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「午後からは、実際に活動しているクラブの見学会、だってさ。

 仮入部も受け付けているみたいだけど……西園寺さんは、行く?」


 午後は、君去津の部活に入るヒトだけが残り、帰宅部決定の人は、もう帰って良いみたい。


 体育館の部活動紹介で、神無崎さんと蔵人さんが先生たちに連れていかれて以来。


 ず~~っと難しい顔をしている井上さんが、わたしに聞いて来た。


「う……う、うんと……井上さんは?」


「あたしは、即、軽音部に入部するつもりだし!

 もちろん、出席するわよ!」


「そっか……楽器はなに? それとも歌うの?」


「どれも出来ないけどさ、あたしCards soldierのマネージャーになろうかなって思って!

 なんだか、さっき、ダイヤモンド・キングが大変そうだったじゃない!?

 ほっとけないし、さぁ」


 頑張んなくちゃ、あたし!


 なんて言いながら、井上さんは、拳を握りしめた……けど。


 い……いや、ねぇ。


 なにも新入生で、まだ部活にも所属してない井上さんが頑張んなくても、良いんじゃない?


 ダイヤモンド・キングも『練習しないヤツは軽音部から蹴り出す』って言っているし!


 音楽やんないけど、マネージャーだけやるって言っても、きっと、断られるんじゃ……?


「Cards soldierってすごい人気者だから、今までマネージャーやっている人がいるんじゃないかな?」


 わたしが恐る恐る聞けば、今まで思いつめていた顔の井上さんがちょっと笑った。


 「実はCards soldierの実質的なマネージメントってクローバー・ジャックがやってるのよねぇ。

 いや~~ジャックって楽器持たせたら、本業のドラムや長い間ずーっとやってたっていうピアノの他に、何でも一通り演奏できるでしよ?

 器用だなぁ、とは思ってたけど、マネージャーの仕事って、もっと上手いのね?

 ……まるで芸能プロダクションプロのマネージャーさんみたい」


 は……ははは。


 クローバー・ジャックこと藤原 宗樹は、西園寺の敏腕執事、藤原 宗一郎の孫だもんねぇ。


 爺は『何も教えてない』とか言ってるけれど。


 ウチの執事としては必須科目な『ピアノ演奏』があれだけ上手なあたり。


 きっと他にも執事になるためのスキル……ってか、得意技?


 子どもの頃からビシバシ教え込まれてたりして。


 マネージメントって執事の基本だからして『プロみたい』なんてもんじゃなく。


 今でも、そこらのプロダクション程度で良ければ、いきなりプロでやっていける……かな。

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