通りくらい用意してあるが、十個ウケたら一回ハグさせてくれ」

「ダーリン?」氷雨が俺を睨む。

「待ってくれ、事故だ。口が勝手に動いてしまったのだ」

「バカだね、ショーは。あ、そうそう。今日は米倉先生来れないから。なんか桜花祭の打ち合わせがあるみたいでさ。一応、連絡しとく」姉さんがお菓子の箱を俺に回しながら話しかけてくる。

「別にそれはどうでもいい。カケル、ミルクとってくれ」

「はいよ」

 紅茶にミルクを注ぎ、角砂糖を一個つまんで溶かす。氷雨は氷雨で、家が貧乏なガキみたいに浅ましくお菓子を頬張っている。

 その時、カケルの携帯が鳴る。

「おい、バイブがモーモー言ってるぞ」

「む。ああ、西脇くんだ。今日は来れないってラインだった」カケル言う。

「そうか、エリー来れないのか。あれだけショーに懐いてるエリーが来ないって珍しいな」姉さんがそう言って指を組む。

「ぷいっす。ぷぷぷいっす」氷雨がすねる。

「どうした?」

「何でもないもん」

「いや、そんなジャーキーを噛みちぎったような顔で言われてもな」

 そう声をかけると、氷雨は素手で角砂糖をつかみ取り、それを全部紅茶に入れて一気に喉へと流し込んだ。

「おいおい。チューバッカの射精くらい豪快だな」俺言う。

「見たことあるんかい」カケルツッコむ。

「麻生くんの例えは若干おげふぃんね。普段は良いけど、公式戦だと減点される場合もあるから気を付けてね」みるく言う。

「ぜんぶ夏のせいにしちゃうから大丈夫だ。しかし、こんな下らんことを試合にする大会が実在するんだな」

「するわよ。我が『ふり研』は人数こそ少ないけど、全国大会の常連校よ」

「それは二階からたけおみだな」

「目薬だ」みるくツッコむ。

 俺言う。

「たけおみが、二階から落ちてきた。たけおみは昔から絵が上手くて、幼い頃の僕は…」

「物語のプロローグみたいに言うな」

 うむ。今日も俺、調子いいな。

 しばらくだらだらと喋る。

 部室には紅茶と砂糖菓子の甘い匂いが立ち込めて、みるくは編み物をし出し、カケルはノートを開く、純姉さんは一人でバトル鉛筆をしている。小学生か、この人は。

 俺と氷雨は百花繚乱でのフォーメーションの打ち合わせ。俺たち普段の六人と、学年選抜のチームでは微妙に癖が違う。そこのところの微調整だ。

 それぞれ思い思いに過ごしていると、カケルが思い出したように口を開く。

「なあ。思ったんだけど、聞いてくれるか?」

「なんだ?」

 みんなぶっちゃけヒマだったからカケルに視線が集まる。

「僕もみるくもペンネームだろ? 黒須にも、黒の魔女って異名がある」

「そうだな」

「んで、考えてたんだけど、米倉先生に、何かあだ名付けられないかなって」

「なるほど」

 すげーどうでもいいが、言われてみれば確かに、そう言う親しみの表し方はありだと思う。

「カケルはどんなのを考えているんだ?」俺聞く。

「うーん。特にないんだけど、何とかのつぼね、的なやつはどうだろう?」

「源氏物語っぽいな。例えば?」

「例えば『青空の局』とか」

「いいね。キレイな感じ」みるくが同意する。

「『ねじり鉢巻きの局』とかどうだ?」氷雨言う。

「ねじり鉢巻きって言いたいだけだろ」

「じゃあダーリンは何かあるのか?」

「『イボマシラの局』とかな。姉さんは?」

「『シーズン2の局』」

「まずシーズン1連れてこいや」みるくがツッコむ。

「『Dカップの局』ってのはどうかな?」モブの片割れが口を開く。

「それどうなんだ。涼子にあんま女感じたくないから却下だ」

「そうだな。それに微かに下ネタっぽいな」カケルが意見を言う。

「むしろ下ネタならもっと大胆に行け。『チンコかと見紛う局』とかな」

「どんなんだ、それ」

 それぞれに意見を言うが、決定打がない。ぶっちゃけみんなボケたいだけだ。

「結局どうする?」

「じゃあ、『お局リョーコ』で」氷雨が言う。

『異議なし!』

 あっさり決まったな。

 どうでもいい、ただ、バトルシーンが続くとちょっとアレかな、って思った作者の悪ふざけのような時間が終わった。

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