第4話 頼み事に条件付けても大抵その通りにならない
「俺に頼みがあるってなんですか?」
とても嫌だったけれど聞かざるを得なかった。
「儂の目的は元の世界にある儂自身の元へ還る事じゃな」
「それは分かったんですけど俺には魔法も使えないし手伝える事なんて無いと思いますけど」
「儂にはもう器が無い。魂の状態になるまでゆっくりと器に負担を掛ける事なく力を蓄えておったんじゃ。じゃがこの魂のままでは還る事は出来ないんじゃよ」
「あのー言いにくいんですけど言いますね。龍之介さんがおっちぬ前に元いた場所に行こうとしなかったんですか?」
「器が歳を取りすぎたんじゃよ。恐らくあの器で力を使えば失敗するしかなかったじゃろうな。やはり若い器に限るんじゃよ」
「まるで生贄のような言い方するんですね。俺は死んだりこの身体を龍之介さんに挙げたりするのは嫌ですよ」
「それに関しては約束する。辰一君には危害は絶対加えん。ただ少しの間だけ辰一君の身体を間借りしたいんじゃよ」
俺は賃貸かよ。超優良物件なんだぜ……。
辰一は自身の身体を見てぶにぶにした腹を見て悲しさに飲まれる。
「確認したい事がいくつかあるんですけど。いいですか?」
「うむ。儂は辰一君には嘘は言わん。聞かれた事には全て答えると誓う」
真正面からそんな言葉を聞かされたらなんかモジモジしてしまうな。
「ではまず、
①俺の身体を貸して何をどうするか
②俺に危険は無いか
③龍之介さんが元いた世界に戻ったらいつも通りの生活に戻るか」
言いながら考えた。元の生活に戻ると言った自分に正直嫌気が差していたから。
そこから脱出するには時間ばかりが過ぎてどうしていいか分からず、言い訳と嘘ばかり上手くなって情けなくて仕方ない。あそこにまた戻ると思うと億劫で正直嫌だと思う自分がいた。
「ふむ。では一つ目からじゃが
①辰一君の身体を借りて異世界への扉を開く。今の儂の状態ではどうしようもないからの。儂が蓄えた力を辰一君はそれを行使する為の身体を提供してもらう訳じゃ。
②辰一君には危険は無い。ただ魔力を持たぬ身に魔力を行き成り流す事になるから身体に痛みはあるし極度の疲労は残る。最悪で倒れるぐらいと思っていて欲しいんじゃ。
③儂が辰一君の身体で扉を開いた瞬間に儂は辰一君から分離し扉へ入り元いた世界へ還る。じゃからいつも通りの生活に戻る事は可能じゃよ」
疑う訳じゃないけど直接聞いて納得がしたかったんだ。
「分かりました。それならもう何も言いません。好きに使ってくだい」
「そんなセリフは可愛い女子に言われてみたいもんじゃのう」
うぜぇええ
「すまん。冗談じゃよ冗談。儂も元の世界に戻れる事が嬉しいんじゃよ」
そりゃ嬉しいかもしれんが少しムスっとしてしまうのはご愛嬌だろ。
「でもこの世界に未練とか思い出とか無いんですか?」
七十年も生きてきたんだ少しぐらい感傷に浸ったりしないのだろうか。
「儂はこちらの世界では七十年生きたが、元の世界ではもっと長い時間を生きておる。出会いもあれば別れもある事は嫌と言う程に知っておるつもりじゃよ」
多少はその気持ちが分かる程度には成長しているつもりだもう何も言うまい。
「で、いつ異世界の扉を開く儀式? をするんでしょうか?」
「うむ。早いことに越したことはないからの。今からでも大丈夫じゃろうか?」
フットワークの軽い爺さんだ。
俺は時間なんて気にする必要もないし何時でもいいけどさ。
「じゃあとっととやりましょう。俺はどうすればいいんですか?」
「ではこっちの部屋に来てくれ。なに直ぐに終わるから安心せい」
部屋の中は凄く質素だった。あるのは本棚と机ぐらいのものだ。
書斎なんだろうかと見回していたら。
「辰一君はここに立っていてくれればそれだけでいいからの。後は目を閉じてリラックスじゃ」
言われるがままに目を閉じ肩の力を抜いた。瞬間、背中に衝撃が走る。
合図ぐらいしろよっ!これだから爺さんは!
「ぐっ……」
痛みは我慢できない程では無いが背中からピリピリしたなにかを感じる。
気持ちが悪くて、頭の中に龍之介さんの声が聞こえる。
(もう半分は入っておる故そのまま立っていてくれ)
そしてまた背中に衝撃が来る。
「くっがっあ!?」
吐き気がする。目が廻る。倒れそうだ。
俺の声で俺ではない俺が話す。
「十全じゃの綺麗にはいれたわい。不安かの辰一君」
(気持ち悪いけどなんとか大丈夫です)
「ふむ。やはり儂を外で認識するだけの事はあるのう」
(外で認識って?)
「儂は魂の状態で外を彷徨っておったんじゃよ? 儂の呼びかけにも気が付いたしの。それを辰一君は視る事ができたんじゃから凄い事なんじゃよ?」
(そう言われればそうなりますね。俺って霊感なんてなかったんですけど)
「これも縁じゃの。かの地とこの地を結ぶからの。では行くぞ! 我が求む。
輪を紐解き導きの調べを奏で道を開け!」
途端、高さ二m程の魔方陣で描かれた扉がじわぁと浮き出る。
(ぐぎいいがああっああ)
身体中の神経がビリビリするほどの痛みが襲うが、龍之介は扉へと歩みを進めそして両手で扉に触れると頭の中が締め付けられるような痛みが走る。
「もうしばらく耐えてくれ」
無限にも感じる痛みだけの時間
ふと音が鳴る。
パリィン パリィン パリィン
何かが割れる音がする。
痛みに耐えながら扉を見ると扉に付いてる鍵のようなモノが割れていく。
パリィン パリィン パリィン
痛みで直視できないがとても綺麗だと感じる余裕だけはあった。
龍之介が扉へと力を入れると簡単に開き、中は真っ暗で何もかもを飲み込みそうな雰囲気を感じる。
「もう終わるだから耐えるんじゃよ」
暗闇の奥から光りがこちらに向かって伸びてきてる。
扉まで光が届くと不思議と身体中の痛みが消えていた。
「よう耐えてくれのう。これで繋がったようじゃの」
(もうこんな痛いのはごめんですよこの野郎……)
「ふふふ。無理をさせたのう。辰一君が居なければどうしようもなかったのう。有難う。では儂は行くとするかの」
身体から力が抜け始める龍之介の魂が抜け始めたのが分かる。
俺の顔は緩み笑みすら零れてた。不意に扉に吸われるような感覚に襲われる。
「魂が抜け切らぬ! なぜじゃ」
(早くしてくれなんか引っ張られてる感じがするんだ!)
「くっ。出れぬ。このままではいかんぞ」
一層強く引っ張られる感覚を最後に俺の意識は暗転した。
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