第263話 クリスマス・フィードバック・サンタボーズ・・・その6
「ナッキーでーす。もよもよがお世話になりましたー」
営業用の応対をする奈月さんはいつもながらちょっと違和感がある。地はこんなキャラじゃないのに。
店内のテーブルに並んで座るサンタコスプレのわたしとメイド服の奈月さんを前に番組スタッフがインタビュー再開。
「ナッキーさんはもよもよさんの取り組みに賛成ですか?」
「賛成でーす。いじめなんてない方いいよねー」
「もよもよさんはナッキーさんに計画を話してたんですか?」
「いえ。全部話したのは今日ですね」
一般のお客さん達はこちらに注目しつつテレビに写り込まないように微妙に配慮しながらポジションどりをしている。
「ところでナッキーさんは誰かをいじめたことは?」
「えー、ある訳ないじゃないですかー。だって、わたしこれですよー」
わたしは心の中で奈月さんに手を合わせた。
奈月さんはカメラの前に白い左腕をにゅっと出す。
テーブルの上に腕を置き、手のひらを上に向ける。
そして、お風呂に入る時も決して外さない、黒のスポーツ用GPSウォッチの、ぶっといリストバンドを解いた。
しゅる、っと腕時計を外し、手首の傷をカメラに晒す。
「わたしー、中学の時までいじめられててー。リストカットしちゃったこともあるんですよねー」
奈月さんの唐突なカミングアウト。
しかも深夜番組とは言いながらも全国ネットの人気番組のカメラの前で。
スタッフも思わず動揺する。
スタッフだけじゃない。見ていたお客さんたちの空気も厳粛になる。
「だからー、もよもよにはもっと頑張って、いじめをやめさせて欲しいなー」
収録が終了してスタッフが念押しした。
「あの。2人とも顔にモザイクとかかけなくて大丈夫ですか」
「構いません」
わたしと奈月さんで声を揃えた。
「もよりはお寺のいい宣伝にもなるもんね」
「奈月さんだってキュートだから顔隠したら勿体無いですよ。そうですよね、店長」
「ああ。ナッキーのこれまでの経歴全部がうちの売りだよ。堂々と出ればいい」
わたしたちとスタッフがやり取りしてるとお客さんたちが何人か隣に立った。
スタッフに語りかける。
「たくさんの人に観てもらうために面白く番組を作るのは構いません。でも、真剣に、本気で制作してくださいね」
「僕らもどっちかっていうといじめられる側だったんで」
スタッフたちは真摯に、「約束します」、と頷いた。
わたしは肝心なことを聞いてみた。
「あの。オンエアっていつなんですか?」
「イブの深夜です」
「ほんとですか⁉︎」
よーし、ますますやる気が出てきた。
明日から辻説法の時は番組の宣伝もしてやろう。
使える武器は全て使うよ、わたしは
いじめをやめさせるためならば。
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