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 結局。


 朝練に参加した弓道部でも、大失敗をやらかした。


 うっわ~~んっ!!

 もぅ~~やだ~~!


 度重なる失敗に『なんだ、西園寺さんって実はたいしたことないじゃない?』って陰口をたたかれ、わたし、とうとう裸足で弓道場を飛び出した。 


 別にわたし、自分がすごいヤツだなんて、ちっとも思ってないよ。


 たまたま自分が出来ることをやってみたら、騒がれて、お願いされて、ココに居た。


 やりたいことが別にある状態で、的を狙ったって、矢は当たるはずもなく。


 当然言われた文句に勝手に傷つき、朝練を放り出して逃げ出して来ちゃったら……


 どー考えても、悪いのはわたしの方だ。


 このままじゃダメだ。


 絶対ダメだ。


 そう、判ってはいたけれど、具体的にどーすれば良いのか、全く判らず。


 めちゃくちゃに走っていたら、力一杯、誰かとぶつかった。


「うぁ~~!」


「きゃ~~!」


 わたしとぶつかったヒトは、知らない男子生徒で。


 場所は、旧校舎……ココをまっすぐ行くと、第三音楽室と、準備室がある廊下の先だった。


 どうやら、適当に走ったつもりだったけれど、反射的に一番好きな場所へ向かってたみたいだ。


 わたし、Cards soldierでも、軽音部員でもないのに、また、宗樹に頼ろうとした~~


 え~~んっっ!


 起き上がる気力もなく思わずその場で泣いていると、わたしとぶつかった男子生徒が、慌てて手を差し伸べて来た。


「大丈夫ですか!? どこかにケガでもしましたか?」


 切羽詰まったその声に見上げれば。


 ちょっと目元が涼しい感じはするけど、他に何の特徴の無いことが特徴みたいな、ごくフツーの男子生徒が、心配そうに、こっちを見てる。


 廊下のあちこちに、彼のらしい書類がばらまかれている所をみると、どーやら、彼はそれを読みながら歩いていて前方不注意、みたい。


 わたしも前なんて見て無かったから、彼が悪いわけでは全然なく。


 泣いていたのは別に、ぶつかった所が痛かったからって言うわけじゃない。


 でも彼は思い切り誤解して、心配してくれたんだ。


「ごっ……ごめんなさいっ!

 わたし、別に大したことないのに、おおげさに泣きだしちゃったりして!

 なんだか、いろんなことが一杯一杯で……」


 もう、いや~~恥ずかしい~~


 わたしの方も慌てて、手でぐしっと涙を拭くと、すぐに起き上がって、彼のばらまいた書類を拾おうとし……手が止まる。


「……軽音部、入部届け……?

 えっと、あなたも、軽音部に入るんですか?」


 うん。


 この先にあるのは、軽音部室とCards soldierの居室だから、入部希望者がうろうろしてても可笑しくないんだけど。


 なんて言うか……その。


 わたしとぶつかった彼、あんまり音楽をやるような人に見えなかったんだ。


 そりゃあ、ね。


 とびきりイケメンな宗樹達と比べられるような人は、早々居ないのは判っている。


 だけど、楽器の演奏者は独特の空気っていうか、華やかさがあると思うのに。


 彼からは、そんなのが、全く感じられず……何人かヒトにまぎれてしまえばすぐ消えてしまうんじゃないかって思うぐらい存在感が無い。


 首を傾げたわたしに、彼は、ぱたぱたと手を振った。


「いいえ。

 ぼくは、もうとっくに軽音部に所属してて。これは後輩から預かったモノなんです」


 あ、ほんとだ。


 わたしの目の前に出て来た手だけは、ちゃんとギターかベースを弾くヒトみたいだ。


 散々使い……でもきちんと整えられているその手は、毎日しっかり練習してる証拠だった。


「真面目なひとなんですね」


 って、思わず呟いた一言に、彼は、ふふふって笑った。


「ぼくは、見かけも地味だし、演奏も上手くない上。

 毎日、何かと忙しくてね。

 みんなでやろうって決めていた曲作りにも、編曲調整にも参加出来ずにいるんです。

 だからせめて、時間の空いた時ぐらいは、きっちり練習しないと。

 皆が、ぼくを待っていてくれるので」


 本当は、ぼくを置いてずっと先まで行けるのに、トモダチだから、ほっとけないって絶対待っててくれるんです。


 そう言って、彼はこめかみ辺りをぽりぽり掻いた。


「そうですか。良いヒトばかりを見つけることが出来たんですね」


 きっとこのヒトは沢山のオトモダチを見つけたんだろう。


 うらやましいなぁ、と言ったら、彼は、いいえ、と首を振った。


「トモダチは見つけるモノじゃなく『一緒に作ってゆくもの』だと思うんです。

 同じ趣味を持っているのは、きっかけでしかなく。

 後は……それから先は、どう同じ目標に向かってゆくかとか。

 相手に対して、どれだけ親身になって話し合いができるかで、結びつきが強くなると思うんです。

 もちろん、頼りっぱなしも、頼られっぱなしもいけません。

 それでもみんなのために、自分の力が及ぶ限り、頑張って。

 疲れてしまったら、誰かに頼る。

 そんなコトが、気兼ねなく出来るのがオトモダチなんじゃないですか?」


 あなたには、そう言うヒト達はいませんか?


 そう言われて、一番に思いつくのが宗樹や他のCards soldierのメンバーで。


 ……でも。


「わたし、みんなに頼ってばかりだ……」


 肩を落とすわたしに、彼は首を傾げた。


「……本当に? 色々大活躍の噂は聞いてますよ?

 んっと、あなたは一年二組の西園寺理紗さん、でしたっけ?」


「えっ……!」


 突然呼ばれて、なんで、わたしの名前を知ってるの! って言いかけて止めた。


 部活勧誘騒ぎを、あれだけ大きくしちゃったんだもん。


 君去津高で活躍する各部、部長さんには、わたしの顔と名前はしっかりバレてるし……って。


 え? もしかして、この人!


「ええ~っと、すみません。

 あなたのお名前を聞いて、良いですか?」


 恐る恐る聞いたわたしに、彼はにっこり笑って言った。


「ぼくの名前は、七星ななほし はるか

 軽音部の部長です。

 以前、夜間バイク走行集団、雷威神に所属していた縁で、ダイヤモンド・キングの神無崎裕也から『ラッキー・セブン』って名前も付けられました。

 Cards soldierの正式なべース担当、ベーシストです。

 このたびは、ウチの蔵人が歌える新曲を考えてくれて、ありがとうございます。

 今度は、是非、こちらから協力をさせていただきたい。

 ぼく達からあなたへ、何か出来ることは無いですか?」



 …………………………



 …………………

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