第54話 テルの休日 2/3
テルが田舎道を歩いているのを、俺と太一で尾行する。加えて幻影風魔のこたろうが後に続く。
ここらは田畑ばかりで見晴らしがよすぎる。尾行には不向き。そこでこたろうの魔法を使う。
「隠密忍術、影隠し」
みんな、見てやってくれ、こたろうの唯一の見せ場だ。こたろうがエーテルを展開する。こたろうの前方に透明な鏡のようなフィールドが形成される。その性能はカメレオンの擬態と同じ。周りの風景と同化し、その身を隠す。
その鏡の後ろに三人で隠れる。テルが振り返ってもこれなら分からない。ただし、欠点もある。
「おい、さっきからなんか、すごい見られてないか?」太一が赤面している。
「ああ、影隠しは前方の一面しか効果がない。つまり横とか後ろからはまる見えだ。朝もはよから男三人で固まって歩いていたら、そりゃ注目も浴びるだろう」
「まあ駅までの辛抱と思って我慢するか」
田舎のガキどもが指をさして笑いながら俺たちを見ている。俺は怒ったりしない。ただ、これだけは言いたい。他人さまに指さしちゃいけないでしょう、と。怒るのではなく叱る。これが教育だ。
やがて駅に着く。さすがにさっきよりは人影も多いので、ここらでこたろうにはお帰り頂く。さて、テルの様子はどうだ。まっすぐ電車には乗らないらしい。駅前をうろうろしている。
「どこに行く気かな」
「分からん。お、店に入ったぞ」
テルが店の扉をくぐる。電気屋か。何か買う気なのかな?
テルが店の中をのんびりと歩いて行き、テレビの前で足を止める。
二十分経過。
「あー、面白かった」テルが立ち去る。
「あ、あいつ、ぶらり途中下車の旅見てたな。しかも結構長く。俺は土曜日どんだけヒマでもあれは滅多に見ないぞ。見るとしたら王様のブランチだ」
「まあどっちもどっちだが。あいつテレビっ子なのかな」太一言う。
「お、移動するぞ」
観察を続行する。
次はマッサージチェア。そこで三十分間、見たくもないテルの恍惚の顔を死んだ目で眺めて、時刻は十一時。
店を出たテルが次に寄ったのは本屋。そこで立ち読み。そしてスーパーで試食、自転車屋のおばちゃんと世間話して、公園でだらだらする。縦横無尽だな、こいつ。しかも一銭も使ってない。
もう面倒くさくなってきたその時、テルが動いた。小走りでするすると移動していく。なんだ、この機敏な動きは。
見ると公園のトイレの前に、首輪をつけた犬が座っている。飼い主はいない。そこにテルが近づき、わしゃわしゃと首を撫でる。そこにトイレから出てくる人影。
「あれ、テルくん。また来てたんだ」
声の先には、大学生くらいの年上の女。明るいブラウンの髪と優しそうな笑顔。
「うん。今日は午後から友だちの家に行くんだけど、昼間はヒマで。ミキさんは今日休み?」
「ええ。テルくん時間ある? わたし紅茶持ってきたから一緒に飲もうよ」
二人がベンチに腰かけ、仲良く話し出す。いかんな、ここからでは内容が聞こえない。だが、これ以上近づくと狭い公園だ、バレてしまう。
「あの人、テルとはどんな関係なんだろうな」太一が呟く。
「さあな。だが内容を聞けば分かるだろう」
「なあ、やめないか?」太一が俺を見る。
「ん?」
「尾行しといてこんな事を言うのは何だけど、話の内容はやめておこう。そこが最低限のマナーだ」
「まあ、お前がそう言うならそうするか」
「おし、俺たちもいったん昼飯にしよう。コンビニで買ってくるからここで待っててくれ」
「オッケーだ。弁当はセブンで。それからファミマでファミチキだけ買ってきてくれ」
「めんどくさい注文つけるな」
ミキさん、けっこう胸あるな、と思いながら太一が買ってきた弁当で昼食。
三十分くらいそうしていたか。ミキさんは立ち上がり、犬と共に帰っていった。俺の家に集まるのが二時だから、まだ少し早いか、と思っているとテルはもう駅へ。今から家の方へ向かうらしい。
「なんかさ、柴田が言った通りなのかな。テルに好きな人がいる疑惑だな」太一がファミチキを食べながら言う。
「うむ。雰囲気のいい女だったな。派手さはないが、普通にいい感じだったな。テルには惜しい女だ」
そして、フロムテルの駅、トゥー俺んちの駅。
ちなみにうちの駅は桜花高校の最寄り駅でもある。俺は徒歩とバスで登校しているから駅を使う事自体あまりない。電車楽しかったな、今度見てみようかな、ぶらり途中下車の旅。
「太一。俺は今からマッハで自宅へ帰る。お前は時間差で来い」
「分かった。カメラのセット忘れるなよ」
「無論だ」
んで。
カメラセット終了。ラインで氷雨に連絡を入れる。映像の感度も良好らしい。向こうは凛子も来て、女三人で見学体制が整ったと返ってくる。
「三人とも。テルに何か聞きたい事があったら、俺のラインにメールしてくれ。音は拾えているか?」直接声に出して聞く。
ピローン。
「了解した。ところで聞いてくれダーリン。我が家に女子が二人も来てくれたんだ。これがマブダチという…」
めんどくせえな、既読スルー、と。
待っているとインターフォン。まずテルが来た。
「おじゃましまーす。太一はまだ?」
「ああ。まあ上がれ。たまの男だけの会だ。色々ぶっちゃけていこう。昼飯は食ったか?」
「うん。あ、お土産買ってきたよ。コンビニのだけど、お菓子とかいろいろ」
「む、すまんな。部屋にクッションが三つ用意してある。お前は絶対に真ん中のクッションに座れ」
「な、なんでそこ指定してくるの?」
「今日はお前が主賓だ。国賓級の待遇を用意するのは国家主席として当然だろう」
「誰が国家主席やねん」
うむ、リアクションに加え、最近はこいつもツッコみ出来るようになってきたな。テルを座らせて飲み物の用意。テルが買ってきたミルクティーのペットボトルを開ける。家がみんなのたまり場になってから、みんな色んな私物を置いていく。特にコップなんかに関しては鏡花以外、みんな私物だ。
「ねえ」居間からテルが声を上げる。
「ん? なんだ」
「今日は氷雨さんのコップで飲むよ」
どやー。ドヤ顔である。しかもあわよくば本当に氷雨のコップで飲もうという計算が透けて見える。
「構わんが、俺と戦争するつもりか?」
「そんなこと言って、将くんも一人の時、凛子のコップとか舐めてるんでしょう?」
どやー。二回目である。ブサイクな顔に加えて、最低の目つきをしているな。
「大丈夫だよ、将くん」
「な、なにがだ?」
「子猫たちは、何も気づかない…」
どやー。もういいか。氷雨と凛子のコップにミルクティーを注ぎ、居間へ戻ると、またインターフォンが鳴る。太一か。
「おっす。来たぞ。お土産買ってきたぞ」
「あ、そうなんだ。じゃあ僕のは引き取らせていただいて…」
「ケチか! うちに置いときゃいいだろう。太一、まあ座れ。お前は誰のコップで飲む?」
「何の話だ?」
「テルは氷雨、俺は凛子のコップで飲む。お前も好きなコップを選べ」
「いや、もう男子のしか残ってないだろ! いいよ、自分ので飲む」
太一、カメラがあるから凛子のコップ競いに来なかったな。
「それじゃ、乾杯しよっ! ところで今日は何の会なの?」
「さっきも言ったが、男同士でぶっちゃける会だ。太一。さいきん凛子との仲はどうなのだ?」俺聞く。
「え、いや、なに? それってまるで俺が凛子の事好きみたいじゃないか」太一が、カメラの向こうにいる凛子を気にしてよそ行きになる。
「いいじゃーん。ぶっちゃけよーよー。凛子のパイオツを想像してハッスルしてるんでしょー」テルがゲスの顔になっている。
ピローン。「こ、これがあの湯本なのか…」「テル殺す。お前も殺す」「湯本くん…」
憐れテル。だが本番はここからだ。
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