第86話 ルーキーセンセーション 2/3


「さあ、ノーシードの試合も終わり、いよいよベスト16、本戦の始まりです。ノーシードは前評判通り、三年学選ほか、順当な勝ち上がり。1-Dも奮闘しましたが、やはり優勝候補の一角! また、二年学選も特進クラス、3-Aに勝利しました。さすがは去年の優勝の立役者、鬼丸選手を有する二年学選。次の試合は三年学選と! ベスト16きっての好カードです。これが事実上の決勝戦なのかあ?」

 実況の、非常勤教師、武藤慎二がよく喋る。

 そして、その隣にはなぜかゲスト解説としてテルが座っている。

「テルさん。どうですか、今大会の注目ポイントは?」

「そうですね。まず、三年学選に、三年の学年アイドル、疾風のAカップ、花田美空。二年学選にちょっとおっかない去年の優勝者、Gカップの鬼丸かえで。そして副会長のクールビューティー、Dカップの星野奈緒。2-A、3-Cにもクラスアイドルが顔を連ねていますね。ですが僕の推しはやっぱりこの人! 一年学選の碓氷氷雨さんです! まずね、氷雨さんの何がいいかって言うと………」

 テル、解説って言うか完全にグラドルヲタみたいになってるじゃないか…。

「麻生?」

「ん?」

 見ると、舞台袖で中田くんが狙撃銃の調整を行いながら俺を見る。

「なんだ?」

「今日の試合、勝って終わればもう明日のベスト8が出揃う。二年生も当たり年って言われてるだけあって層が厚い。ベスト8にも何組か出てくるだろう。良く見とけ。誰が何をしてくるのかを。特にお前と直接ぶつかるポーン、ルーク、キングの三ポジションを」

「そうだな。でも、俺の目指す先はそこじゃない」

「どういう意味だ?」

「実戦で、『自分は何ができますよ』って、敵が手取り足取り教えてくれるか? 俺の目指す先は、『対人』じゃない。IMM、無機魔法生物やモンスターとの戦闘だ。人間相手にあれこれ考えて勝てても意味はない。俺の目指す先は、『絶対無敗!』。それだけだよ」

「悪い。国軍を目指すお前には余計なおせっかいだったな」

「いや。でも俺なりに、ちゃんと相手の分析はしてるよ。ただ、どこを見据えているのか、ってのを知ってて欲しかっただけだ」

「その上で、気になる相手は?」

「鬼丸かえで。星野奈緒。尾形大謙を有する二年学選だな。あの前衛スリートップは、正直俺たちより総合力が高い。ここを崩すのにはうちの後衛がどこまで連携できるかにかかっているな。頼むぞ」

「オーケー」

 前の試合が終わった。

 次は、俺たちの番だ。

「さあ! ここで登場、一年学選のメンバーだ! 対するは3-E。学選は登録メンバーを入れ替えて、控えのキング、佐伯を投入する模様。これが吉と出るか凶と出るかあ?」

 うるせえな、武藤慎二。はしゃぎ過ぎだろう。

 ネクストサークルに集まった俺たち六人に、観客からは大声援。

 霧沙は何も言わない。

 氷雨は腕を鳴らし、中田くんは目を細め、精神統一。

 岡類はいつも通りリラックスした表情で扇を構え、将門が手に持ったトンファーで一つ空を切った。

「みんな」

 俺はみなに声をかける。

「視野を広く持とう。戦うのは自分だけじゃない。仲間が何を求めているか、そこを意識して行こう。あとは、声かけだ。簡単でいい。でも、声を出すのを忘れないように」

『オーケー!』

「麻生将」霧沙が初めて俺の目を見る。

「必勝のかけ声を頼む」

「ああ。では行くぞ。『絶対勝つっ!』」

『絶対勝つ!』

 みなが舞台に散る。俺は舞台に上がる前に一度振り返り、村田を見る。

 遠目には、村田が何を考えているのか、俺には分からない。

 だが、勝ちたくない訳がないんだ!

 待ってろ、村田。

 次への切符は、俺たちが用意してやる。


 目の前に、3-Eのポーンとルークが構えている。キングの後ろにクイーン。後衛両サイドを固めるようにナイトとビショップが並び立つ。

 俺の横にはルークの将門。

「麻生くん。開幕のアレ、覚えてるよな?」

「無論だ。引き付けてくれ。必ず成功させる」

「良し! さあ、行こう」

 審判の先生が出てきて、部隊の中央線、エンゲージラインを確認する。

「3、2、1、始めっ!」

 かけ声と同時に、エーテル障壁を身に纏い、神速で相手キングにつっかける。

 間を抜かれたポーンとルークが追いすがろうとするが、そこに将門のカバー。

 乱戦になる。

 霧沙と中田くん、岡類のエーテル弾射撃が後衛を襲い、俺はキングとタイマンになる。

「山統べし森の賢者、来い、弓引人馬ケンタウロス

 高速詠唱で、エレンくんを召喚する。

 精霊魔法は、召喚する精霊のランクに応じて、召喚までにかかる時間が決まる。

 前にやった模擬戦で、俺は最上級精霊である悪魔水龍の高速詠唱を中田くんに驚かれていたが、今回は中級の弓引人馬!

 よりスピードを重視した訳だ。

「電光石火の高速召喚! ポーンの麻生将だ! 行け、有の弟! 麻生の根性見せてやれっ!」

「武藤先生っ! 実況は公平に!」

 武藤慎二が和子に怒られている。そんな事はどうでもいい。

 まずは、キング!

「我が守護木星よ! 嵐を起こせ、雲を呼べ、雷を降らせよ!! シュープリーム・サンダー!」エレンくん言う。

 わざわざエレンくんに技の口上を覚えさせた、セーラージュピターの必殺技だ。

 ちなみに俺も親父のビビンバもジュピターが一番好きだ。

 エレンくんの雷撃魔法が相手キングを襲う。

 キング避ける。

 よしっ、タイミングは、今っ!

 俺は、跳躍して避けたキングの着地地点へ回り込む。そして武器を持った右腕を抑え、拘束する。

「霧沙! 氷雨! 捕まえたぞ! 『お似合いの妻』、開始だ!」

「作戦名、お似合いの妻。開始!」霧沙言う。

 霧沙と岡類、中田くんがエーテル弾射撃の焦点を相手ポーンとルークに切り替える。氷雨はすでに面制圧のエーテルを展開中。キングを抑えた俺に、敵後衛から射撃が来る。

 だが、その弾丸をルークの将門が面防御で蹴散らし、その隙に俺は相手キングを自陣に引きずり込む。

「氷雨!」

「了解! 碓氷式炎術、焔波ほむらなみっ!」

 氷雨の面制圧が相手陣営を襲う。

 本来なら対人戦において、面制圧は打ち消し合いの意味合いが強い。片方が打って片方が打たなかったら、それは一方的に殴られるのと同じだ。だから打たない訳にはいかない。

 だがしかし、今自陣最前面には相手キング。

 相手クイーンは動けない。

 炎幕が相手を襲い、俺はその隙に拘束していたキングをぶん殴って気絶させる。

 炎幕が晴れる。

 上手い具合に、相手ポーンが負傷している。ルークの将門が、同じく相手ルークとタイマン。ここを逃す手はないでしょう。

 格闘中の将門たちの後ろから攻撃の構え。

 大地に足を開き、盾を前にかざし、後方一直線、右手の槍に全てを込める。

「雪花!」

 そして咲く、雪の花!

 相手ルークが倒れ、その隙に傷付いたポーンと、それを回復しようとしたビショップが霧沙と後衛に打たれる。

 残りは、クイーンとナイト。

「クイーンは俺がやる。中田くん援護! 残りは全員でナイトだ」

 開幕わずか数分で残りは二人。気さえ抜かなければ楽勝コースだ。

「ピザポテトオーバーロード、メイクイーン!!!」

 質量を持った火炎の弾丸がクイーンを襲う。相手は武器で弾丸を叩き落とすが、メイクイーンは途切れない。捌ききれなくなった弾がクイーンを捕え、炎熱で焼き尽くす。

「中田くん!」

 声をかけると同時に、狙撃銃を構えた中田くんの銃口から、神速の五連射!

 この速度で五連射できるスナイパーは、桜花高校広しと言えど中田くんだけだ。

「ぐあっ」

 クイーンが倒れる。

 そしてその間に、数の利で飽和攻撃したナイトが崩れる。

「そこまで! 勝者、一年学選」

 勝った。快勝であると言っていい。

 仲間と手のひらを打ち付け合い、舞台を降りた俺に、村田アキトが近づいてきた。

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