第188話 夏だよ(その8)
食後、大志くんは当然、近辺の地形やら岩石やらを調べに行く。
「あの、手伝おうか?」
と、牧田さんが申し出て、大志くんも
「ありがとう。助かるよ」
と、さらっと応じた。
牧田さんが大志くんに惹かれる理由、よく分かるよ。
さて、頂上に登るのは明日の早朝なので、残りのメンバーは自由時間だ。
と言っても、周囲には大自然しかない。雄大な連峰を至近距離で観たり、高山植物を愛でたり、もいいんだけど、それだけじゃ余りにも寂しい。
「雷鳥でもいれば遊べるのに」
学人くんが言うと、スタッフさんが、
「私らも1年に何回かしか見れませんよ。それに、天然記念物なので、見るだけです。一緒には遊べません」
そりゃそうか。
「もし、時間がおありなら、ちょっとお知恵をお借りできませんか?」
そう言って、スタッフさんは、わたしたちにコーヒーを淹れてくださり、話を続けた。
「実は、今年開山してから滑落事故が何件も続きまして」
「え、そうなんですか?」
「へえー、でもニュースでそんなの言ってました?」
「滑落したのは、猿なんです」
「サル? 猿、ですか?」
「はい」
こういうことらしい。横山には休火山だがマグマは確実に下にあり、5合目の下にある露天の温泉には、冬場の猿がつかる光景がよく見られるという。ところが、今年の夏山シーズン入りから、ロッジ近辺で時折猿が出没するようになり、その内の何匹かは頂上にある神社の本殿付近にまで登ってくるという。
「本殿はご存知の通り、小さなお社で足場も狭く、人間ですと一度に10人ぐらいしか登れません。その本殿の東側斜面はいわばですが、そこから滑落したらしい猿の遺骸が10匹ほど見つかってるんです」
「落ちて死んだ、ってことですか」
「実際傾斜は30°より少しきついぐらいですべっていく訳ですが、そのスピードで岩にあちこち当たりながら行きますから、結局は死んでしまうんですね」
「誤って落ちる訳ですか?」
「それがよく分からないんですよ。野生動物ですから不注意で落ちてしまうというのも考えにくいんですが」
「うーん」
「もしかして、もよちゃんなら分かるんじゃない?」
「ちづちゃん。いくらわたしがお師匠の血をひいてるからって、猿の念とかはちょっと分かんないなあ」
「まあ、もし気が向かれたら、お調べになって下さい」
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