第282話 静かなるお勉強会・・・その4
『これじゃあ勉強どころじゃないね』
『そうだね』
『帰ろうか』
『うん、帰ろう帰ろう』
『ダメ!』
ペンの動きでみんな一斉に『なんで⁈』という顔をしてわたしを見る。
『最低2時間は修行しなくちゃいけないルールなんだよ』
わたしの筆記にみんな、あーあ、という表情。
そして、再び無言でテキストや問題集に戻る。
ご住職が定型文のプラカードを掲げながらわたしたちのテーブルの周辺を歩き始めた。
『そろそろ喋りたくなってきたろう?』
無視。
『我慢は体に毒だぞ』
無視。
『これを見ろ』と掲げてヘン顔をする。
う・・・無視。
けれどもさすがにいたずらが過ぎる。こんなんじゃこのスペースでまじめに沈黙行をしようとする人まで来なくなるだろう。
ちょっとご住職に喝を入れてあげないと。
わたしはペンでノートに一気書きをしてみんなに見せる。
『・・・・で・・・どう?』
『?』
『だから、・・・・で、・・・・して、・・・・だといけるんじゃないかな?』
男子3人は激しくうんうんと頷く。
ちづちゃんも一瞬固まってしまったけれども、うん、と頷いてくれた。顔を真っ赤にして。
ご住職はわたしのノートを覗き込む。
けれども老眼の上にサングラスをしているので乱れ書かれたわたしの字が読めないようだ。
そんなご住職をよそにわたしはテーブルに肘をついて身を乗り出し、おやつに持ってきていたポッキーをおもむろに口に
ちづちゃんもそれに呼応するように肘をついて向き合うわたしに顔を近づける。
ポッキーの反対の端っこを可愛らしい唇に
ご住職が、ギョッとした顔になる。
わたしとちづちゃんはポッキーを両端からかじり始める。
徐々に近づくわたしとちづちゃんの唇。
ご住職はうろたえながら、プラカードをゴソゴソと探る。
けれども、この状況に該当する定型文など見つからないようだ。
確実に距離を縮めるちづちゃんとわたし。
ご住職はなんだかよくわからないジェスチャーを始める。
手でバツ印を作ったり、なんのつもりか唇を尖らせた後にノーノーという顔をしたり。
ちづちゃんの唇が数センチまでに迫った。
彼女の香りがする。
ちづちゃんが目を閉じた。
「こ、こら! やめんか、何をやっとるんだ!」
ご住職の大声がフロアに響き渡り、利用者が一斉に注目する。
ジローくんがご住職にゆっくりとノートを掲げて見せた。
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