第165話 反転しようか(その1)

「もよちゃん、ごめんね」

「え、何? ごめんって?」


 久方ぶりに5人で机を寄せ合いお昼を食べていると、唐突にちづちゃんが言った。


「その・・・もよちゃんに冷たくしたこと」

「あー。いやー、あれは親を殴るなんて非人間的なことをしたわたしが悪いから・・・今後はできるだけ人に暴力を振るわないようにするから、怖がらないでね」

「できるだけ?」


 空くんが鋭いツッコミを入れる。一応、わたしの認識を説明しとこう。


「うーん。たとえば自分が自分の子供を叱る時、頭や顔をはたくのは絶対だめだけど、ぺちっ、て感じでお尻をたたくくらいはするかも知れない」

「子供!」


 男子3人が別のポイントに反応したようだ。学人くんがしみじみ言う。


「そっか。もよりさんもいずれは結婚するつもりなんだよね」

「え? みんなは違うの?」

「正直、俺、結婚できるとは思えなくて」

「学人くん、何でそんな風に思うの?」

「いやー、この性格に、この顔だよ? どう考えてもぱっとしないからさー」

「学人くん、顔じゃないよ」

「うん、顔じゃない」

「空、ジロー。”ぱっとしないなんてことないよー”、っていうのが正しい答えだろ!?」

「でも、結婚しない人、増えてるみたいだよね」


 あ、ちづちゃんって、時々クール。学人くんの反応を置き去りにした。

 ジロー君もちづちゃんの話題に乗っかる。


「そもそも恋愛をしないみたいだよね」

「お見合いは?」


 空くんが質問をかぶせる。


「街コンとかは一種のお見合いだったよね。でも最近はもう見かけなくなったね」


 ジローくん、結構詳しいな。


「千鶴さんは? 結婚したいって思う?」


 学人くん、勇気あるなー。ちづちゃんに振ったよ。


「うん。もちろん」

「へえー」


 あ、と。わたしが思わずこんな声出してどうする。


「だって、やっぱり女としては子育てしたいから」


 わたしは素朴な疑問を投げかけてみる。


「結婚とか恋愛とか興味ないって人はどうするんだろ。メイドカフェ行ったりとか?」


 奈月さんと、あと自分のメイド服姿をちょこっ、と脳裏に浮かべてみる。


「いや、多分それすらめんどくさいんだよ」


 隣の机の女子2人が話に合流してきた。


「めんどくさい?」

「だってさー、わざわざ外に出掛けて相手の時間に合わせて待ち合せたりさ。それだったらスマホで恋愛ゲームやってる方が合理的だよ」

「合理的ってそういう使い方だっけ」

「うーん」

「どしたの、もより?」

「まずい」

「まずいって何が?」

「恋愛もせず見合いもせず結婚もせずだと、檀家さんがどんどん減ってっちゃう。商売あがったりだよ」

「・・・切実だね」

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