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「あたしも、びっくりしたけどさ。
一番心配したのは、クローバー・ジャックだったんだよ?
西園寺さんが、囲まれているのを見た途端。
後先考えずに、人ごみに突っ込んでいきそうになるんだもの!
あれじゃあ、西園寺さんが本命の彼女だって、丸バレじゃん。
ダイヤモンド・キングとあたしが、必死に止めて『生徒会預かり』ってコトにしたんだからねっ!」
しょっちゅう『彼女』を変えるダイヤモンド・キングならともかく!
今まで、誰のモノにもならなかった、クローバー・ジャックが落ちた、なんてことになった日には、もっと騒ぎが大きくなるんだから!
なんてさわぐ井上さんの言葉をわたし、聞き返した。
「……へっ! わたしが、宗樹の本命の……彼女!?」
ないないない!
「それは、違うよ!」って慌てて否定したのに!
井上さんは「またまた~~」なんて、わたしのわき腹をつっついた。
「照れてるの? クローバー・ジャック、カッコ良いもんねぇ。
さっきは、助けに行くんだって、怖いほど真剣だったよ。
西園寺さん、人ごみ苦手なのはあたしも知ってたけど!
ただの幼なじみなら、そこまで心配したり、甘やかしたりしないないでしょう?
見てて、とってもラブラブ~~みたいな?」
ち~が~う~
宗樹は………宗樹は。
ただ……『執事』の真似事をしている、だけだ……
そう思った時だった。
わたしの心臓が、どきんっと急に鳴ったかと思うと、そのままきゅーっと締めつけられるような気がした。
『これ』……初めての、この感じをどう表現したらいいのか判らない。
けれど……あえて言うなら。
悲しい……? やるせない?
焦ってドキドキする……?
ううん。
『切ない』
そう、そんな感じ。
宗樹がなんやかやとわたしの世話を焼いてくれるのは、もちろん。
西園寺家の執事長たる爺の孫、だからだ。
わたしは、別に宗樹の彼女でも……本当のコトを言うと、幼なじみでもないって言うのに。
そんなコト、当たり前に判っているはずなのに。
……なんで、悲しいなって思うんだろう。
切ないな、って感じるんだろう……?
はじめて感じるこの想いに、胸の音がうるさくて……痛い。
心臓が破裂するかと思うほどの切なさに、向かい合うのが怖くて……イヤで。
わたし、無理やり声を出した。
「……そう言えば、井上さん……神無崎さん達と……一緒だったよね?
無事に、軽音部に入れたの……?」
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