第202話 名実111 (262~264 竹下による本橋の心理推測3)

「となると、これらのモンだけ埋めたんは、どういう意味があったと思っとるんや?」

「久保山さん、それについてはこう考えています」

竹下はそう短く言うと、一度溜めるように口を閉じたが、もったいぶった形で喋り始めた。


「……あくまで私の推測に過ぎませんが……。これらの証拠物件が、本橋さんにより骨壷に入れられ、墓に埋められた本来の目的は、万が一の際に役立つ証拠としての役割が、その第一の目的ではなく、ある意味、自身の遺骨代わりだと言うのは、さっき言った通りとして……。直接的な意味での、自分の遺骨の代わりだったというのとはやや違い、本橋さんにとって、懺悔のあかしとしての遺骨の代替だったんじゃないか、そう考えています」

そこまで言うと、自分でも難解な言い回しに、やや苦笑して、

「ちょっとわかりにくいですね。もう少し噛み砕いて説明します」

と、自分の頭を軽くはたいて2人に謝罪して続ける。


「さっきも言いましたが、本橋さんは、捜査や取り調べ、裁判の過程で、決して殺人を自白することを考えていませんでした。但し、一方で、贖罪の為、確実に自分が断罪される様にはしていました。自白出来ない立場にあったのは、これに具体的に書いてありましたよね?」

そう言うと、竹下は、応接セットのテーブルの上に置かれていた、墓から出て来た手紙を軽く手に取って、また置いた。


「勿論、本橋さんがやったことの意味や重みは、本橋さん自身が理解した上での話なのは、直前に触れた様に、有罪になる状況を残していたことからも明白です。形式上はともかく、やったことの罪深さや贖罪を明確に強く自覚するまでに……。正確に言えば、ヤクザの論理からはっきりと決別して、一般的な倫理観通りの行動に移すまでには、かなり時間が掛かったのかもしれませんが、おそらく、これから死ぬまで続く心中の苦しさは、逮捕される前から、聡明な本橋さんには、想像ぐらい十分に出来たでしょう……。というより、犯行初期から、実はそれなりに、内心で苦しんでいたんでしょうが……。だとすれば、その苦しさを誰かに吐露したくなった、そう考えるのはおかしくはないでしょう? そして、本来なら表沙汰にならない……、出来ないはずだった、兄貴分の瀧川が関与している証拠物を差し出し、洗いざらいの『罪の告白』をする相手は、本橋さんにとっては、既に亡くなっている日向子さんしかいなかったと思います。誰にも喋られる恐れもありませんし、重罪を黙っている苦しみ、或いは、本橋さんを、警察に『売り渡す』という苦しみを、吐露した相手に与えてしまうこともないですからね……。親友であった黒田さんでも、否、一本気な黒田さんだからこそ、それは憚られたはずです」

こう言いながら、竹下は本橋の心中を思いやり、一度視線を下げた。


 そして、

「同時に、その懺悔に必要の無い、既に現世で汚れた、本橋さんの直接的な遺品や形見の様な、ある意味余計なものを入れることは、敢えて一切避けたんじゃないでしょうか? ただ、一方で、証拠物の他に、久保山さん宛の手紙が入っていましたが、それは仕方ないことだと思います。そもそも、骨壷の外に置いておくことも出来たんでしょうが、完全な状態での保管の為には、中の方が都合が良いでしょうし、それぐらいの妥協は許されると考えたんでしょうね……。とにかく、手紙はともかく、犯した罪に対する懺悔に必要なものだけ、骨壷に入れて埋葬した。この懺悔こそが、殺人以外にも、これまでヤクザとして、人の道を外れてきたことをも含めた、彼の人生そのものへの、ストレートな『贖罪』であった、そう推測しているんです。こうして、汚れた前世の残りとしての遺骨や遺品という形ではなく、真っ当な『魂』のみとして、日向子さんと『同居』出来ると……。本当の意味で、本橋さんの遺骨代わりとなるものは、本橋さんに由来するモノではなく、本橋さんにとっては、全てを贖罪した後に残る、精神性そのものだったのではないか……。その精神性を担保する象徴としての、自らの殺人の『真相』を証明するモノだけが埋葬されていたと……。そしてそうなれば、黒田さんによる、日向子さんの墓への埋葬の許可の前提である、『堅気になっている』という前提にも反しないと考えたように思えます。それが、骨壷の中に、形見は一切なく、証拠物のみが入っていた、真の理由わけではないか、そういう結論に至りました」

と、結論に至るまでの解説を長々と述べた。


 この後、何とも表現し難い空気が、事務所内を急速に支配したが、それを打ち破る様に、黒田が淡々と喋り始めた。

「幸夫が死んで……、5年経つ今となっては……。もはや、真相はあいつの口から語られることはない訳やし、あいつの内心がどうだったかは……、俺にも正確にはようわからん。……ただ、あんたの解説はなしは、確かに、そう思わせるだけの、筋は通ってると感じるわ……。それだけやのうて、多少なりとも、俺にとっても救われる話でもある。そういう意味でも、あんたの考えが合っていて欲しいという思いもあるわ……」

黒田にそう言ってもらえて、竹下としてもありがたい気持ちがあったが、

「それにしても、そこまでの推理は、あんたらの捜査……、まあ、今の竹下さんは、刑事やないが……、それにとって必要とは言えんやろ? 今の、新聞記者としてのあんたが、そこまで深入りする理由わけは何や?」

と、続いて語られた言葉は、思ってもみないものだった。


 しかし、竹下は落ち着いて、

「仰る通りです。私がここまで勝手に本橋さんの心中を想像したところで、捜査権限もない上、捜査自体に、この本橋さんの行動の理由に対する憶測が与える意味は、残念ながら、ほぼ無いどころか皆無と言っても良いでしょう……。しかし、そうだとしてもです! 95年当時、本橋さんに、警察や私自身が、さんざん振り回された意味を、今になって改めて問い直してみたかった、そんなところが理由ですかね」

と、自分の余計な振る舞いを分析してみせた。


「問い直したい?」

それを受けて黒田が再び尋ねた。

「そうです。本橋さんの性格は、私もそう感じていましたし、久保山さんからもさっき聞きましたが、ちょっと人をおちょくりたいと言ったタイプの様でしたので、我々も、そういう面で、95年の取り調べの際、良い様にしてやられたのは事実でした。だとしても、今こうやって考えてみた限り、我々が本橋さんにとって、『告発のための代役という期待に応えられる』レベルにあるかどうかを、当時はチェックする目的も、そんな振る舞いの中にあったというのも、おそらく間違いないと思っています。そうなると、今になって、逐一、本橋さんの生前の行動の理由を、様々な角度から導き出し検証するのも、本橋さんへのちょっとした『仕返し』であり、同時に『供養』でもあると、そんな思いがありましてね……」


 そこまで竹下は答えた後、自分でもおかしかったか、笑みをこぼし、

「ただ、正直に言いますが、さすがに供養って感覚は、今日の今日まで全くありませんでしたよ。我々宛の手紙を読み解いた上で、大阪こっちにやって来て、更に黒田さんや久保山さんと会って、本橋さんについての色々な話を聞き、初めて急激に芽生えた大変不思議な感情なんですけどね……。それまでは、本橋さんが今になって提示してきた謎を解いて、何とか7年という時間差で、やり返してやろうと言う感情おもいばかりでした。ただ、今日一日のことで、本橋幸夫という人間に対し改めて興味が湧き、その人となりを、自分なりに捉え直してみたくなった、そんなところでしょうか……。当然、非常に断片的な部分しか見ていない訳ですから、この僅かな時間だけで、全て理解したような気になることは、本橋さんは言うまでも無く、親しかったお二人に対しても、大変失礼だとは思いますが」

と言って、頭を掻いた。


「ううむ……。幸夫への仕返しと供養か……。言わば『恩讐』って奴やな……。ただ、あいつが今になって、あんたに過去の事件の蒸し返しを任せるために、死ぬ前に色々仕掛けたことを考えると、捜査に懸ける思いだけやのうて、あんたの洞察力、推理力を見切ったんやろうな、僅かやったという取り調べの時間内で……。今、竹下さんの話を聞いてるだけでそう思えるわ」

黒田はしんみりと語り掛けてきた。

「まあ、そこまで評価してくれたとは思いませんがね、あの人が……。むしろ半ば馬鹿にされていたんだと思いますよ」

竹下はそう苦笑したが、黒田に褒められて、居心地がむしろ微妙に悪くなったせいもあったか、急に話題を変え、

「本橋さんが『自主的』に捕まった後、担当弁護士には、大島海路のいる、今の梅田派の、梅田議員の親族が絡んでる弁護士事務所(御堂筋リーガルオフィス)が弁護に付きました。一応は、本橋さんが金を払ったという形になっていますが、実態は別でしょう。とは言っても、受け取らなかった最後の殺人の報酬分が、そちらにある意味回ったとすれば、結果的には、本橋さんが払ったという形だったのかもしれませんが……」

と、事件の本筋の解説を唐突に再開した。


 確かに、本橋は最後の報酬は受け取っていなかったのだから、結果的には同じだったと言えるかもしれない。その上で、

「瀧川からしても、万が一、本橋さんに洗いざらい自供されたらたまったもんじゃないですし、かと言って、組関係の弁護士なんざ頼んだら、それこそ葵一家が絡んでると、自ら暴露するようなもんですから、裏で関係のある箱崎派……、今の梅田派絡みで、本橋さんへの弁護を依頼せざるを得なかったんでしょう。本橋さんに、『弁護士を付けてやるから黙っとけ』という意味で……。そうじゃなくても、本橋さんは黙っててくれただろうというのが、本当に皮肉ですが」

とも続けた。これについても、7年前の時点での、竹下の推理は当たっていたと言えよう。


「ホンマに、あいつらのそういうところは相変わらずやわ」

久保山が、自身の経験も踏まえたか、吐き捨てた。


「しかし、瀧川は、本橋さんの忠誠心を最後まで信じ切れず、利用することに目が行き過ぎました。本橋さんが死刑になるなら、自分達が佐田実殺害に、一切関与していないことを明確に示そうと、知り合いの新聞記者を利用して本橋さんに接近させ、本橋さん自身は勿論のこと、死んだ人間に全部背負わせようとした訳です。ところが、95年当時ですら、その工作が仇となって、我々が、葵一家や大島海路が何か絡んでると、むしろ疑うことに繋がったんです。そして、その点を我々が本橋さんに追及した為、当時の本橋さんが、『余計なことをしやがって! 余計に疑われたじゃないか! 俺も自白損だ』という感情を持ち、その工作が事実だったことを、我々に対し、『ある方法』で暗示したと思っていました。あくまで、何となく示唆したに過ぎず、立件出来ないレベルでの自白という奴です。でも、実際には、そんなちょっとしたやり返しというレベルではなくて、その瀧川や大島側の工作そのものが、本橋さんにとっては、復讐を思い立つ契機きっかけになっていたんですね、今となってみると……。結局、ばちが当たったんですよ、瀧川達は。因果応報です」


 この竹下の更なる解説に、黒田は、

「あいつは、まだワルやなかったもんの、小学の坊主の頃も、怒らせたら、中学生の不良でも組み伏せたもんや……。その気性が、組への忠誠という殻をぶち破って表に出たんやな」

と、2人の幼い頃を思い返していた。


「そして、これらのことを総合すると、本橋さんが7年後の我々に、『時効を迎えて、事件の解決は無理だっただろう?』と、表向きは、間違った認識の上で、更に色々と挑発する様な、捜査側と敵対していることを意識させる文章を書いてきた理由も、ほぼ判明したと思います」

竹下は、そう言いながら、胸ポケットから改めて本橋から届いた手紙を出して、実物を黒田に見せた。神戸への道すがらでも見せて、暗号解読含め簡単に解説してはいたが、しっかりと見せるのは、この場になってからが初めてだった。


 黒田は、苦笑いしながら、その「おもて」の文章をそのまま眺めていたが、それを見終わったのを確認し、竹下は話を再開する。


「正直なところ、こちらに来る前までは、本橋さん自ら書いた、死後に我々や久保山さんに届く手紙が元で、終わった事件を新たに展開させる契機きっかけになったことを隠したいという思いがあったと、そんな見方もしていました。それこそが暗号文として送ってきた理由だったと考えていたんです。何しろ、ヤクザにとって、自分の親分を売ることは、死んでからも不名誉なレッテルを貼られることだと思いましたから。……否、ちょっと自分に都合良く言い過ぎました。正確には、こちらへ来る前までは、そこまではっきりと認識は出来てなかったんですが、今日日向子さんの墓から出て来た、本橋さんから久保山さん宛の手紙で、更にはっきりと書かれていた様に、そういうことは、間違いなくヤクザにとって禁忌タブーであると。つまり、ヤクザとしての名誉を、本橋さんが死んでからも守りたいと考えていたならば、そんな意図も、十分にあり得るかなと、もっと漠然とした形で考えていたんです」

竹下は、北海道で手紙を受け取って解読していた頃の推測を、正直に話した。


「ヤクザにとって、そういう部分があることについては間違いないわ。ワシも誰が命じてヒットマンをやったかは、口が裂けても言えんかった。葵からの制裁を恐れたと言うことも無い訳や無かったけどな……。結果的に見れば、黙っとったことが、ヤクザを続けることを許すどころか、ヤクザから足を洗うのにも、役立ったのは皮肉やった」

久保山が、自らの経験から、その推測を裏打ちしてくれた。だが、

「しかし、今まで触れて来てわかったかと思いますが、本橋さんにとってはそんなことは、もはやどうでも良くなっていて、連中に復讐したいと言う思いで一杯だったと見るのが自然です。と言うより、実際に、久保山さんに死刑直後届いた方の手紙にも、ヤクザの体面などどうでも良いという風なことが、暗号で書かれていた訳ですから、確実にそれが正解でしょう」

竹下は当初の説を否定してみせた。


「そいつは、ワシ宛ての手紙に潜ませてあった、『瀧川にも罪を償わせるつもり』、まさにその部分やな?」

再び久保山が補足したが、先程はすぐに結果的に否定されただけに、やや及び腰の言い方だった。


「そうです。それだけ、新たに強い決意の方に乗り換えたんですから、既にヤクザとしての体面なんてもんに、こだわっていたというのは無理がある。だとすれば、あの文面は何の為に偽装したのかということになる。明らかに暗号の意図をはぐらかすか、逆方向に持っていこうとしていたのは確実です。そうなると、考えられる目的は2つしかない」

「その結論とは何や?」

黒田がその先を急かした。


「まずは、本橋さんが考えた告発の為の作戦が、手紙が第三者、或いは悪意のある敵方に見られても、バレないようにする目的です。まあこれは言うまでも無く当然でしょう。邪魔されたくないですからね。しかし、もう1つの、むしろ最も重要な目的は、黒田さん『達』を絶対に守る為だったはずです。告発に協力してもらうとしても、そのせいで迷惑を掛けることは、絶対に避けたかったんだろうと思うんです」

「うん? 俺を守る?」

黒田は素っ頓狂な顔で聞き返した。


「我々に差し出された手紙も、久保山さんに差し出された手紙も、表向きの文面はおろか、いずれも暗号文ですら、黒田さんの名前ではなく、『タダノ』名で記載されていました。漢字でさえ、そのままの形で表記されていない暗号文の中ですら、『クロダ』という名前は、徹底して一言も出ていないんです。それ以前に、読解するのにも苦労する、かなり難解な暗号文の中ですらですよ?」

そう言うと、黒田の理解度を探るように一瞥して更に続ける。

 

「また、墓に隠してあった久保山さんへの指令の手紙でも、『あいつ』表記でした。そちらは、墓に埋めた91年4月の段階で、おそらく今回同様、何らかの暗号を用い、久保山さんに黒田さんの所へ、墓の場所を聞きに行かせる方法を、万が一の告発の際には用いる予定だったんでしょう。ですから、あそこまで辿り着かれるということは、久保山さんか黒田さんぐらいしか、普通は考えられないにも拘わらず、タダノと偽装こそしなかったものの、黒田さんの名前は、やはり具体的には一切使わなかった。ここまで徹底するということは、絶対に漏れたらいけないという認識が、本橋さんの念頭にずっとあったのは間違いない!」


 この意見を聞いていた久保山は、黙って頷き、

「ワシに来た手紙に、暗号ですら、わざわざ『タダノ』と書かれとったもんやから、これは黒田はんのことは、表に出したら絶対にアカンのかと思っとりました。ところが、北海道から来た、しかも、ちょっとしか兄貴に関わったことのないと言う、この竹下はん達に出した手紙には、同様にタダノ表記とは言え、ワシが黒田はんと会わせなアカンような中身やったと、今日の午前中に竹下はんから説明されたもんやから、正直、『おかしいやんけ?』と思ったんですわ……。それは、ワシより、道警の刑事や元刑事の方が、はるかに信用されとるんかという、割り切れない思いと、どうも筋が通らんという、不可解な思いの混ざった、複雑な感情やった訳です。ただ、さっきも言った通り、兄貴はこん人らの、『捜査に懸ける執念』を徹底して信用したんやと、今となっては納得しとります。人間としての信頼が、長い付き合いのワシより上やと、そいつはちょっと悲しいモンがありますが、そういう意味ではなかったんやと」

と言って、ちょっと嬉しそうに微かな笑みを浮かべた。


「わかりにくいと思いますから、私の方から、もう少し具体的に黒田さんに説明します。黒田さんと本橋さんの関係は、ヤクザで知っていたのは……、正確には、今は元ヤクザですが、この久保山さんだけだったと言うのは、ほぼ間違いないでしょう」

竹下は、一度ヤクザと言ったが、久保山に悪いと思い言い直した。

「そないなことはどうでもエエから、続きや続き!」

久保山にそう促されたので、仕切り直す。


「そうなると、決意した告発をする為に、本橋さんが色々と画策して、死刑後託された手紙が、万が一葵一家やらその手先……、残念ながら、これは警察も含みますが、そちらに流出した上、これも可能性はかなり低いとは言え、暗号が解読された場合でも、黒田さんの名前をそこに出さなければ、相手はそれだけでは、黒田さんの存在を知りようがないということになります。タダノじゃ誰だかわかりませんからね。仮に、名前の出ている久保山さんに、『タダノが誰か』を問い詰めたとしても、久保山さんなら、生命を賭しても黙っていてくれるとも信用していたはずです。つまり、黒田さんが何か知っているとして、敵対者から危害が加えられることを、迷惑を掛けたくない本橋さんは、徹底して避けようとしたということでしょう。まず第一の砦として、我々に来た手紙では、警察を馬鹿にするような表の文面や、久保山さんへの手紙では、単なる過去の思い出話のような形にして、真意がバレないようにしました。そして更に、真意を伝える暗号でも、黒田さんの名前は一切出さなかった。そういうことです。勿論そこには、久保山さんへの強い信頼という、大変重要な前提がありました」

ここまで竹下は、ゆっくりとは言え一気に喋ると、再び喉の強い渇きを覚え、今度はお茶に手を伸ばした。


「幸夫の奴、そこまで考えとってくれたんか……。あいつの罪は罪として許されんが、俺もあいつを一方的に責め過ぎたんかな……」

やや弱気の虫がまた顔を出した黒田だったが、久保山は1人満足そうに穏やかだった。弟分として、兄貴分からの信頼の大きさが嬉しかったのだろう。そして、竹下は大して間も置かずに口を開いた。

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