第57話 文芸館/4Live その2

 文芸館に来るのは久しぶりだし、平日に来るのはもっと長いこと振りだ。

 お昼過ぎのこんな早い時間に来たのは初めてかもしれない。

 この県唯一のデパートがあるアーケードの中程、ビルとビルの隙間のスペースに自転車を停める。そして表は地場野菜を売るお洒落な店、裏通り側は文芸館の上映メニューがモニターに映し出されている。その裏からビルに入る。

 裏側はいわゆる雑居ビル。このビルには他に調理専門学校が入っており、20歳ちょっと前のお兄さんお姉さん達が出入りしている。

 文芸館は2階だ。

 わたしは定員5名のエレベーターに乗り込み1つフロアを上昇する。

 階段はあるといえばあるのだけれども、屋外に出た非常階段なのだ。

「いらっしゃいませ」

 カウンターには1人しかいない。なぜならスクリーンが1つしかなく座席数も150のいわゆるミニシアターなのでスタッフの総数がそもそも少ない。必然、観る映画も選択の余地は無い。

 今日は2本立てだ。

 スティーブ・マックイーンの”ブリット”と、松田優作の”ア・ホーマンス”。

 この2本立てであることに一体何の脈絡があるのか分からないけれども、

「渋すぎる・・・」

 思わず呟いちゃった。

「高校生1枚お願いします」

 学割で千円。学生証を出そうとすると、ショートカットのスタッフから制された。

「大丈夫ですよ、そのままで」

 制服を着てるから一目瞭然ですよ、と言ってくれた訳だ。コスプレかもしれないっていう発想は普通持たないだろうし、平日の昼間に制服でうろうろしてても別に何とも思われないみたい。

 待合室はスクリーンの客席外をコの字で囲む通路。ベンチと灰皿が置いてある。

 ポップコーンもホットドックも売っておらず、あるのはポッキーとポテトチップス。パンフレットを売ってる”売店”にある。

 後はタバコの自販機と紙コップのコーヒーベンダー。80円入れてホットココアの紙コップを掌で包む。

 居合わせたのは3人だけれども余程ヘビースモーカーなのか、タバコの煙が充満してる。灰皿に短くなったのを押し当てるとすぐに次のタバコに火を点けてる。酸素ではなく煙で呼吸してるようだ。

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