第139話 帰宅部の実態(その2)

 探偵事務所といえば雑居ビル、っていうイメージがあったけれども、それはきれいなマンションの1Fにテナントとして入っていた。ただし、”探偵”、なんて看板はどこにもない。

 ”㈱石田コンサルタント”、と自動ドアに書いてあるだけだ。


「あの、制服のまま入っていいの?」

「うん、別に構わなと思う。僕も学校帰りにそのまま寄ってるから」


 空くんと遣り取りしながら、


「おはようございます」


と言ってジローくんが先頭で入って行く。

 なんか、業界っぽい挨拶だな。


 ジローくんの地元の駅から徒歩3分。わたしが、”探偵物語”、なんかを想像するのと全く異なる人物像と内装がそこにあった。

 10坪ほどしかないけれどもゆったりした空間の事務所手前には簡単な応接兼ミーティング用のような4人掛けのテーブル。その奥に執務用と思われるデスクトップパソコンと固定電話が配置された事務デスクが2つ向かい合っている。右側には壮年の眼つき鋭い男性が電話の応対をしており、左側では30代ぐらいに見える若い男性がパソコンのキーボードを叩いている。

 その若い男性が、ジローくんに気付くとすぐに


「お早うございます、ジローくん。みなさん、いらっしゃいませ」


と、すぐに4人掛けのテーブルに座るよう案内してくれう。ジローくんはパイプ椅子を出して座った。


「みなさん、コーヒーと紅茶とどちらがいいですか?」


 若い男性が聞いたので、雰囲気で素直に答える。

 学人くん、空くn、わたしはコーヒー。ちづちゃんは、


「紅茶を」


と言いかけて、


「やっぱりコーヒーを・・・」


と、みんなと合わせようとしたところをその男性が、


「あ、私も紅茶派なんですよ。ですから、遠慮なさらないで」


と言ってくれた。


「じゃあ、紅茶をお願いします」

「はい。では私は紅茶を入れましょう。え・・・と」

「僕、コーヒー淹れますね」


 ジローくんはてきぱきと動いている。

 男性はティーポットを使い、茶葉から淹れる。ジローくんは保温されているコーヒーポットから客用のコーヒーカップに湯気立つ熱いコーヒーを注いでくれた。


「滝さんもどうぞ」


 電話の終わった壮年男性に若い男性が声を掛ける。すみません、と滝さんも自分の事務椅子を引っ張って来てテーブルに着く。若い男性が挨拶してわたしたちに名刺をくれた。

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