第287話 毒を作るなら解毒剤を作ってからにしろ・・・その1

3月はあまり好きじゃない。


別れの季節だから。


横山高校の奈月さんもとうとう卒業だ。


「もより」

「奈月さん、お久しぶりです。それと、合格おめでとうございます」

「ありがとう。まあ、入った後が問題だけどね」


奈月さんはカネカシ大学の通信制に合格した。なんと、学校側のたっての願いで東◯大学を受験し、そちらも合格したのだけれども、当初の意思通りにカネカシ大学通信制への入学を決めた。


「ということで、卒業するけど当分この辺をうろうろするから」

「スクーリングとかないんですか?」

「一応半期に何回か東京のリアル学舎へは行くよ。あ、園舎か」


カネカシ大学は経営が非常に厳しく、廃園になった幼稚園を改装してキャンパスにしているのだ。


「まあそういうことだからバイトも続けるし。もよりもどんどんお店に来てね」

「わたしが今度は受験生ですからそんなにしょっちゅう行けませんよ」

「なら、わたしが咲蓮寺に行こうか。基本自分のスケジュールで研究するし」

「研究テーマってこれから決めるんですか?」

「うん。柿田教授につくつもりだからまあ倫理学ってことにはなるけど、わたしは当然具体的な研究成果を在学中に出すつもりだから」

「なんですか、その成果って」

「自殺の防止」

「あ・・・はい・・・」

「ちょっと、引かないでよ」

「ううん、引いてなんかいません。奈月さん、本気なんですね」

「もちろん。趣味とか自己実現のために研究するなんてまっとうな社会人の人たちに申し訳ないよ」

「奈月さんてやっぱりすごいです」

「すごくないすごくない。全部もよりと一緒に夏に東京行った時の受け売りだから。それより今日これからどうする?」


わたしたちが落ち合っているのはショッピングモールのイートインコーナー。時間は昼ちょっと過ぎたところだ。


「映画でも観ませんか?」

「おー、いいねー。もよりは何が観たいの?」


少し間を置いてから奈月さんに言った。


「『毒を作るなら解毒剤を作ってからにしろ』です」

「・・・なんだそりゃ」

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