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「でも、藤原宗樹『先輩』が、家に帰るのに遅くなるのがイヤなら、車、出して貰おっかな?」
べ~~って、小さく舌を出すと、宗樹はパキッと固まった。
「……先輩……」
「あれ? 違うの?」
「そう呼ばれるほど、関わるつもりはねぇ。
今日は初日で特別に付き合ってるけどな!
高校生でいる間は、なるべく西園寺も藤原も関係ねぇ所に居るつもりなんだから!」
「あっ『先輩』次の駅着いた!」
「てめ。俺で遊んでるだろう!?
絶対、軽音部来んなよ!」
まったく、どこが『沈着冷静』なんだか。
宗樹は、ウチのクラスメートとそんな変わらない
流れるようになめらかな動作で、ウチに電話をかけた。
う~~ん。
横で聞いてると、状況説明が大人のヒトみたい。
朝、小学生を痴漢と間違ってしまったり、こうやって電車を乗り過ごしたり。
でも、生徒会の活動と、音楽の演奏は完璧で……
今だって、ほら。
春の夜の花冷えで、ちょっと寒いな……と思ったらすごく自然に上着を貸してくれた。
「……あったかい。ありがとう」
「ふん」
そんな表情(かお)して横向けば、宗樹自身が小学生にも見えちゃうね。
オトナだか、子供だか、良く判らない不思議なヒトで時々意地悪言うけど。
このヒトきっと、ホントは優しくてあたたかい。
「……それで、この状況でにこにこ笑ってるし」
俺のミスなんだからもっと怒れよ、なんて宗樹は言ってるけれど、わたしだって、しっかり寝てたし、知らないもん。
別に宗樹と一緒なら、こんな、ヒトの全く居ない。
どことも知らない夜の駅だって、怖くない。
「今まで、あんまり夜出歩いたことないから、なんか楽しい」
「莫~~迦」
車を待つ時間があったから、空を見上げれば、お月さまが光っていて。
薄暗いとはいえ駅の光を越えても、輝く星がある。
こんな当たり前の風景だって、時間通りにぴしっとやって来る車に乗って移動してたら、見えなかったもの。
だから、電車の中で寝過して、時間をロスしたかなって思うよりも、迎えの車が来たときは、少し残念だな、って思ったくらいだ。
やがて、さびれた駅には場違いのでっかい車が音も無く入って来て、宗樹の雰囲気が変わった。
後部座席を開ける運転手さんに、一人前の執事の顔した宗樹がきちっと会釈する。
「……申し訳ございません。
では、お嬢さまをお願いいたします」
……って、宗樹、やっぱり車に乗る気無いでしょう!?
わたしは、ぷぅと頬を膨らませると、えい、とそのまま宗樹を突き飛ばしちゃった。
「うぁぁあ!」
取り澄ました表情のまま、わたしを車の後部座席に乗せるために振りかえりかけた宗樹は、驚いた声をあげる。
丁度開いていた車の扉の中へ、すぽんっ、と面白いように入っちゃったんだもん。
そりゃぁ、ビックリするかもねっ!
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