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「それと、軽音部だけじゃなくCards soldier、単独でもバンドメンバーを募集する。

 ……悪りぃが、こっちの方は『音楽好きなら誰でも』っていうわけにゃいかねぇ。

 去年抜けたスペード・エースの代わりだからな!」


 そこまで言って、ダイヤモンド・キングは、自分の拳を振り上げた。


「Cards soldierメンバーは、このオレサマが決めーーーる!

 このダイヤモンド・キングより上手い自信のある、ヴォーカル!!

 腕に覚えのあるギタリスト!!

 全員まとめてかかって来ぃやぁ!!!」


 うぁ、やっぱり最後は、テンション上げるんだ……!


 いつの間にか、宗樹のピアノが止んで。


 ダイヤモンド・キングの呼びかけに、会場のみんなが『おお~~!』と叫んだ時だった。


 ガッターーーン!!!!


 実際は、それほどではないんだろうけど!


 気分的には、さっき宗樹が叩いていたドラムよりも大きく、破壊的な音が、体育館の入り口辺りから、した。


 どうやら、誰かがパイプ椅子かなんかを力任せに投げつけたらしい。


 宗樹が作った穏やかな静けさではなく、殺伐とした沈黙を作ったヒトが怒鳴った。


「スペード・エースの替わりを探すのなんて許さ、ない!」


 え……と、この声としゃべり方!


 どこかで聞き覚えが……!


 わたしも、みんなと一緒に、体育館の入り口に視線を向けて、驚いた。


 あの、朝会った金髪で青い瞳の彼が、ものすごく怒った顔をして、立っていたんだ。


蔵人くらうど!」


「蔵人・ライアンハートだ! 帰って来やがった!」


「くそ……また、顔に傷なんて作りやがって!

 今度は、どこの誰と喧嘩したんだ」


 ざわ……っと騒がしくなったヒトビトに、ふん、と息をつき。


 彼は土足で体育館に上がったかと思うと、ずかずかとステージ前まで歩いて来る。


「ライアンハート君!

 君は停学開け早々、何をしてるんだ……!」


「うるさい!!」


 止める先生たちの呼びかけに、彼はガォン! と本物のライオンみたいに咆えて、ステージ上の神無崎さんをびしっと指差した。


「スペード・エースは死んで、ない!

 必ず戻ると約束、した!

 なのになぜ待て、ない!

 新メンバーを入れて彼の帰る場所を、奪う!」


「待て、蔵人!」


 宗樹の叫びを無視して蔵人さんは、ぎらりと更に神無崎さんを睨んだ。


「よりSoul(魂)と技術の高い者を選ぶ貴様のやり方は嫌いじゃ、無い!

 でも、使えなくなった、ヤツ!

 どうして簡単に捨てる、のか!」


「……簡単に捨てる気は、ねぇよ。

 でも、スペード・エースは歌えなくなったんだ。

 本人も、早く新しい仲間を探せ、と言っている」

 

 ……神無崎さん、大人の対応。


 体育館に乗り込み、がんがん怒鳴る蔵人さんのペースに巻き込まれず、淡々と話してる……と思ったんだけど!

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