第78話 メイド服の調達法 その9
人は全員、日なたと日蔭とで生きている。
でもそれは、ポジティブとネガティブっていうそんな単純な、どこかの心理学者が言うようなおめでたい理論じゃない。
真昼の太陽が人を強く暖かに照らすものだとしたら、夜空に浮かぶお月さまは、優しく涼しげに人の心に沁み入る光。
だから、月の光のことを”影”ともいう。
ひそかな暗き人たちをも肯定する限りないやさしさ。
溢れる涙を流しっぱなしにして、わたしは奈月さんに語り掛ける。
「わたし、いつも奈月さんに優しくできるとは限りませんよ。それでもいいですか?」
こくっと彼女は頷く。
「いいよ。わたし、あなたがあの五十嵐先輩を振ったっていうことも知ってる。近隣の生徒会が集まった合同会議の時に五十嵐先輩から直接聞いた。そういうことも含めてもよりのことが気になったの。あなたは自分の思った通りに振舞ってくれればいい。会いたくない時ははっきりそう言って貰って構わない。あなたという人間が、我慢するんじゃなく、自分の意思通りに行動してそのまま人を幸せにするってことがわたしには分かる」
「奈月さん、これ、あげます」
わたしがスマホに保存しているお気に入りのものを彼女のに転送する。
「法然上人の詠んだ歌。わたしのとっても好きな歌」
ピリン。奈月さんは受信したばかりのメールを開く。
月かげの いたらぬ里は なけれども
ながむる人の こころにぞ すむ
「もより。やっぱりあなたが、ほんとに好き」
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