第38話 わたしを見て その10

「上代さん、大丈夫か?」

 座り込んで右足のアキレス腱を伸ばしていると先生が駆け寄って来た。

「大丈夫です・・・足が、つりました」

 苦笑いして答えると先生が腰を曲げて頭を下げる。

「すまなかった。無理させたな」

「いえ・・・・楽しかったですよ!」

 わらわらと他の男子女子も集まって来て、女子は次の800m走、男子はストレッチのためにまたわらわらと去って行った。

「ジョーダイさん」

 気が付くと佐古田くんが目の前に立っていた。

 逆光のシルエットになっている彼をわたしは眩しく見上げる。

「ジョーダイさんのお蔭で自己ベストを10秒も更新できたよ。県記録にはもうちょっと足りなかったけど」

 わたしは笑顔で、うん、と頷く。

 そう。

 今の彼はわたしを好きだっていう感情を滲ませたいつもの顔に戻ってる。

 ちょっと考えたけれども、わたしは握手の右手を差し出した。

「こっちっこそ、ありがとう。楽しかった」

 佐古田くんはびっくりしてたけれども、わたしの手を受け容れてくれた。

 わたしはそのまま立ち上がる。彼は恥ずかしそうに握手を解く。

「陸上部、入りなよ。2人で練習したら、インターハイ狙えるよ」

 答えず、ふふっ、と笑う。

 男の子と手をつないだのって、幼稚園の時以来だな。

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