第10話 力の使い方

 「はぁ、銀貨5枚に銅貨100枚かぁ」


 俺は溜め息を吐きながら自分の所持金を見ていた。

 俺の持っていた魔石はビー玉大のが13個、1個銅貨5枚で冒険者ギルドが買い取ってくれた。

 銀貨は銀色のメダルで銅貨とは赤茶色のメダルだ。

 何でもこの世界のお金は金貨、銀貨、銅貨しかないらしい。

 1,000枚で上の硬貨に替える事ができるらしい。


 最初聞いたときは驚いたね。

 1,000枚って何? 多すぎだろ。間に何か別の硬貨を挟むとかして減らせよ。それにもし、999枚とかだったらどうするの? 邪魔で仕方ないだろ。


 そう思っていたらマリーが「ステータスを開きながらバンクと言えば、持っているお金をしまう事ができます」と言ってきた。

 言われた通りやってみるとあら不思議、新しいお金と書かれたウィンドウが現れ持っていた硬貨が全て無くなった。

 ウィンドウを確認してみると


  金貨 0枚  銀貨 5枚  銅貨 100枚


 と書いてあった。

 硬貨の取り出し方はお金のウィンドウを出したまま、取り出したい硬貨と枚数を念じれば取り出せた。

 便利すぎて思わず笑ってしまった。


 こんな便利な機能があるのに何故あの3人組は使っていなかったのか。

 それはギルドで魔石を売っているときに聞いてもいないのにギルドの職員さんが教えてくれた。

 何でもあの3人組と倒れていた1人は同じパーティーだったらしい。でいろいろなクエストをこなしてきて銅貨が多くなってきたからパーティー全員のを集めて銀貨にして均等に分けようと言う話になったそうだ。

 この時点でアホである。何故均等なのか? 何故一々銀貨に替える必要があるのか? こんな便利な機能があるのに。

 まあ案の定均等に分けられることは無くあの3人組だけで分けられたらしい。それで口論になり、挙句の果てに戦闘になったらしい。運良く? 俺がそこに現れて硬貨を独り占めしたわけだ。


 そして誰も戦闘を止めなかったのではなく止められなかったと言うことも聞かされた。何でもギルドマスターがギルド本部に呼ばれていて不在。さらにここが王都で比較的安全なこともあり、腕の立つ冒険者は名を上げやすい場所に行くため居ない。

 要はあのギルドで今一番強いのがあいつ等3人組だったらしい。


 だからお礼の気持ちもこめて1個銅貨3枚のところを5枚で買い取ってくれた。

 ついでに宿も紹介してもらった。

 因みに俺達は冒険者登録はしていない。何故なら……最速で最強の称号を手に入れる為だ! 冒険者ってのは大抵ランクが存在する。なら最速でそのランクの頂点に上り詰めたいと思うだろう。だから俺はここでは登録しなかった。もし上のランクに上がる試験は本部でしかやってないとか言われたら時間のロスだからな。


「はぁ~~」


 そんな前向きなことを考えながらも自然と溜め息が出てしまう。

 俺は今ギルドに紹介してもらった宿では無く、町から少し来た場所にある森の中を歩いている。周りには誰も居ない。


 別に寂しいから溜め息が出ているわけじゃない。

 何故溜め息が出るかというとお金が問題なのである。

 俺はお金について全く知らなかったがマリーは知っていた。もちろんこの世界の人間なのだから当たり前なのだか。

 でも俺はそこでふと疑問に思ってしまったのだ。もしかしたらマリーはお金を持っているんじゃないかって。気になって聞いてみたら案の定持っていた。さらにセバスとルーチェも持っていた。これだけ聞けば良い事だ。

 ただ持っていた額がやば過ぎたのだ。


セバス


金貨 258枚  銀貨 649枚  銅貨 924枚


ルーチェ


金貨 283枚  銀貨 572枚  銅貨 975枚


マリー


金貨 325枚  銀貨 832枚  銅貨 932枚


 お金のことで悩んでた俺がアホらしくなってくるほど俺の仲間は金持ちでした。

 宿の料金だってマリーの顔パスでタダだし。

 完全に俺ヒモだよね。


 さすがに持ってる金額の差が大きすぎるよ。マリーは王族だから仕方ないかもしれないけど、セバスとルーチェはどうしてこんなにも金を持っているんだ。本人に聞いてないから知らないけどさ。

 しかもだよ、この大金を3人は全部俺にくれるって言うんだ。

 貰える訳無いじゃん!


 どうゆうことなの? 眷属達よりもお金を持ってないとかさ、一応勇者だよ称号に神とかもあるんだよ。普通異世界に一文無しで召喚するか? こんな便利な機能があるならいくらかお金入れとけよ。ホントマジで。


 よっし決めた。俺はお金の表示をカンストさせてやる。

 セバスやルーチェ、マリーを失望させるわけにはいかないからな。

 多分こんなことで失望しないだろうけど、俺の気持ちの問題だ。

 この世界でやることが一つ増えた、そう思うことにしよう。


 さてそろそろ大丈夫か?

 俺は別に拗ねて町から離れた森まで来たわけじゃない。

 ちゃんと目的があってここまで来た。

 その目的とはズバリ能力の確認だ。

 城の中ではいろんな人の目があったから確認できなかったんだよな。


 いくら凄い力があっても使い方を知っていなければ意味が無い。

 宝の持ち腐れだ。俺は自分の力に驕って痛い目を見るのは嫌だからな。

 自分の力をしっかりと理解して、より強くなる。

 とりあえず攻撃力から確認してみるか。


 近くの直径5メートルぐらいの木を見てやることは決まった。

 その木の前まで歩いて行く。


「ふ~~う」


 リラックスするために深呼吸してから腰を少し落とし、腰の横で拳を構える。


「はあ!」


 その拳を勢い良く前に出し木に対して本気の突きを放つ。

 といってもステータスに物言わせて放った突きだ、俺は武術とか習ってなかったけど何と無くでやってみた。


 結果……本気はあまり出さないことにした。

 まず目の前の木の下半分が無くなり、上半分は勢い良く前に飛んでいった。

 さらに俺が突きを放った後ろにあった木々もいくつか折れているのだ。

 こんなのを普通の人間に対してやったら……想像したくも無い。


 気を取り直して次に行こう。

 防御力はステータス的に今の突きには余裕で耐えられると考えていいな。

 うん、防具って何なんだろうね? 今の突きに普通の防具って耐えられるのかな? おそらく無理だと思うんだけど。

 この時点で俺が人間なのか疑問に思い始めたよ……


 で次の敏捷性だけど……全力で走ってみるか。

 丁度30メートルぐらい先に木があるからあそこまで走ってみよう。


「……な!」


 気づいたときには木が目の前だった。

 もちろんいきなり速度を落とすこともできただろうが、そこまで考える暇が無かった。

 俺はそのまま木にぶつかった。


 ドオオオオン


 木は根元から抜けて飛んでいった。俺は無傷。

 もうやば過ぎるよ、木と正面からぶつかって勝つとか異常だよ!


「はあ~~、でも敏捷性は手加減とかじゃなく使いこなさないといけないからもう少し慣れとかないとな」


 俺はそれから10分ほど森の中を全力で走り回って元の場所に戻ってきた。


「うん、大体これでいいだろう。踏み込んだ地面が抉られてるお蔭で森の中で迷わずにすんだ」


 俺は諦めた……普通の人間だと思うことを。

 逆に俺は普通では辿り着くことのできない境地に到達したと考えることにしたのだ。


「敏捷性も終ったし次は魔力か」


 魔力……そのままの意味だろう。

 魔法を使う力という解釈でいいはずだ。

 でも本当に魔法だけなのだろうか? 他のことにも使えるような気がする。テンプレだとだけど。

 少しやってみるか。


 右手に力を集めて強化する感じで……


《[魔力操作 Lv1]を獲得しました》


 できたみたいですね。

 いや~~、凄いよね、簡単にスキルが手に入っちゃうんだもん。

 待てよ、今の応用で他にもスキルが手に入るんじゃないか?

 やってみるか。

 スキルはいくらあっても困らないし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る