第53話 ジャンル分けに関する考察 その9
「寛政の地震の時、観音様が横山の麓の地面から姿を現して震災を防いでくれたという話は?」
「ええ。知ってます。法華経に地誦湧出品というパートがあって、それを重ね合わせた伝説かな、と思ってたんですけど」
「僕は事実、観音様が現れたんだと思ってるんですよ」
「え?」
境くんはにこにこと話し続ける。
「現象としては岩盤の隆起だったかも知れないですけど、どの地震学者や地質学者もその伝説は切って捨ててるんです。あの地質や条件ではそういう現象は起こり得ないと。単に信心深い民衆が信仰心を深めるための作り話だろうって。でも学者の説だけじゃ説明のつかないことが横山の研究には結構あって。夏休みに横山にある博物館とか県の中央図書館で横山の伝説や信仰に関する本を読みまくったんですよ」
「境くんて、変わってるね」
「ジョーダイさんに言われたくないよ」
ここから打ち解けた口調になり、笑い合った。
「僕は伝説や信仰の方が、事実起こった現象をありのまま受け止めて書かれてると思う。隆起した岩盤の形はただの岩だったかも知れないけど、本質はまさしく観音様の意志でせりあがった岩だと思う。人間の常識じゃあり得ない現象をストレートに理論化して受け止めた。その時代の人たちの方が、現代の学者よりもはるかに科学的かもしれない」
「やっぱり境くんって変わってる」
「それって褒めてくれてるんだよね?」
「もちろん。境くんみたいな人にこそ科学をリードする学者になってほしい」
彼は頭をかき、ちょっと照れている。
「まあ、共感してくれる人は少ないけどね」
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