第158話 2年目の春 その13
さゆり先生はそう言って、ふっと嘲笑うような顔をして続けた。
「でも、上代さんに対しては明らかに悪意を持ってますよね?」
「沼田先生」
教頭先生はさゆり先生の苗字を呼ばわる。
「沼田先生、警察に出頭して報告しない生徒は、交通事故を起こして職場に報告しない教師と大差ありませんよ」
あ、ごめん! さゆり先生の顔が蒼ざめてる! だめだ、わたしのせいで、さゆり先生まで古傷をいじられちゃう!
わたしは、ゆっくりと口を開いた。
「さゆり先生の事故は100%相手過失の、”もらい事故”、だったじゃないですか。報告しなくても何の落ち度もありません。そもそもわたしとは違います」
教頭の目を見据えるわたしの目が、今、別の何者かの目に代わった。わたしの発する言葉も自動口述モードへと変わる。
「母を殴ったのはわたしが完全に悪い。どうすればいいですか? 教頭先生のおっしゃる通りにします」
わたしが全く目を逸らさないからだろう。教頭の頬がぴくぴくと痙攣しだした。震える声でこう言った。
「自主退学、したらどうかね」
「教頭先生!!」
大声を上げるさゆり先生に驚き、わたしの自動口述モードが解けた。さゆり先生は座ったまま90°腰を曲げ、頭を下げる。
「退学だけはどうか許してあげてください。どうか、上代さんのこの先の人生を考えてあげてください。上代さん!」
教頭は怖くない。でも、この今も泣き出しそうなさゆり先生の気迫は怖い。
「上代さん! あなたも謝りなさい!」
「・・・すみませんでした」
わたしは教頭に頭を下げたのではない。さゆり先生に下げたんだ。
「いいでしょう」
教頭は打って変わって低音でこう付け加えた。
「生徒会長立候補は取り下げなさい」
・・・・
職員室を出て一緒にHRへ向かう。
さゆり先生はやや疲れた顔を向けてこう言った。
「ごめん。あなたを守り切れなかった」
わたしは首を振る。
「ううん。先生はわたしを守ってくれました。わたし、先生のこと、好きです」
「あら」
さゆり先生が立ち止る。わたしも止まる。
「嬉しい事、言ってくれるのね」
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