第118話 名実27 (59~60 遠軽署再訪)

 それからは、さすがに「平和」な遠軽署だけあって、1時間程、暇を持て余した桝井と談笑し、その上、外に出たくない2人の心中を察したか、出前まで頼んでくれて昼食をごちそうになった。そして午後3時前に、遠軽署を出ることにした。


 念のため中身を確認すると、あの時と同様、免出重吉の遺体がはめていたという、アイヌの手甲てっこう(手の甲を保護するモノ)であるテクンペなどが、しっかりと中に収められていた。そして、ダンボールを抱えて、北見へ戻るため遠軽署の建物を出た。



「さすがに来た時よりは、ちょっとは涼しいんじゃないですか?」

駐車場を歩きながら、吉村は西田に語り掛けた。

「そうだな」

そう答えた西田だったが、吉村がキーを挿れて、2人同時に車中に入ると、恐ろしい熱気に襲われた。


「そりゃ、ビニールハウスみたいなもんだからなあ。失敗した! 先に一度クーラー入れてしばらくしてから戻ることにすりゃ良かった……」

吉村が顔を歪ませながらそう後悔するも、「なんとやらは先に立たず」という奴だ。


 車外の気温が30度に下がっていた一方、車内温度は45度を越していた。仕方ないので、2人はダンボールを後部座席に置くと、エンジンを掛け、クーラーを強にしたままドアを締め、署内へと逆戻りした。


「10分ぐらい置いときゃ何とかなるでしょう」

竹下と西田は、休憩所のベンチに座りながら缶コーヒーを飲み始めたが、

「しかし、何一つ変わらないですね、遠軽署も……」

と、休憩所を見回しながら、今更のごとく急に懐かしそうな言葉を吐いた。

「ああ、全く変わらんな、あの時のままだ」

西田も素直に応じた。


「何か不思議なんですよねえ……。あの捜査から、7年という時間の経過を感じさせる出来事なんかが多い一方で、モノや場所なんかは案外変わってない。そりゃあ、遠軽から転勤したのはもっと後ってのもあるかもしれないですが、そのギャップにたまに戸惑うんですよ最近……」

「言われてみれば、俺も結構あるな、そういうこと」

西田は、吉村が妙に似合わない感傷的なことを言ったので、少し驚くと共に、いつもなら一言言いそうな気持ちにすらならず、強く同意したい思いで一杯だった。そして、そのまま2人は黙って車内温度が下がるのを待った。


 予定通り10分超で車に戻ると、確かに車内温度はかなり下がっていて、28度ぐらいまで冷えていた。

「これなら行けますね」

シートベルトを締めながら、ご機嫌になった吉村に、

「そういや、せっかく遠軽来たんだから、大将のところ寄ってくか? 俺も5年以上会ってないからな。30分ぐらいなら問題ないだろ!」

と、先程飲み残した缶コーヒーをホルダーに置きながら提案した。


「妙案ですね! 自分は、美幌署に転勤して来てからも会ってますけど、課長補佐は、転勤する前の送別会以来ですから……、確かに5年になりますか。うん、近いとは言え、そうそう来れる状況でもないし、そうしましょうか!」

と少し浮かれた感じだった。

「じゃあ決まりだな。ということでさっさと行こうか!」

「イエッサー!」

西田に向かって、わざとらしく敬礼した吉村は、「湧泉」へと向かって車を発進させた。


※※※※※※※


 車というこもあり、少々中心部からは外れているとは言え、大将の店まではあっという間に到着した。


「さっきみたいに蒸し風呂になったらあれなんで、エンジン付けたままで冷房いれときましょう。盗まれないでしょ?」

西田に許可を求めた吉村だったが、西田も注意することもなく、

「まあいいんじゃないの?」

と適当な返事をした。


 警官としての判断は、明らかに間違っているが、さっきのようなことの繰り返しも面倒だ。

「そうこなくっちゃ!」

吉村は、キーを差し込んだまま車を降り、2人は「準備中」の札の掛かった店の中へと入った。しかし、中には誰も見当たらなかった。


「あら? 裏の家にでも居るのかな? ちょっと見てきます」

と、吉村が西田に話して出て行った。

「店の裏に住んでるのか?」

西田は、その点は初耳だったが、確認する前に吉村は出て行ってしまった。程なくして戻ってくると、

「居ませんでした。インターホン鳴らしても誰も出ず、おまけに鍵が掛かってました。何処行ったのかな?」

と報告する。


「仕方ないな……。でも店には鍵も掛かってないし、そう遠くへは行ってないと思うから、5分ぐらい待ってみよう」

「そうしましょうか」

吉村は西田の指示を受け入れると、2人はカウンター席で大将の現れるのを待った。


 そして待ち始めてから10分が過ぎ、そろそろ諦めようかと思ったところで、大将がビニール袋を2つほど下げて入ってきた。

「お! びっくりしたじゃねえか! よっちゃんはともかく、こりゃまた懐かしい顔だなおい! 西田さん? だろ! 何年ぶりだ?」

大将は、相変わらずの気さくな感じだったが、端正な顔立ちも、さすがに60代は後半に入ったと思われる、年齢を感じさせる老け具合になっていた。5年という歳月を感じざるを得なかったわけだ。


「どうも久しぶり! 97年の3月に、ここで送別会やってもらって以来だよ」

「そうか、5年か……。よっちゃんからメール貰ってはいたが、今は二人共、北見に勤務してるんだっけか?」

吉村と大将がメールでやりとりしているとは聞いていなかったが、時代だなと西田は思った。


「ああ、またコンビでやってますよ。吉村には色々聞いてるんだろうけど」

西田は含みをもたせた言い方をしたが、

「いやいや、よっちゃんは西田さんとまた組めて喜んでるよ、なあよっちゃん!」

と、大将は吉村の肩を叩いた。西田は、

「本当か?」

と、ふざけてわざとらしく疑った目つきをしたが、吉村はすぐに、

「それはそうと買い出し?」

と誤魔化すように尋ねた。


「そうそう。つまみ類と野菜が足りなくてね。待ったかい?」

「15分も待ってないよ。ただ、戸締まりしないのは関心しないな」

「ここじゃ、泥棒に入るようなこともないだろ。2人共、ここで刑事やってたんだからわかってるはずだべ? その上ここには盗られるようなモンも、一切ないからな!」

吉村の苦言に対し高笑いした大将に、

「でも魯山人のがあるでしょ?」

と吉村が再反論した。北大路魯山人作の食器のことを言ったのだろう。

「まあ、あるにはあるが、本当に大事なのはもう店には出してないよ。それに、そんなに高いもんは持ってないからな……。あ、それはどうでもいい話だ。それでどうなの、長居出来るの?」

大将に状況を聞かれた2人は、

「いやあ30分も居れないかな。遠軽署に用があって来たついでだからね」

と、待たされた時間も考慮に入れて回答した。


「そうか、そんな時間しか居れねえのか……。わかった。ちょっと新鮮な白貝(作者注・シロガイ 正式名称「皿貝」 北海道に限らず、千葉あたりから北海道の太平洋岸中心に生息するが、オホーツク海側でも採れる。安価だが、癖のない上品な味とのこと)が入ったから、味噌和え作ってあるんだ。食べてってくれや! ついでにビールと言いたいところだが、車で来てるみたいだから、さすがに無理だな」

大将はそう言いながら厨房へ入ると、冷蔵庫からプラスチック容器を出して、そこから小皿に盛った。


「大して貴重なもんじゃないが、味はアッサリとしてて、刺し身よりも調理向きの貝なんだ。さあ食ってくれや!」

「じゃあ折角だから、遠慮せずいただこうかな」

2人はそう言うと早速食べ始めた。確かに、淡白な味に味噌の絡みが絶妙だ。

「おお、合うね味噌と」

西田の感想に、

「そうだべ? 料理人の腕が問われる材料なんだわ!」

と胸を張った。


「ところで、もぬけの殻だったから、家の方に行ってみたら、奥さん居なかったけど?」

吉村がタイミングを見て大将に確認すると、

「ああ、それかい……。実は半年ぐらい前から入院しててね。今日も昼過ぎまで(遠軽)国保病院で付き添ってたんだ」

と寂しそうに言った。

「そうだったのか……。それで……どうなの?」

恐る恐る病状を確認する西田に、

「いやまあ、いますぐどうこうってわけでもねえが、カミさんも、もう半年も入院したままじゃ、このまま退院出来るかどうかは微妙じゃねえかな……。先生もあんまり良い言い方はしてねえんだ。肝炎だからなあ。どれだけ保つことやら……」

と、大将らしからぬ深刻な表情で告げた。


「そうか……、大将も大変だな」

「まあそんなこともあって、店、そろそろ閉めようかと思ってんだ、よっちゃん」

思わぬことを言われたので、

「いやいや、大将それは何とかならないの? 大将の料理食えないってのは悲しすぎるわ」

と、吉村が本気で嘆いた。

「そう言ってくれるのはありがたいんだけど、俺も年だからな。気力が付いてこねえんだわ……」

その言葉の後、カウンターに頬杖を付いて、ため息を吐く。一連の話を聞いていると、西田達もなんとなく気が滅入ってきて、3人はしばらく無言になった。


「あ、染みったれた話ばっかりで、辛気臭くなって悪かったな。どうだ? 今日は暑いから、サイダーでも飲んだらどうだべ? 口もさっぱりとするはずだから」

大将はそう言うと、再び冷蔵庫を開けてサイダーを取り出し、ガラスの3つのコップに注いだ。

「どうだ? 特に西田さんとは久しぶりだし、再会を祝して乾杯といこうや!」

この時ばかりは、大将も威勢のよい言葉を発した。

「じゃあ遠慮無く!」

西田も応じ、3人のグラスが澄んだ音を立てた。


※※※※※※※


 しばらく世間話で時間を潰したが、余り話し込むと帰るタイミングを逃すので、ある意味無理やり話を終えて、2人は大将の店を出た。


 一応「また来る」とは言ったが、捜査状況によってはその言葉は嘘になるし、嘘になる可能性は、残念ながらかなり高いとも、2人は思っていた。


「大将、自分が直近で会った時よりちょっと痩せてましたよ……。奥さんのこととか大変なんだろうなあ」

国道242号を留辺蘂方面へと疾走しながら、吉村がそう口にした。徐々に落ちゆく太陽から容赦なく降り注ぐ直射日光対策のサングラスで、表情はよくわからないものの、吉村にしては本気で心配しているようだった。


「うん。特に俺はさすがに5年ぶりだから、元々若々しい人だが、今回は年齢を感じさせられたな」

「課長補佐もそう思いましたか。でも前会った時は、相変わらず若かったんですけどねえ……」

吉村はそう言うと、

「しかし、大将は親父さんの死んだ、湧別の機雷事故の慰霊式とか出たんですかね? 今年60年だったんですよね事故から、確か」

と続けた。気温がさすがに下がってきていたこともあり、クーラーは既に止め、窓を全開にして、吹き込んでくる自然の風で十分涼しめていた中での会話だった。


「聞いてみりゃ良かっただろ?」

西田にそう問われると、

「あの流れじゃ、そういう暗い話はしたくなかったんで」

とぶっきらぼうに言う。

「おまえにしちゃ空気読んだんだな」

「さすがにね。読みますよ俺でも……」

吉村にしては、西田の突っ込みに何も言い返さず、そのまま受け止めたような口ぶりだった。


 何となく気まずい雰囲気になったので、生田原に入った辺りで、西田は竹下のために貰ってきた冊子を読み始めた。先程軽く目を通してはいたが、やはり、改めて見直す価値は、そこから見て取れなかった。


 一方、強い日差しが、2人をフロントガラスの正面から襲っていたのと、車内に吹き込んでくる心地よい風のせいもあって、西田は徐々に眠気を催していた。横の吉村は、直射日光と戦いながら運転をしていたので、悪いとは思ったが、生田原と留辺蘂の分水嶺である金華峠を超えた辺りで、いよいよ睡魔に勝てなくなってきた。西田は冊子を手にしたまま、コクリコクリと船を漕ぎ始めたのだ。


 そして、意識が遠のいて少しすると、突然、西田は身体に風が強く吹き付けるのを感じ、目がうっすらと覚めるのと同時に、顔にすごい勢いで水が掛かる感覚を覚えた。


「うわ! 何だこの雨! 信じられんぐらいに酷いな!」

叫ぶ吉村に、寝ぼけ眼の西田は、一体何が起きたのか、正確な状況を把握出来ないでいたが、横の吉村は、急いでパワーウインドウで窓を閉じていた。


 それでも、既に相当量の雨が車内に吹き込んでいた。フロントガラスに叩きつける雨の量もかなりあり、ワイパーでは対応しきれない程だ。視界も確保できなかったため、吉村は路肩に車を寄せ停車した。


「びっくりしましたよ! 急に突風が吹いたかと思ったら、凄い勢いで横殴りの雨が降りだして!」

駐めるなり、シートベルトを外しながら愚痴る吉村。

「ああ、俺もうたた寝してたら、顔に水が掛かったんでびっくりしたが、スコールか」

「ええ。今日は妙に暑かったですからね。積乱雲が発達したんでしょう……」

吉村はそう言いながら、サングラスを外して顔に掛かった雨をぬぐっていた。


 西田もよく見ると、Yシャツが透ける程水浸しになっていた。それだけではない、横殴りの雨だったせいか、車内も相当濡れていた。

「まいったなあ。タオルはと……」

西田は、ダッシュボードの小物入れから、ちょっとしたタオルを取り出したが、2人の顔や服、車内を拭き取るレベルではない。ハンカチもすぐにびしょびしょになる水量だ(作者注・名実以降の天候関係の表記については、気象庁のサイトで確認した上で記述しておりますが、この日の天候上は、この付近で当日雨が降ったという記録はありません。私自身が大昔、この付近を家族の車で夏の暑い日に通った際、とんでもない雨量の瞬間的豪雨に見舞われた経験があったので、あくまでそれを元にして話を創りました。ご了承ください)。


 車内にあったティッシュペーパーも動員したが、大して量が入っていなかったので、それもすぐに尽きてしまった。ただ、外の雨は、瞬間的な通り雨の類だったのだろうか、数分で止み、また晴れ間が急激に戻って来ていた。それを見て、吉村がドアを開けて外に出た。


 すると突然、

「ああ、またここかよ!」

といわくありげな声を上げた。

「どうした?」

遠慮がちに聞くと、

「見て下さいよあれ!」

と反対車線の方を指さした。


 そこには、「常紋トンネル工事殉難追悼慰霊碑入口」の白く細長い標識があった。

「7年前の年末は、ここで爺さん轢きかけて、今度はびしょ濡れですか……。やっぱりタコ部屋労働犠牲者の呪いなのかなあ!」

マイッタという表情をしながら車内に戻ると、

「これどうしましょうか……。服も車内も水浸し。遠軽で貰ってきた冊子も、かなり濡れちゃいましたよ。竹下さんにこのまま送るのもなあ……」

と残念そうに言った。


「このまま走りだすのもなんだから、すぐそこの金華駅に行く横道に入って、ちょっと落ち着こうか」

と、西田は声を掛けた。イライラしたまま運転させると、本当に事故ったりするものだ。ひとまず一度仕切りなおすべきだと判断した。

「じゃあ、ちょっと一休みして、水濡れの対処方法でも考えますか……」

そう言うと、吉村はゆっくりとサイドブレーキを戻した。


 それにしても、急停車してからこれまでの間、追い抜いていった車もなければ、対向車線を通る車もなかった。確かにこの区間は、国道とは言っても、山中ということもあり、元々交通量が多い区間ではないが、それでも尚、昼間としてはかなり珍しい状況だった。


 車は20mも進まない内に、ゆっくりと国道から横道へと入ると、数百メートル先のバラック小屋のような金華駅を正面に見ながら、通りに沿った数軒の空き家を横目に駅前のちょっとした広場へと進んだ。


 すると、前方の駅舎の前に、95年に2度、西田達の前に姿を現した、あの老人が、相変わらずの古いラジカセを持って佇んでいるのがわかった。

「あ! あの爺さんか! まだ生きてやがった!」

7年前の12月、西田が大友刑事部長から「撤退」を突きつけられた夕方、この付近で轢きかけてトラブルになっただけに、吉村はフロントガラスの向こうへ向けて悪態を吐いたが、言葉尻程の怒りは表情からは窺えなかった。さすがに7年もの間、本気で怒りを引きずる程の話でもなかったのだろう。


 車が駅舎に近付いて、その前に横付けすると、老人はすっと歩み寄ってきた。それを見て、西田は一度閉じていたサイドウインドウを開けると、突然白い塊を、その隙間からねじ込むように突き入れてきた。


「これ使ってくれや!」

よく見ると、丸められたタオルのようで、余りのタイミングの良さに、西田は礼を言うのも忘れポカンとしていたが、老人はそのまま何も言わず、国道の方へとスタスタと去って行った。そしてすぐに、ラジカセから大音量で、村田英雄の「人生劇場」が流れ始めたのを、2人は唖然としながら、ただ聞くだけだった。


「なんだあれ……」

吉村は呆気にとられたように見送っていたが、西田は貰った塊をバラすと、4枚分のハンドタオルだったので、

「折角もらったんだから、これで拭こうか?」

と提案した。


 丸められていたとは言え、どうも使い古しというより、下ろしたてのような質感だった。

「いや、まあそれはいいんですけど、また丁度良いモノを差し入れてくれましたよね……。車の前に、急に飛び出してきたと思ったら、妙に親切だったり、何なんだろうなあの爺さんは……。風体も7年前と全く変わってないし。まるで時間が止まったみたいですよ」

首を捻りながらも、吉村は西田からタオルを受け取る。


 2人はドアを開けて車外に出ると、全身を確認しながら、水気をタオルで拭いた。タオルはよく見ると、常紋トンネル調査会の松重勇作会長がオーナーであり、捜査でも使用した、「温泉旅館 湯元 松竹梅」のタオルだと、タオルに印刷されていた文字からわかった。


 おそらく地元でもあるし、温根湯温泉にでも入りに行って、そのまま新しいものを使わずに貰ってきたのだろう。


 拭き終わると、西田は豪雨で眠気が吹き飛んだとは言え、深呼吸しながら身体を前後に伸ばし、再び睡魔に襲われないように備えた。そして、自動販売機を発見するとコインを投入して、眠気覚ましも兼ねてコーラを2つ購入した。それを持って、今度は水浸しになった車内を拭いていた吉村に、

「これでも飲んでリフレッシュしてくれ」

と差し出した。


「あ、スイマセン、いただきます! あ、今これ拭き終わってからにしますんで」

吉村は、竹下に送る冊子の水分を丁寧に拭き取りながら、その時はまだ受け取らず、上司を一瞥して先に礼を述べた。


「吉村はコーラ嫌いじゃなかったよな?」

車外から西田が再び声を掛けると、しばらく反応しなかったものの、少し経って、車内から真顔で西田の方を向いてきた。


「課長補佐、これ最後まで見たんですか?」

「え? いや、途中まで見てたが、やっぱり竹下の記事とほとんど同じ内容だったから、途中で見るの止めてた。その後眠くなって、さっきの始末ってわけだ……。しかし、その程度なら、竹下に送ってやる意味も無いかも……」

西田が最後まで言い終わらない内に、吉村が口を挟む。

「最後まで見てないんですね!? じゃあこれ! ここの、最後の所の、事故の死者名簿一覧見て下さいよ!」

水気でシワになった最後のページを、身体を伸ばして突然西田の方へ突き出した。

「おいおい、何だよ!?」

西田はそう制すと、訝しげに冊子を奪うように手に取った。


「50音順ですから、上からちゃんと見てください!」

「チッ、わかったから」

舌打ちしながら、頭から順に目で追う。


※※※※※※※


リンク(ユーチューブの動画で見ると、この小説の舞台へのイメージも湧きやすいかと思います。UP主の方に感謝申し上げます。それにしてもこういう観光地でもない、辺境と言いますか過疎地を撮影したものが、クリック1つで簡単に見れるとは便利な時代になりました)をご参照いただければ幸いです。


◯国道242号を留辺蘂側から生田原へと抜ける車載動画(1分20秒過ぎに、追悼のある高台へと続く階段の場所、1分40秒過ぎに、おそらく常紋トンネルへと続く林道の分岐の標識らしきものが見えます)

https://www.youtube.com/watch?v=M8taD8bCMoo


◯旧金華駅周辺から常紋トンネル追悼碑までの様子(尚、映像中に謎の骨がでてくることが、UPした方のコメントにもありますが、おそらく、鹿かなにかの骨をカラスが咥えてきて落としたのではないかと思われます。場所が場所だけに、コメントにあるように、かなり恐怖感があったことでしょう)

https://www.youtube.com/watch?v=xLbuF0AddkE


尚、この映像は、本編における掲載時点では、金華駅は現存しておりましたが、2016年の3月に廃駅となり、現在はただの信号場(単線の鉄道で、列車が行き違いのために停車する施設のこと)となってしまっています。かなり貴重な映像となってしまいました。UPした方には、是非このまま投稿しておいていただきたいものです。


◯金華駅から生田原方向へ向けて常紋トンネル通過シーン(トンネルが曲がりくねっているのがわかるかと思いますが、測量もしくは工事のミスで直線にならなかったようです。また大変狭いのがよくわかります)

https://www.youtube.com/watch?v=bci_c2pUWvA

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