第72話 メイド服の調達法 その3

 日曜の午後。自転車で安藤さんのバイト先に乗り着けた。

 幹線道路沿いなのに意外と交通量の少ないエリアに店があった。

 パッと見はファミレスかな、と思うような平屋の店舗。

 駐車場には車が5台停まってる。

 ファサードには、”Made in Japan”と丸みを帯びたレタリングで店名が掲げられている。

 安藤さんから店の場所をメールで貰った時に店名を見て、

”どういうセンスだろう?”

と、はっきり思った。

 自動ドアをくぐると

「いらっしゃいませ」

と迎えられた。

”あれ?『いらっしゃいませ、ご主人様』じゃないの?”

 その後もごく普通に声を掛けられる。

「お1人さまですか?」

「いえ、あの」

 確かにその女の子はメイド服を着ている。まあ、なかなか可愛い子だと思う。口角も一応引き上げられてはいる。

 けれども、眼が笑っていない。

 わたしはごく事務的に質問する。

「安藤さん、いらっしゃいますか?」

「安藤?」

「安藤奈月さんです」

「あ、ナッキーですね。少々お待ちください」

 くるっ、と彼女は店内に振り返り、

「ナッキー、ご指名でーす!」

と、1オクターブ高い声で呼びかけた。眼は笑わないまま。

「いえ、あの・・・」

 指名じゃないです、と言おうとしたけれども、

「ナッキーでーす・・・って、ジョーダイさん?」

「はい」

 奈月さんはとても細身だった。

 小柄だけれども体の各パーツのバランスが整っているので実際の身長以上に高く見える。

「まあ、座って座って」

 促されて店の中ほどのテーブル席に着く。

「何か注文しなよ。サービスするから」

「いえ、そんな」

「いいからいいから。わたしのお薦めは”甘さ極限かぼちゃプリン”かな」

「すみません、じゃあそれを」

「飲み物はジョーダイさんの雰囲気からしてコーヒーかな」

「はい、コーヒーを」

 たたっ、という感じの歩き方で厨房にオーダーに行く。

「”甘さ極限かぼちゃプリン”とホットコーヒーでーす」

「かしこまりましたぁー!」

 なんか、イメージと違うなあ。表情にも疑問符が出ていたのか、奈月さんの方から説明してくれた。

「普通のカフェっぽいでしょ」

「はい。何か、意外でした」

「オープンした最初はね、”ご主人様ぁ”ってやってたんだよね。でも、こんな地方都市だと、かえってお客さんが恥ずかしがって人が全然来なくなったから、制服とメニューだけそのままにして、接客は普通にしようってことになったんだ。経営者のやむにやまれぬ判断。だからまあ、メイド風喫茶店っていうことだね」

「ああ、何となく分かります」

「ジョーダイさん」

「もより、でいいですよ」

「分かった。わたしのことは奈月って呼んで。んで、もより」

「はい」

「メイド服、着てみよっか」

「え?今ですか?」

「だって、サイズ合わせないと。もよりは背、高いからちょっと大変そう」

「そっか。そうですよね」

「プリン食べたらちょっと更衣室行こうか」


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