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 うぁ……緊張するなぁ……


 くっ……口から心臓が飛び出しそう~~


 ドキドキドキドキ……


 鳴り止まない自分の心臓の音がうるさくて、わたし、なんにもしないうちに、このまま倒れそう~~


 なんて、思ってたら、本当に一瞬ふっ……と意識が遠のきかける。


 やばっ! 緊張しすぎて貧血起こしたかも~~


 なんて。


 自分ではどうすることもできずに、ふわぁ~~と倒れかけたわたしを、黒いマントの王子さまが助けてくれた。


 ものすごい緊張感で、ふらついたわたしを軽々とお姫様だっこに抱きあげて。『大丈夫か?』ってささやく彼は……宗樹。


 Cards soldier(カーズソルジャー)のリズムの要。


 ドラマーであるクローバー・ジャックの衣装に身を包んだ、わたしの大好きなヒト、だった。


 ………


 最後のCards soldierの正式メンバーであり、軽音部の部長さんである七星さんと、廊下の片隅でぶつかってから一週間と少し。


 わたしは、今。


 Cards soldierの『レディ・ジョーカー』の衣装を着て、君去津高名物、新入生歓迎会が始まる寸前のステージ裏の楽屋にいた。


 これからバンドの一員として、キーボードを担当し、体育館に大勢つめかけたヒトビトを盛り上げるんだ。


 一時は、メジャーデビュー寸前まで行ったこともあるらしい。


 Cards soldierに新メンバーが二人加わることになったから、って、体育館に居るヒト、ガッコの生徒や先生だけじゃなく。


  他の学校の生徒やら、ローカルテレビの取材陣まで居るんですけど~~


 も~~ど~~しよう~~


 こんなに大勢のひと混みの中で、わたし、ちゃんと演奏できるのかしら?


 でも、わたし決めたんだ。


 ココで絶対頑張るって……!


 一番苦手な場所で、一番最高のパフォーマンスをしなくちゃいけない緊張感で、心臓が張裂けそうだけれど!


 弓道部で、大失敗をしたあの日。


 軽音部に入部することに決めてからCards soldierのメンバー全員と、井上さんには、散々迷惑をかけたから。


 わたしは、自分の出来ることで、頑張りたい。


 Cards soldierのメンバーになることを決心した時。


 これから先助っ人で入るはずだった部活動全部に、ごめんなさい、もうできません、っていうお詫びの挨拶をした時、わたしが一人で頭を下げたんじゃ無かったんだ。


 軽音部を代表して、七星さんが。


 Cards soldierを代表して、滅多なことでは絶対頭を下げない神無崎さんが、頭をさげ。


 どばっと寄せられた、クレーム処理には宗樹があたり。


 それでも、出てきた心ない誹謗中傷には、蔵人さんが睨みを効かせ。


 女子からのやっかみ攻撃は、井上さんが回避してくれた。


 ほんとにもう! わたし、泣きそう~~


 っていうか。


 本当に泣いちゃったわたしを、皆があったかく迎えてくれたんだ。


 そして、なんとか。


 歌詞を乗せた途端、音程を崩した蔵人さんの歌を調整し、今、発表のこの時を迎えてる。


 苦手なひと混みと、今まで感じたことのないプレッシャーに、軽い貧血を起こしたわたしを宗樹は、抱きあげ、椅子に座らせてくれた。


 そして、形の良い眉を寄せて、わたしの顔を覗き込む。


「理紗にCards soldierのステージは辛いか?

 最初は、表に出ずに裏方オンリーの予定だったろう?

 やっぱり、俺がキーボードを担当するから、理紗は休んでる?」


 宗樹の申し出は嬉しかったけれど、わたしは、ううん、と首を振った。


「ダメよ。せっかく蔵人さんのラヴソング、ボーカル&ピアノ曲じゃなく、Cards soldier全員で弾けるようになったのに!

 ドラムスがいなくなったらどーするのよ。

 七瀬さんは、宗樹がドラムス担当の時じゃないと、自信無くてべースが弾けないっていうし!

 わたしが、キーボードから外れると、蔵人さんが音程を外すって、判ったばっかりじゃない」


「ほんとにな~~

 俺が弾いても、そう変わらねぇ気がするのに~~ってか、蔵人のヤツ!

 そもそも音が判らないくせに、よくもまあ、理紗のピアノだけは聞き分けるよな」

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