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「ん~~そこ座って昼飯にしろよ、西園寺」


 って、指差した所は、神無崎さんの向かいじゃなく隣だ。


 これは……向かい合って座ると前に広がる一面の海が見辛いから……かな?


 普通に座れば、一人ははうっそうとした植え込みを眺めるコトになりそうだし、ねぇ。


 そう思ってわたし、何の疑問も無く神無崎さんの隣に座り、お弁当を開けた。


 と。


 出て来たお弁当を見て、神無崎さんが軽く口笛を吹く。


「西園寺の弁当、すげー!」


 どっかの料亭の弁当みてーなんて言う、神無崎さんに、わたしは首をぶんぶんと振った。


「……い、いえウチのヒトが作ったのをそのまま持って来ただけで……」


 いきなり西園寺のお抱えコックが作りました、なんて言えず。


 首を横に振ったら、神無崎さんの目がすぃ、と細くなった。


「ふーん。

 お前ん所の今の料理長って、長野結衣ノながのゆいのすけだっけ?

 やっぱ西園寺家って、腕の良いシェフを使ってるよな」


「……え」


 まさか、ここでウチのコックさんの名前を言い当てられるなんて!


 思いもよらないことに目を見開くと、神無崎さんがふ、と笑う。


「オレのオヤジ。

 西園寺の足もとにも及ばねぇけど、一応、そこそこ資産家。

 財閥グループの端くれだったりするんだよな。

 もっとも、オレは妾腹だったりするから、大したことはねぇんだが」


妾腹めかけばら?」


「……愛人の息子ってこと」


 えっ!


 神無崎さんは淡々と話しているけど、あんまり突っ込んじゃいけない類いのモノ……だよね?


 ごめんなさいっ! って頭を下げたら、神無崎さんは別っつに気にしてねぇぜ、って手を振った。


「愛人ったって、オヤジはオレん家の方がイイらしくてさぁ。

 また今日も居んのかよってぐらい入り浸ってるから、かまわねぇし。

 ……ただ、オヤジが作った、もうイッコの家のクソババアと莫迦兄貴が何かと文句をつけて来るのがウザくてさぁ。

 いずれ見返してやろうとは思ってるんだ」


「そっか……」


 雷威神として集まった人。Cards soldierの一員になった人は、それぞれワケありだって宗樹が言っていたけど……


 君去津高生徒会長、神無崎裕也さんの『ワケ』ってこれだったんだ。


 心の中でうなづくわたしに、神無崎さんは言った。


「それで、本題。

 西園寺。オレに宗樹をくれないか?」


「……は?」

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