30

 思わずつぶやく、わたしの袖を、誰かがつんつんつついているのに気がついた。


 見れば。


 さっきの小柄の女の子が、目をきらきらしい星にして、わたしを見つめてる。


「ね? 今の説明して?」


 ……どうやら、わたしの嵐は過ぎ去っていないらしい。

 

「……せっ……説明しろって言われても……」


 たじたじと後さずりするわたしを彼女は逃がしてくれなかった。


「どうして、メンバーと仲良いの?

 ダイヤモンド・キングを振ったって……付き合ってくれ、って言うのを断ったってことでしょう?

 なんだってそんな、うらやましい……じゃなかったバチアタリなコトを!」


 バチアタリって! そんなコト言われたって!


「神無崎さんは、多分、別に本気でつきあえって言ったんじゃないよ?

 そもそも、今日初めて会ったし……からかっているだけだと思う」


「ふーーん? じゃあ、クローバー・ジャックの方は?」

 

「う……ううんと……」


 別にウチのコト、絶対秘密にするわけじゃないけど……


 普通の家って、使用人さんたちを束ねる執事どころか、メイドさんとか運転手さんとか料理作ってくれるコックさんっていないよね?


 ど~~考えても普通じゃない以上。


 ここでいきなり『西園寺ウチの『執事』のお孫さん』……とかって言いたくないなぁ。


 だとしたら、わたしと宗樹の関係って……なに?


 いずれ西園寺の『執事』になってくれるって言うのなら。


 わたし……宗樹の未来の永久就職先?


 うぁ……ダメだ~~


 そんなこと言ったら、絶っ~~対、誤解される。


 ん~~と、一番無難な関係は……


「えええっと……幼なじみ……かな?」


 今日まで、数回しか会ってないし、すっかり忘れてたけど!


 そんな苦し紛れの説明に、彼女は納得したらしい。


「そっか!」


 と。


 にっこり笑うと、わたしの手を取り……言った。


「クローバー・ジャックの幼なじみ、ってすごいね!

 あたし、井上いのうえ 真麻まあさ

 ぜひ、お友達になってくれない?」


 オトモダチ!?


 とっても欲しかったその関係が、手に入ったのは嬉しかったけど……!


 この流れって、ど~考えても。


『クローバー・ジャックの幼なじみである』


 わたしと、友達になりたいっていうことだよね?


 それって。


 『世界屈指のお金持ちのお嬢さま』のわたしとオトモダチになってくれていた、前の学校の星条学園のみんなと、どーー違うんだろう?


 わざわざ君去津に来たのは、そういう損得抜きの『オトモダチ』を作りたかったからのはずだった。


「オトモダチになって」


 本当は、井上さんのそんな言葉から逃げ出したかった。


 ……のに。


 結局「うん、よろしくね」って言ってしまったのは。


 やっぱりわたし、見知らぬ場所で一人っていうのが淋しかったのかもしれなかった。


………………………………



………………


 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る