第237話 クマの一撃・・・その3
「これがご神木ですよ」
急な山の斜面から一旦横に向かって生え、そしてそこから曲線を描いて中空に真っ直ぐ伸びる見事な杉だった。
高さはそれほどでないはずなのに、木のてっぺんが霞んで見えないような感覚を覚える。
「寺田さんはこの木に神様がお住まいだと信じておられるんですか?」
「信じる? もよりさん、咲蓮寺さんの跡取りのあんたがそんなこと言っちゃあいけないな」
「え」
「俺が信じようが信じまいが、事実じゃないかね。神様が事実現実ここにお住まいなのは」
そう言って寺田さんはにやっと笑う。
そうだった。
わたしとしたことが、基本を徹底できていなかった。
わたしが信じるかどうかなどどうでもいいのだ。
わたしの思考など及びもつかない世界が目の前に現実としてある。
神様は、そこにおられる。
これ以上の事実があるだろうか。
「もより。清めの塩を頼む」
お師匠に指示され、わたしは斜面をよじ登って木の太い幹に塩をおかけした。
「次は
そのままの動作でわたしは御神酒をとくとくと木にかける。二段重ねのお餅をお供えして、全員で二礼二拍手一礼した。
お寺の坊主であるお師匠とわたしがこういう作法をすることを不思議がる方もいる。けれども、うちのご本尊がこうおっしゃるのだそうだ。
『神と仏と現世に現れ、人間の長久を守り給う』
神様も仏様も人間の長久をお守りくださる存在。そして、現に目の前に実在しておられる。
わたしはなんだか不思議な安心感を覚えるのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・
『◯◯山の中腹で本来この地方には生息しないはずのヒグマの死体発見。山脈を伝って越境?』
こういう三面記事の見出しが数日後の新聞に載った。
「お師匠。やっぱり近本の息がかかってたの?」
「わからん。ご本尊にお聞きしても明確にお答え下さらんのだ。まだ私たちに伝える段階ではないというご判断だろうか」
ふーん。とわたしは特に怪訝にも思わずに受け止めた。
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