第80話 初デート? その1
学人くんが代表して訊いてきた。
「もよりさん、明日みんなでスケート行かない?」
「ごめん、明日デートなんだ」
一瞬、周囲の人間が一斉に固まったような気がした。
「え?それって、何?」
学人くんが追加の質問をしてくる。
わたしは何か理解し難いようなおかしなことを言っただろうか?もう一度言ってみる。
「いや・・・デートなんだけど・・・・」
「・・・・・・」
絶句している。
5人組のメンバーだけではない。どうもわたしに関心がありそうな男子も数人、同じように静まり返ってただただわたしの方を見ている。
けれども、一番ショックを受けているらしいのは男子ではなく、ちづちゃんだった。
みるみる涙目になっている。言葉も出ないらしい。
そのちづちゃんに代わって話をつないだのは意外にもジローくんだった。
「もよりさん。相手は、誰?」
どうやら答え方を間違えるとややこしいことになりそうだ。こう答えた。
「いやー、女子なんだけどね、相手は」
こう答えれば、なーんだ、みたいな雰囲気になるかと思ったけれども、ちづちゃんに追い討ちをかけることになったようだ。とうとうちづちゃん自らがわたしに直接対話を試みた。
「もよちゃん、それって、もよちゃんが好きな女の人なの?」
冷静に字面だけで判断するとわたしがやや偏った嗜好の人間のように捉えられてしまう。ああ、一体何が正解なんだろうと心の中で模索し始めるわたし。正直に、ストレートに説明するしかないようだ。
「横山高校の2年生で生徒会の副会長やってる人なんだけど、安藤奈月さん、ていうんだ。デート、って言ったけど、まあただ一緒に会って遊ぶだけ」
「どういう知り合い?」
知らなかった。ちづちゃんがこんなに迫力があるなんて。
わたしは薄氷を踏む思いで慎重に答える。
「ちょっとその人にお世話になった、というか、借りがあって」
「何があったの?」
「言えない・・・・」
「そう・・・分かった、もう、いい」
怖い。わたしの知らないちづちゃんがそこに居る。
わたしだってちづちゃんにあれこれと嫌な気分を味わわせたくはない。
でも、言える訳ないじゃない。
メイド服を借りたなんて。
「ちーづちゃん、機嫌直してよ」
わたしも自分の知らないわたしを前面に押し出してちづちゃんに媚びてみる。
「ね?今度ちづちゃんが行きたがってたところに付き合うからさ。ほら、オータムホテルのケーキバイキング。クリスマスが近くなったら奮発して行こうよ」
「・・・・ほんと?」
「うん。その時にちづちゃんにだけ説明するから」
「分かった。ごめんね、変な態度取って」
「ううん、全然。たまにはこんなちづちゃんもかわいーよ」
男子は全員一つも納得していない顔だけれどもこの場においてはわたしはちづちゃんに配慮する余裕しかなかった。
実はわたしはケーキが大嫌いなので行きたくないんだけれども、やむを得ない。そして、その時にちづちゃんにだけは奈月さんとのいきさつも、わたしがメイド服を着、あまつさえオーバーニーまで履いたことを自白するしかあるまい。
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