100 お嬢様のお泊まり会

「……さっ、西園寺さんっ!

 明日は土曜日だし! 今日は、泊って行って良い!?」


 目を星の形にして、お願いポーズを取る井上さんの迫力に負けて、わたしはうんうん、とうなづいた。


「……それでさぁ。

 なんで、俺達まで西園寺家に泊ることになったワケ?」


 どことなく緊張気味の宗樹に、蔵人さんが成り行き? と首を傾げた。



 ………


 神無崎さんの『告白』を聞いた、木曜日。


 わたしは、蔵人さんのラヴソングに取り掛かったんだけども。


 あれからさすがに、神無崎さんの言葉を何もないことには出来なくて。


 心が乱れたまま、学校の完全下校時間まで、ほとんど何もできなかったんだ。


 そして、今日は次の日、金曜日。


 朝早くから、宗樹と一緒に登校の途中、やっばり海辺に居た蔵人さんを引っ張り。


 今日は、ほとんど第三音楽準備室に立て籠っていたんだけど、歌を全部、譜面に写すことなんてできなかったんだ。


 明日は、土曜日で一日バンド活動に充てられるから、出来れば今日中に楽譜が出来あがれば良かったのに!


 蔵人さんの歌を録音出来ればそれで良かったんだけど、満足できる機材が無く。


 本人の生歌がたよりだったんだ。


 あと一、二時間~~! と叫ぶわたしに、蔵人さんは言った。


「どこかピアノのある家で続きが出来ない、か?

 理紗さえ良ければ今日は時間、ある」


「ほんと!?

 じゃあ、これからウチに来ない?

 ピアノはもちろん、あるし!

 探せばまともな録音できる機材も出てくるんじゃないかな!?」


「じゃあ決まり」


 そう、盛りあがっているわたし達の後ろから、宗樹の低い声が響いた。


「ま~~て~~!

 蔵人! お前、これからお嬢さ……西園寺の家に上がり込む気か!?

 もう夜だぞ!

 これから、西園寺に着いて二時間やってたら、かなり遅くなるんじゃねえの?」


「……えっと、夕食の心配だったら大丈夫だよ。

 コックさんに言えば、何人前だって……」


「そういう問題じゃねぇ!

 家に男を簡単に入れるな! って言ってるんだ!

 しかも、夜なのに……!」


 がんがん怒鳴る宗樹に、蔵人さんは呆れたようにため息をついた。


「……宗樹。

 何を心配しているのか大体予測つく、けど。

 僕はそんな卑劣なマネはしない、よ?」


「判ってる! 蔵人のことは信用してる!」


「ウソを、つけ。ったく、もう!

 Cards soldierに時間が無いん、だろ?

 別に僕は理紗の家にこだわってるわけじゃ、ない。

 そう言えば宗樹の家にもピアノはある、はず。

 これから僕と理紗が一緒に君の家に行っても、いいが?」


「さっ……西園寺が俺の家にくるのか……!」


 いきなり青ざめた宗樹を見て、なんとな~~く。


『西園寺である』わたしが『執事の藤原家』に遊びに行ったら、大迷惑になるんだろうな~~と思った。


 きっと長々しい挨拶と、ご馳走攻めでピアノなんて弾く暇ないかも……


 上に下にの大騒ぎ具合が簡単に予測できて、わたしもため息が出ちゃう。


「……わかった。

 そんなに心配なら、宗樹もウチに来ればいいじゃない。

 どうせ、ピアノパートの確認もしなくちゃいけないし」


「おっ……俺が!?

 まだ、一人前の執事じゃねぇのに西園寺へ上がる……のか」


 入った瞬間、執事長のクソジジィに殺されるかも……なんてつぶやく宗樹の背中をわたしは叩いた。


「宗樹は別に『執事の卵』で来るんじゃなく。

 学校の先輩、でしょうが!

 しかも、用があって来るってのに!

 誰にも文句は言わさないわよ!」


 そう、叫んだ時だった。


「なんだ、宗樹が西園寺に行くなら、オレもゆく」


 なんて声に振りかえれば、神無崎さんがいた。


 わたしと、昨日色々話をしたあと、更に一人で海風に当たり一晩経って大体回復したらしい。


 昨日はわたしたちと一緒に帰らなかったし、朝も別々に来て少し元気はないものの、まあ今まで通りな感じにほっとした。


「じゃあ、神無崎さんも。

 さすがに、ギターはウチに無いからね?

 自分のヤツを持って来て」


「おう」


 そう、片手をあげた神無崎さんを見て、井上さんが、おそるおそる聞いた。

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